2022年12月15日
(聞き手:佐藤巴南 藤原こと子 本間遥)
宇宙ビジネスで欠かせないのが人や衛星を地上から宇宙に運ぶロケット。いま、開発競争の激化に加え、価格競争も激しくなっています。民間企業の台頭、各国の争い、火星を目指す動きまで?ロケット開発の最前線、1から聞きました。
民間でロケットを打ち上げているところはどんなところがあるんですか?
アメリカのイーロン・マスク氏のスペースXやアマゾン・ドット・コムの創業者のジェフ・ベゾス氏のブルーオリジンが有名です。
日本では実業家の堀江貴文さんが創業した企業などがあります。
教えてくれるのは、水野倫之解説委員。宇宙に関わる取材を始めて20年余り。宇宙からリポートしたいと過去にJAXAの宇宙飛行士試験にも応募したことがある宇宙のスペシャリストです。
IT業界が結構多いのはどうしてですか?
業種が近いというよりはITで財を成した人がやってるっていうところがありますね。
やっぱりお金…
全くお金がないとなかなか難しいのはそうですが、でもベンチャーを起こす人ってやっぱり発想はもう全然違うんで、宇宙には向いてるかもしれない。
例えばイーロン・マスク氏は火星を目指していて、2018年には火星にむけたロケットも打ち上げています。
どういうことですか?火星に行く意味がわからなくて…。
彼は人類というのは地球だけが住みかでなくて、多惑星種なんだからいろんな惑星に住むのが人類なんだという考えがあって。
あと温暖化とかいろんな問題で住めなくなった時に人類は滅びていいの?と、その時に月や火星に人が残ったら、そこで種が絶えることはないよねと。
その発想が理解できる人は少ないと思うんだけど。
最終的には火星を住む場所にしようとしている?火星がクリアできたら最終的には月も?
それは逆です。最終目標が火星ですね。彼の一番の目標は、火星に100万人都市を作ることだそうです。
ただ月は数か月もあれば行って帰ってこれるけれど、火星は行って帰ってくるのに1年とか2年かかるから、それだけ遠いんで。まずは月で練習してっていうイメージですね。
日本の民間企業で火星を中心にしたビジネスを行っている企業はあるんですか?
そこまではないけど、火星より近い月を舞台にしたビジネスの構想はたくさんあるんです。
月面に人口何十万都市をつくろうという構想があるのですが、それが実現すれば地球と月の間の物資の輸送がビジネスになる。
それを見込んで日本のベンチャー企業が月に輸送するための着陸船を開発し、12月11日にアメリカのロケットでの打ち上げに成功しました。来年4月に民間として初の月面着陸に挑みます。
異業種も注目していて、トヨタ自動車をはじめとした自動車業界では、月面基地ができたら月面で車を走らせることもあるんじゃないかと考えている人もいて。
形状も普通の車で、車内では宇宙服を着ずにTシャツで大丈夫というような月面探査車の開発が進められています。
タカラトミーも変形ロボットなどのおもちゃ作りの技術を生かした月面探査ロボットを開発しました。
打ち上げに成功したベンチャー企業の着陸船で月へ向かっています。
正直、夢物語のようにも感じてしまいます。
でも、火星を目指しているのは民間企業だけじゃないんですよ。
といいますと?
国家プロジェクトがいくつも立ち上がっていて、国も火星を目指しているんです。各国の中でも宇宙大国のアメリカと中国は本気です。
月や火星の先を越されると、宇宙基地が建設されてそこから攻撃されるかも知れない。言い換えれば宇宙の覇権を握られてしまう。これは何としても避けたいわけです。
ビジネスにも欠かせない衛星を使ったGPSなどの位置情報は、もともとミサイルの誘導など軍事面で開発されていて、宇宙の覇権を握られてしまうともう地上で戦えなくなっちゃうんですね。
それは本気にもなりますね。
いま、アメリカが主導して、人類を再び月面に着陸させるアルテミス計画が進められているんですが、これもその先には火星に有人着陸することを見据えています。
2025年に、初めてアメリカの女性宇宙飛行士が降り立つことになっています。
日本も計画に参加していて、2020年代後半に日本人を月面に立たせたいとしています。なので去年は13年ぶりに宇宙飛行士の募集が行われて、今選考中ですね。
夢が現実になっていっていますね。
ロケットってそもそも打ち上げて欲しいという需要があるんですか?
そうなんです。宇宙旅行する宇宙船も人工衛星も宇宙に打ち上げないと使えませんから、安く宇宙まで運んでくれるロケットが求められているんです。
堀江さんたちも需要に目をつけて安く打ち上げられるロケット開発を進めているんです。
年に人工衛星が何百基も打ち上がるんだから絶対にロケットが足りなくなるんだと。
なるほど。
宇宙用部品って強い放射線や激しい寒暖差に耐えるために専用の部品を作るんで普通はものすごい高いんですよ。
民間がそれやったらとてもじゃないけどやっていけないんで、堀江さんたちはどう考えたかというと、市場に出回っている民生品でも宇宙で使えるものあるんじゃないのって。
5年前に取材で北海道の拠点に行ったら元農業協同組合のガレージみたいなところで作業してて。
ヤフーオークションで買った工作機械をつかって、部品は秋葉原で買うとかで価格を安く抑えていました。それでもロケットが作れるんです。
もうばんばん打ち上げているんですか?
