2023年01月26日
(聞き手:梶原龍 佐藤巴南)
私たちの身近なモノの値段にも大きく関わる円の値動き。急激に円安が進んだかと思いきや、今度は円高方向に動いています。
この先はどうなるのか、その大きな流れを決めるのは「アメリカの金利の動き」なんだそう。「おはBiz」のキャスターを務める経済部の安藤隆デスクに今後の見通しについて聞きました。
学生
佐藤
円の価値って「1ドル=110円」くらいで、あまり動かないイメージだったんですが、こんなに急に円安や円高になるものなんですか?
たしかに、去年のはじめまでの5年くらいを見ると、あまり動かなかったイメージがありますね。
安藤
キャスター
でも、市場関係者の間では、逆にこの期間が記録的に動かなかった期間だったと言われているんです。
教えてくれるのは経済部の安藤隆デスク。記者として金融の現場を長年、取材。現在はNHK「おはよう日本」の経済コーナー「おはBiz」でキャスターを務め、経済情報を解説している。
例えば、今から10年ほど前は1ドル=80円前後で推移していました。
2011年10月31日に1ドル=75円台と最高値をつけた時には、今とは逆で円高を食い止めるための市場介入があったほどです。
記録的な円安を食い止めようと政府・日銀が行った「市場介入」については「1からわかる!円安・円高(2)」で紹介しています。
そんな時もあったんですね…。
円が高いということは、海外から商品を輸入する際、今よりもずっと安い値段で仕入れることができますよね。
だから当時、輸入品の値段が下がるというのは生活実感としてありました。
例えばスーパーでは「円高還元」と銘打ったセールがよく行われていました。
海外旅行も今よりは行きやすかったんじゃないでしょうかね。
このように円の相場は動くものだと思っておいた方がいいと思います。
学生
梶原
ニュースで円安から少し円高方向に戻る動きがあったと見聞きしますが、この先はどうなるんでしょうか。
正確に答えるのは難しいのですが、大きな流れを決めるのはアメリカの金利の動きです。
つまり、アメリカが「金利を上げ続けている状態をいつ止めるか」ということです。
アメリカは「インフレ」と呼ばれる物価の上昇が続く状態を抑えるために、金利を上げ続けています。
円安の最大の理由と言われる日米の金利差について「1からわかる!円安・円高(1)」で詳しく紹介しています。
言い換えれば、このアメリカのインフレがどこで落ち着くかにかかっているんですね。
ただ、アメリカもこのまま永遠に金利を上げ続けるわけにはいきません。
多くの市場関係者は、2023年のどこかのタイミングでは、アメリカが利上げを止めると見ています。
そうすると、日本とアメリカの金利の差が縮まることにつながるので、より円高・ドル安の方向に進む可能性もありますね。
なるほど。
また、市場は常に先を予測して動く傾向があります。
だから実際にアメリカの利上げが止まっていなくても、「あと数か月たてば止まるんじゃないか」という予測を立てる人たちが増えてくると「円安ドル高」という大きな流れが変わっても、おかしくはありません。
一方で、流れが変わるには、アメリカの動きを待つしかないと…。
そうですね。いまの円安ドル高の一番の理由がアメリカの利上げなので、その変化を待つしかありません。
日本以外の国はどんな状況なんでしょうか。
大きな傾向としては、世界中を見渡してもアメリカのドルだけが強いという状況です。
下の図は、ドルに対して、それぞれの国の通貨がどのくらい上がったのか、下がったのかを示してるものです。
ご覧のとおり、多くの主要な通貨がドルに対して値下がりしているんですね。
ほとんど値下がりしたんですね。
ロシアによるウクライナ侵攻の後、ロシアから石油や天然ガスをたくさん買っていたヨーロッパの国々は大きな影響を受けました。
このヨーロッパの国々と比べると、アメリカはロシアとの経済的な取引がそれほど多くありませんでした。
アメリカの経済そのものが好調なことに加え、これも、相対的に影響が少ないアメリカのドルを買う動きにつながる要因になったとみられています。
日本だけでなく、世界中の国でも同じことが起きたのが現状です。
これだけドルが一強となると、世界各国から文句が出たりしないんですか?
各国の共通の課題として理解されていたのは間違いありませんが、通貨の価値は原則としては市場の取り引きの間で決まります。
だから、アメリカに対して名指してで「やめろ!」と直接的に批判するようなことにはなっていませんね。
そして、アメリカ自身も、ドル高は輸入品の価格を押し下げてインフレを抑えることにつながるので、いまのドル高を嫌がっていないとみられています。
去年みたいに、また円安が急激に進むと日本で働くよりも、外国で働いた方がお金が稼げると考える人が増えてきそうな気がします。
その通りではありますが、目先の為替レートだけで判断するようなことはしない方がいいと思います。
いまが円安だからといって、急に海外に移住します、なんて思い切った決断をするとなると、もしまた急に円高になったときに、あれ?ってことになりかねないですよね。
確かに…。
ただ、この先、中長期的に見ても日本の経済力があがらず、海外から見て魅力的な国に映らないような状態が続くと、日本の国際的な存在感は上がっていきません。
Twitter社を買収したことでニュースになったイーロン・マスク氏が去年5月に投稿したツイートがちょっとした話題になったの知ってますか?
日本の人口減少問題に関連して “出生数が死者数を上回るための何らかの変化が起きない限り日本はいずれ消滅する”とツイートしたんです。
「このことは世界の大きな損失になる」とも付け加えられてはいますが、世界的な実業家から、日本が深刻な課題を抱えている国だと捉えられているという事実は、危機感としてちゃんと持っていなくてはならないと思います。
この先の日本経済を長い目で見た時に「稼ぐ力をどうつけていくか」というのは、こうした状況を改善していく意味でも真剣に考えていかなくてはならないことだと思います。
目先の円安をどうする、という話とは少し離れていますが、こうした「稼ぐ力」を培っていくための1つ1つ取り組み政策は、結果的に円の価値を上げることにもつながるかもしれません。
この先、若い人たちの力によって、日本から世界に輝くような企業が出てくれば、それは、日本経済にとって大きなプラスになります。みなさんの力を期待していますよ。
ありがとうございました!
撮影:本間遥 編集:岡谷宏基
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