2022年12月08日
(聞き手:佐藤巴南 藤原こと子 本間遥)
市場の急拡大が予測されている「宇宙ビジネス」。2040年には100兆円規模になると予測されています。その主戦場とされるのが、小型の人工衛星を使ったビジネス。現代のゴールドラッシュとも言われる宇宙ビジネスの最新事情についてNHKの解説委員に1から聞きました。
学生
佐藤
人工衛星がビジネスになるんですか?
なります。というかみなさん毎日使っていますし、私たちの暮らしのさまざまなシーンですでに役立っています。
水野
解説委員
例えば、天気の移り変わりをずっと見ている気象衛星「ひまわり」。天気予報に欠かせない気象観測を宇宙から行い、データを日々地上に送ってくれています。
またスマートフォンの地図アプリなどで使われているGPS。これは人工衛星を使って地上の位置情報を特定しているんです。
教えてくれるのは、水野倫之解説委員。宇宙に関わる取材を始めて20年余り。宇宙からリポートしたいと過去にJAXAの宇宙飛行士試験にも応募したことがある宇宙のスペシャリストです。
学生
藤原
確かに毎日使っています!ほかには何に使われているんですか?
例えばカメラで宇宙から地球を撮影する衛星を使って、石油の備蓄タンクを観測して、いま石油がどれだけ備蓄されているか把握することで、原油価格がどうなるか予測したり。
ショッピングモールの駐車場の車の数を数えることで、その会社の経営がうまくいっているかどうかを調べたりしています。
どうやら業績がよさそうだから株をいっぱい買っておくかとか、そういうビジネスも盛んになっています。
学生
本間
えー!すごい。
さらにアメリカのスペースXという会社は、地球上どこでも通信できるようにする計画を進めています。
日本は多くの場所でインターネットが使えますが、例えばアフリカでは使えない地域が多いんですよね。
そういう地域でも使えるようするため地上に通信網を整備するのではなくて宇宙から一気に電波を飛ばそうというもので、もう3000機以上打ち上げているんです。
そんなにたくさん!
人工衛星が3000機もあれば、いつでも自分の上空に衛星があって通信できる状態が作れるんですよ。
ロシア軍の侵攻を受けたウクライナの通信インフラも支えていて、非常時の代替通信手段としても注目されています。
衛星からのデータをいろんな事に使おうというニーズは非常に高くて、いま世界の宇宙ビジネスの中心になっています。
人工衛星ってそんなにたくさん打ち上げられるんですか?
はい。いまは小型の衛星を数多く運用するのが宇宙ビジネスの主流なんです。
ビジネスではなく国が運用している衛星、例えば気象衛星「ひまわり」は1機3500キロです。3トン以上あるんですね。
でも1990年代の終わりごろからアメリカや、日本では東京大学などの学生たちが、たった10センチ四方で1キロほどの小型衛星を作りはじめ、宇宙に打ち上げたんです。
すると、けっこう使えるということがわかり、世界中で一気に開発が始まりました。
なぜそんなに小さい人工衛星が作れるようになったんですか?
みなさんスマートフォン持ってますよね?
携帯電話やスマホが普及したことで電子部品の小型化と高性能化が進みました。そうした部品を使うことで衛星も小型化できてきたんです。
小型化の最大のメリットは、打ち上げにかかる費用が安く済みます。小さく、軽くなるので、ロケットにたくさん載せられるようになるからです。
今では日本の多くのベンチャー企業がさまざまな小型衛星を開発していますが、今後有望な衛星の一つがレーダー衛星です。
どういう衛星なんですか?
写真を撮るのではなくて、衛星から地球に向けて電波を出します。
写真だと雲がかかっていると地表が写らないんだけど、レーダーなら天気に関わらず地表が撮れるのが特徴です。
レーダー衛星を使ってどういうビジネスを?
レーダーを使って同じ場所を違う時期に撮影すると地形や物体の変化がわかるんです。
例えば、宇宙から定期的にダムの変化を捉えて事故防止につなげるといったインフラ整備への活用が検討されています。
あと災害があったときに、被災地が一体どうなっているかを調べるとか。大雨や大雪が降っていて飛行機やヘリが飛ばせないときに衛星で状況を把握して救援隊を送るとか。
レーダー衛星による地球観測で防災対策に生かすのは、今後の非常に有望な分野かなと思います。
すでに広がっているんですね。
また活用事例として身近なところではお米の生産です。
青森県の「青天の霹靂」というブランド米の収穫では、衛星が撮影した写真やデータを使っています。
稲は収穫時期になると緑色から黄金色になるんだけど、収穫時期を衛星が撮った画像を見て判断しています。しかもこれ、スマホで確認できるんです。
えー!便利!
地上で見ればいいじゃん、と思うかもしれないけど、農家の人手不足の問題もあって、稲を見て回るのが大変なんですね。
人手不足を補うことにもつながるし、品質を確保することにもつながる。“衛星情報は不可欠だ”と言われています。
このほか日本では人工衛星から玉を放出することで人工的に流れ星を作ろうとしている企業や、遺骨を衛星に搭載して宇宙に送って埋葬する宇宙葬をする企業。
海の状況を把握することで魚の養殖に役立てている企業もあります。
いまどんどん拡大しているんです。
宇宙ビジネスの今後の見通しは?