まだ宇宙にちょっとだけ顔出すぐらいの、高度100キロ程度のロケットしかありません。
いまは紙飛行機とかアダルトグッズを宇宙に飛ばしています。これは宣伝目的でもありますが、政府のロケットではありえない民間ならではの発想ですね。
衛星を上げるには高度400キロぐらいまでいってポイって衛星を分離しないといけないので結構大変です。
来年以降ちゃんと衛星が地球の周りをまわるように打ち上げられるロケットにしようと開発を進めているところです。
世界のロケット開発の現状はどうなっているんですか?
ロケット開発は、アメリカを中心に進んでいるのが現状です。
ことしのロケットの打ち上げ回数を見ても図抜けています。中国とロシアがそれに続く形ですね。
どうしてアメリカが?
宇宙開発の歴史が長く、技術者も多いということが1つ。
もう1つは、20年ほど前に行った方針転換です。
これまでロケット開発は国が主導して行ってきましたが、一部を民間に任せることにしたんです。これが功を奏しました。
具体的には、どういうことですか?
すでに技術が確立している低い軌道に向けたロケット開発を民間に任せる。
技術的なハードルが高くリスクも高い地球からおよそ38万キロ離れた月や、さらに遠い火星を目指すロケット開発は国が行うこととしました。
そして単に方針転換しただけではなくて技術も提供するし、宇宙船の開発など仕事を発注することで間接的に資金も支援しています。
狙いはなんですか?
民間の参入を促し、いわば民間の力も借りることで開発を促進しようとしたわけです。
そして実際にこの2、3年で花開きました。
この方針転換で最も大きく成長したのが、イーロン・マスク氏が率いるスペースXです。
火星を目指している企業ですね。
ロケットは使い捨てというのが常識で海や砂漠に落下させているんですが、ベンチャー企業らしく発想を転換して一部を再利用できるようにすることで価格を抑えたとしています。
ロケットがゆっくり地上に戻ってくるようにしたんですね。
大型のロケットではスペースXが多くのシェアを占めていて、一人勝ちです。
日本人最多となる5回目の宇宙飛行で若田光一さんが搭乗した宇宙船、その打ち上げに使われたロケットもスペースXが開発したものです。
堀江さんが開発を進めている小型ロケットでもアメリカのベンチャー企業がもうすでに何回も打ち上げに成功させています。
日本の現状は?
残念ながら出遅れています。
日本のいまの主力の大型ロケット「H2A」は打ち上げの成功率が98%と世界最高レベルで、これまでに1回しか失敗していません。
はやぶさ2の打ち上げにも使われました。
それなのにどうして出遅れているんですか?
打ち上げにかかる費用が課題になっているんです。
H2Aは1回の打ち上げに100億円かかるのですが、スペースXのファルコン9というロケットは65億円ほどです。
かなり大きな差ですね。
衛星をロケットであげてほしいと思ったとき、やはり安い方を選びますよね。
ファルコン9はかなり安く、世界で最も売れています。
日本のロケットは、世界一信頼性は高いけど世界一高いので、なかなか売れないんです。
価格を下げることはできそうなんですか?
日本はH3というロケットの開発を進めていて、それはファルコン9の65億円を下回る50億円を目指しています。現在の半額にすると。
ただエンジン開発でトラブルが続いていて、開発は2年遅れています。ようやくめどが立って、来年3月までに初号機が打ち上げられる見通しです。
挽回してほしいですね。
ただ、この2年間の間に地上で起きたことがあって、ウクライナ危機でロシアが各国の衛星の打ち上げを事実上拒否したんです。
ロシアは年間20回ぐらいロケットを打ち上げていたので数十基の衛星の行き場がなくなり、日本に問い合わせが来たんですが、トラブルでまだ打ち上げられない。
せっかくのビジネスチャンスをものにできませんでした。
日本の小型ロケットの打ち上げが失敗したというニュースも見ました。
今回失敗したイプシロンロケットは世界で盛んな小型衛星を使ったビジネスの需要をねらって開発されたんです。
そうだったんですね。
これまで5回の打上げはいずれも成功していて今回初めて日本のベンチャーの衛星を受注し、ビジネス拡大の足掛かりにしようとしていただけに、出鼻をくじかれた格好になったわけです。
海外からは日本のロケットは信頼性が高いという評価を得ていただけに、衝撃が広がっています。
ここでもたついていると需要のほとんどを奪われ太刀打ちできなくなりかねないので、遅れをとらないようにスピード感をもって対応してほしいです。
最後にずばり、宇宙ビジネスはどうなっていくのでしょうか?
いまのところ、技術や人材の蓄積があるアメリカ中心に進むと思います。
日本も蓄積してきた技術をいかして、アメリカに置いて行かれないように、スピード感をもって取り組みを進めてほしい。
いま地上のくらしを豊かにする手段として宇宙が使えるっていうことがだんだん分かってきてそれでみんな参入し始めているという感じです。
将来的には火星とか月とかあるかもしれないけどまだまだ地球の周辺のところなので、それをうまく使えば生命、人の暮らしを守るのに役立つかもしれません。
世界ではあまり目を付けていない所で日本の技術もきらりと光っているので取り残されないように動きは早めてほしいと思います。
撮影:幕内琴海 編集:種綿義樹
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