2023年05月10日
(聞き手:梶原龍 徳山夏音 西條千春)
SNSでの何気ない投稿が、個人や社会に大きな影響を及ぼす時代になっています。
インターネットから情報は消せる?ひぼう中傷は減らせる?情報開示は?法律やルールも変わっていく中で、私たちはどうネットやSNSと向き合えばいいのか、解説委員に聞きました。
学生
梶原
「デジタルタトゥー」という言葉を最近よく耳にするようになりました。
話題になった飲食店の迷惑動画だけではなく、個人に関するいろいろな情報が安易に投稿されていますね。
三輪解説委員
デジタルタトゥー
ネット上で公開された投稿は、拡散されると消し去ることが困難なため、入れ墨に例えて「デジタルタトゥー」と呼ばれている。
インターネットは基本的に情報を公開するためのシステムなので、名誉なものも不名誉なものも拡散されてしまいます。それは検索エンジンの性能が高いからという理由もあります。
なので「忘れられる権利」が議論されるようにもなりました。
教えてくれるのは、三輪誠司解説委員。ITやサイバーセキュリティーが専門。警察取材に奔走した若手記者時代に、ハイテク犯罪への関心を高める。SNSの適切な利用のほかネット依存やいじめについても解説している。
ネット上に掲載された、自分が望まない個人情報について、検索結果を表示できないよう、検索エンジンの運営会社に求めることができる権利のことです。
学生
徳山
消したい過去をネット検索から消せるんですか?
大きくとらえれば、そうです。
例えばですが、軽微な罪で逮捕されて実名が報道されたような場合に、それがずっとネットに残ってしまって、そのあと一生、社会生活に影響が出てしまうのはどうなのか、という議論です。
2014年にEUの司法裁判所が権利として認め、グーグルは削除の申し出を受けつけるホームページを設けました。現在はEU域内に限って適用されています。
学生
西條
日本でも議論されているんですか?
きちんとした権利として認めるという方向の議論にはなっていません。
ただ、ネットの書き込みをめぐる裁判は多数あり、最高裁は2022年、ある男性の逮捕歴に関するツイッターの投稿を削除するよう命じる判決を初めて出しました。
一方で、ネットの書き込みが簡単に削除できるようになると、当事者の訴えだけで情報が削除され、事実上の検閲になるとして、表現の自由や知る権利を重視する立場からは反対の声もあります。
確かに。みんなが消してしまうと、都合のいい情報しか残らなくなりますね。
例えば社会的に関心の高い事件や、病院が重大な医療ミスをしたといった情報が全部検索で出てこないようになってもいいのか。
最高裁も「表現の自由」よりも「プライバシーの保護」が明らかに優先される場合に削除できるという基準を示していますが、具体的な条件は示されておらず、削除のハードルはまだ高いです。
個人への批判やひぼう中傷の投稿も多く目にします。
ネットやSNSでのひぼう中傷の被害は深刻化しています。
2022年に侮辱罪が厳罰化され、法定刑の上限が引き上げられ懲役刑や禁錮刑などが加わりました。
対策強化の議論が加速したきっかけになったのが、木村花さんの事件でした。
2020年5月、民放のテレビ番組に出演していたプロレスラーの木村花さんがSNSでひぼう中傷を受け、22歳の若さでみずから命を絶ちました。
厳罰化で、ひぼう中傷は減らせるのでしょうか?
厳罰化しただけでは、減らすことは容易ではないと思います。
悪いことをしている意識がなく、「自分は正しくて相手が間違っている」「許せない」という感情で投稿しているのです。
だから、感情のままに書き込んで人を否定してはいけないという教育が必要です。
厳罰化以外に対策は強化できないのでしょうか?
被害者が投稿者の情報開示を速やかに進めることができる法律も2022年に施行されました。
これまでは被害者が訴えを起こす際、SNSの運営会社と投稿者が利用する接続業者それぞれに裁判の手続きが必要でしたが、一体的な手続きで投稿者の開示が可能になりました。
ここでのポイントは言論の自由を侵害しないかという点です。
線引きが難しそうな気がします。
そのとおりです。
例えば政治家が選挙前に、自分への悪評を削除したり検索されたりしないようにする申し立てについて考えた時。
「公人」に対する批判をすべて封じ込めるのが適切とは言えません。
被害者を守る取り組みが強化される一方で、企業や政治家に対する意見表明が抑え込まれることにならないか、慎重な議論が必要です。
なかなか規制するのは難しそうですね。
自由に書き込めるネット上で抑止力が働くことはあまり期待できません。
だから運営する事業者側が対策をより強化していくことが求められます。
今、事業者側はどう対応しているんですか?
SNSには、すべて利用規約があり、他人を傷つける書き込みを続ける人の利用を停止したり、書き込みを削除したりできるとしています。
しかし、ひぼう中傷の被害が深刻化している現状を見ると、規約は形骸化していると言われても仕方がない状態ですね。
子どもの頃からの教育が大切なのでしょうか?
ネットトラブルの相談を受けている相談員の人たちに聞きましたが、ご自身の家庭ではしっかり管理していると話していました。
子どもの頃から「インターネット・リテラシー」を学ぶことが重要になってきていると感じます。
また、ビル・ゲイツ氏やiPhoneを開発したスティーブ・ジョブズ氏も、自身の子どものネット利用を制限していたと現地紙の取材に答えています。
自分で正しく利用できるのは何歳ぐらいからだと思いますか?
脳の発達のスピードに関する研究などでは、18歳までは野放しはよくないとされています。
研究では、子どもや若者は脳の中で衝動的な行動を抑える働きをする前頭前野の発達がまだ十分ではないために、楽しいなと思ったら感情に行動が左右され、衝撃的に動きやすいと。
脳の機能は20代までかけて強くなっていくということらしいんですよね。
判断能力の未熟な青少年が裸を「自撮り」することなどによる児童ポルノ事件の増加を受けて、警視庁や東京都が協議した場(東京都青少年問題協議会)でも、同じ指摘がありました。
10代の中高生が自らブレーキをかけることは、そもそも難しいんです。
学校でも端末が1人1台与えられて、授業でも使いますが、ネットやSNSの使い方をしっかり制限していけるのでしょうか?
これからの時代、デジタル分野に強い若者を養成する必要はあります。
ただ、そのことと、SNSを野放しに使わせることとは、ちょっと違っていますよね。
スマホやパソコン、イコールSNSの端末だという認識もあるかもしれませんが、そうではありません。
子どもの年齢と成長に合わせた使い方があり、一定程度の年齢に達するまでは保護者が付き添ってあげないといけないですね。
ネット上の投稿は軽い気持ちによるものであっても、人の命を奪いかねない凶器になることがあります。
私が伝えたいのは、ネットやSNSをあまり特別なものだと思わないほうがいいということです。
手紙や電話、地域の掲示板の延長ですよ。
匿名だから何でも発信してもいいや、匿名だからひぼう中傷してもいいや、ということにはなりません。
投稿の前に一度立ち止まる。1人1人が自分と向き合ってほしいなと思います。
ありがとうございました。
撮影:芹川美侑 編集:林久美子
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