宇宙ビジネスの市場は、さらに拡大すると見込まれています。こちらを見てください。
コンサルティング会社の予測では、いま世界で年間40兆円と言われる市場規模は、20年後ぐらいの2040年に100兆円規模になるだろうとしています。
100兆円!
ここ数年はベンチャー企業が急増していて、私もすべてを追いきれないほどです。
昔は日本で20社くらいだったベンチャー企業は、いまは100社超えていると思います。
それだけ注目されているんですね。
衛星っていま何個くらい地球の周りをまわっているんですか?
生きている衛星で?数千基かな。
生きているってどういうことですか?
衛星には寿命があって、積んでいる燃料が尽きて制御がきかなくなることを“死んだ”と表現しているんです。
死んでしまった衛星がぶつかって破片になってしまうこともあります。
そうしたものを「宇宙ごみ」と呼ぶんですが、増加傾向で直径10センチ以上のもので2万3千個以上あります。
これひとつひとつがライフル銃の弾丸の10倍ぐらいの速さでぶつかってくるので危険なんですよ。
2万個も!それはすぐぶつかりそう。
まあ宇宙は広いからそう簡単にはぶつからないんだけどね。
ただ宇宙飛行士の野口聡一さんは「ごみの衝突は絶え間なく起きている。15年前はほぼ無傷だった国際宇宙ステーションが満身創痍になってきた」と話していました。
それくらい宇宙ごみは増えているんです。
ごみってどうやって見つけるんですか?
望遠鏡で見えますよ。
え?どうやって?
地上の大きな望遠鏡を使えば、10センチくらいまでなら地上から見えるので追えるんです。だから宇宙ごみはどこにあるか特定されているんです。
ただこのまま増え続けるとよくないこともあって「宇宙ごみは一定以上になると爆発的に増えてどうしようもなくなり、宇宙が使えなくなる」と提唱している学者もいます。
地球が宇宙ごみに覆われてしまうかも知れないということです。
宇宙って、ルールはないんですか?
まったくないわけではありません。
宇宙利用のルールを定めた「宇宙条約」をはじめ、各国の宇宙機関でつくる組織が取り決めたルールなどはあります。
宇宙条約では、宇宙を平和利用しようとか、一国が占拠してはいけない、といったことは書かれているんですが、ごみを発生させてはいけないとは書いてありません。
つまり、宇宙ごみの発生を規制する法的な規定は存在しないんです。
条約で規制するような動きはないんですか?
“相当困難だ”と言われています。
宇宙条約は、日本を含めて100か国以上が締結しているんですが、改定しようとすると全部の国が了承しないといけないので難しいんです。
なにか解決の手立てはないのでしょうか?
衛星をごみにしないようにするためには、衛星が死ぬ間際に燃料を噴射して、大気圏に突入させて燃やすという方法しか現段階ではありません。
技術的には可能なのでそうすればいいのにと思うんだけど、燃料を噴射すると衛星の寿命が1年分くらい短くなってしまうんです。
だから多額の資金をかけた衛星を、あと1年使えるのに燃やすのはもったいないということで反対も多いんです。
地球の環境問題に対しては世界的に厳しいのに…。
自分の国の上に必ずあるのであれば除去したいと思うんですけど、宇宙ごみはくるくる回り続けているから、誰のものとか、誰が除去するかとか決めるのが難しいですよね。
除去するにしても誰がお金を出すのか、という問題も出ますし。
すると宇宙ビジネスが拡大していくと、行き詰らないんですか?
そう思いますよね。
この問題は宇宙の環境問題、SDGsとも言われていて、世界的にも、ここ2、3年、そろそろ解決しないとまずいねという動きが出てきています。
しかも「ビジネス」で解決してやろうと。
ビジネスで?
宇宙ごみが増え続けていけば、壊れた衛星を取り除いてほしいというニーズもでてくるだろうと考えたわけです。宇宙ごみの回収業ですね。
この分野では、日本のベンチャー企業が世界に先駆けて動きだしているんです。
すごい!どうやってごみを回収するんですか?
いろんな方法があるんですが、日本のベンチャー企業がやろうとしているのは、磁石を内蔵した衛星を打ち上げて、ごみになった衛星にくっついて捕獲し、大気圏に突入させて処分させる方法です。
宇宙ごみは回転しているので、近づくことも難しくて、まずはごみに近づけるかどうか試してみようとしている段階で、数年以内の実用化を目指しています。
ほかにも、回収業をやろうとしているところがあって、中にはレーザー光を当ててごみを落とせないかと検討している会社もあります。
ごみとして回収が成功した例はまだなくて、そう簡単にはいかないと思うけど、期待を込めて注目しています。
宇宙ビジネスを語るうえで欠かせないのが、人や人工衛星を宇宙へ運ぶロケットです。次回はロケット開発の最前線を、詳しく解説します。
撮影:幕内琴海 編集:種綿義樹
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