2023年05月24日
(聞き手:佐藤巴南 正木魅優)
最近、台湾をめぐってアメリカと中国が対立しているかのようなニュースをよく見聞きするけど、いったいどうしてなの?
台湾、中国、アメリカの関係について、1からわかりやすく解説します。
学生
佐藤
中国はこれから台湾をどうしていきたいんでしょうか?
中国(中華人民共和国)は早く台湾を統一したいと言っています。
逵
支局長
逵 健雄(つじ たけお)台北支局長
2005~2008年に台北支局、2013~2016年に中国総局(北京)に駐在。2020年からは再び台北支局長を務める。台湾、中国双方で取材した経験から中台米の関係を見つめてきた。
どうしてですか?
歴史的に、台湾はもともと中国の領土だったからというのが中国側の主張です。
清朝の時代、台湾は清の支配下にありました。
日清戦争で敗れたことで台湾を日本にとられ、その後は中国大陸から逃げ込んだ蒋介石が台湾を支配して、いまだに中華人民共和国がおさえられないままになっている。
元々あそこは中国のはずだから早く中国にしたいと。そういう気持ちで必ず統一すると言っています。
学生
正木
中国の主張はずっと変わっていないのですか?
そうですね。1949年に毛沢東が中華人民共和国をつくったときから一貫して、台湾を早く統一するという目標を持っています。
ただ当時は国力が弱かったので、台湾を攻めて取ってしまう力はなかったんです。
その後、どんどん中国の力が強くなってきて、軍事力を使って台湾を統一するという構えもみせています。
軍事力を使ってですか…。
ただ中国も戦争をすればたくさん犠牲が出ることはわかっていますし、できれば平和的な手段で統一したいとも言っています。
習近平氏はどう考えているのでしょうか?
習近平氏は2012年に最高指導者になった翌年の2013年に行われた国際会議の際、台湾の代表と会談した時に「長期にわたる政治対立を次の代へと引き継ぐわけにはいかない」と言っています。
要するに、「自分の時代に台湾を統一する」と言っているんですね。
台湾側はそれをどう思っているのですか?
警戒を強めています。
中国の国防費(防衛費)は台湾の十何倍にもなっています。まともにぶつかったら台湾は勝てない。
しかも、習近平氏の時代になってから、台湾に対するプレッシャーが強くなってきています。
去年(2022年)の8月にアメリカのペロシ下院議長が台湾に来たのをきっかけに、中国軍が台湾の周りで大規模な軍事演習をしました。
ミサイルも飛ばしたし、台湾を包囲するような形になったのですが、それを見て台湾の人たちも、危機のレベルが上がったと感じているように思います。
さらに、去年2月にロシアがウクライナに侵攻しました。誰も予想しなかったことが起きましたよね。
こんなことが起きるのなら、台湾にも隣から大きな中国が攻めてくるのではないかと、そういう心配は増えましたね。
もしものときに台湾が頼りにできる国はあるのでしょうか?
軍事的にはアメリカです。
アメリカ政府は、中国が武力で台湾統一をはかろうとした場合の対応をあらかじめ明確にしないことで中国の行動を抑止する「あいまい戦略」と呼ばれる戦略をとってきました。
しかし、バイデン大統領は「中国が台湾に侵攻したら、アメリカは軍事的に対応する」と、記者会見やテレビ局のインタビューで何度か答えています。
台湾の人たちは「アメリカ軍は来てくれるだろう」と期待する人もいるし、「ウクライナへの支援のように武器とかはくれるけど、来てはくれないだろう」と思う人もいます。
アメリカが台湾を支援する理由はなんですか?
1949年に共産党の毛沢東が中華人民共和国をつくり、国民党の蒋介石が台湾に逃げた時から、ずっとアメリカは台湾が共産党に支配されないようにサポートしてきました。
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目指せ!時事問題マスター 1からわかる!台湾(1)台湾と中国の関係は?
2023年05月17日
当時、蒋介石は独裁政権だったんですが、アメリカは反共産主義という点で台湾の防衛を助けました。
その後、台湾が民主化されて、いまは民主主義を守るという点でも非常に大事な場所になっています。
台湾への支援は70年以上も前から続いてきたんですね。
特にアメリカの民主党政権は、民主主義を重視しています。
ウクライナへのロシアの侵攻もバイデン大統領は「“民主主義”対“権威主義”の戦い」という言い方をしています。
この地域に当てはめると、民主主義は台湾、権威主義は中国というわけです。
だから民主主義を守るという点でも台湾を応援しないといけないとなっています。
そしてもし中国が台湾に軍事侵攻したときにそれを許してしまうと、日米安全保障条約を結んでいる日本や、同じように同盟を結んでいるフィリピンに「何かあってもアメリカは守ってくれないのか」と信用されなくなります。
ほかの同盟国との関係にも関わってくるので、台湾をサポートする姿勢を見せていると思います。
なるほど。
以下の地図を見ていただいきたいのですが、軍事的な観点で言うと、日本列島の九州・沖縄、台湾、そしてフィリピンのラインは重要です。
チェーンのようにつながっていますが、中国から見ると、このラインが太平洋に出ていく時のフェンスみたいになっているんですね。
中国は台湾を取ればここに穴が開いて、太平洋に出やすくなります。
逆にアメリカから見れば、台湾を取られてしまうと、中国が簡単に太平洋に出てこられるようになる。
そういう意味でもこの第一列島線と言われるライン上にある台湾は、アメリカにとっては守らないといけない場所になります。
また経済の側面からも、台湾は安定していたほうがいいと考えられていると思います。
台湾の半導体は、受託生産が世界一で、技術は世界トップレベルとされています。
特により高度な計算を可能にする先端半導体の生産は世界シェアの9割を占めます。
新型コロナの感染が拡大したころ、世界的な需要が増加したことなどもあって半導体が大幅に不足して、自動車、スマートフォン、ゲーム機、家電などいろんなものが作れなくなりました。
改めて半導体の大切さ、生産力のある台湾は大事だということに、アメリカやヨーロッパ、日本の人たちが気づいたんです。
「半導体は産業のコメ」って習った気がします。
TSMCという半導体メーカーは、台湾では「護国神山」と呼ばれています。
台湾の中央には上陸した台風の勢力を弱める高い山脈があるのですが、TSMCも国を守る山のような存在だという意味です。
大切に思われているんですね。
そうですね。台湾はずっと30~40年ぐらいかけて半導体産業を育ててきました。
現在の世界最先端の3ナノメートル(ナノは1ミリの100万分の1)の製品を生産したり、さらに精度が高い2ナノメートルの開発も行うなど他国をリードしています。
半導体が中心産業になったことが、結果的に台湾の安全保障に役立つという状況になってきました。
台湾の人たちはいまの状況をどう思ってるんですか?
その人の政治的な立場によっても違うと思うんですけども、「アメリカ一辺倒で中国と対立したままだと危ない」と思う人もいます。
一方で、「中国は本当に信用できるんですか?」という人もいる。
なぜ台湾の人が中国を信用できないかというと、香港を見ていてそう思うんですよね。
香港は、1997年にイギリスから中国に返還されました。
そのときに「50年間は香港の資本主義を守ります。言論の自由や報道の自由は従来通り守られます」という約束をしたんです。
しかし2019年、犯罪容疑者を中国本土に引き渡すことができるようにする条例改正案に大規模な反対運動が起きたときに、中国の支持を受けた香港の警察が抑え込んだんです。
批判する新聞社などは潰され、逮捕される人もいました。
50年の半分もたたないうちに、約束がほごにされたんです。
そんな。
台湾の人からすると、中国が「平和的に統一しましょう」「台湾の民主主義を守ります」と言っていても、「その約束は守られないのではないか」という不安がぬぐいきれないのです。
アメリカと中国のはざまで難しいかじ取りを迫られる台湾。来年(2024年)には総統選挙が予定されていますが、今後台湾のどういうところに注目していったらいいのでしょうか。次回、詳しく解説します。
編集:岡野宏美
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