2022年11月30日
(聞き手:佐藤巴南 藤原こと子 本間遥)
いま、「宇宙ビジネス」が世界で急拡大しています。そのひとつが宇宙旅行。最近、日本のロケットが失敗して宇宙ビジネスに暗雲なんてニュースもありましたが、近年一気に技術が花開き2021年は『宇宙旅行元年』と言われました。費用は?安全性は?気になるギモンについて1から聞きました。
宇宙ビジネスって最近耳にしますがどういったものなのでしょうか?
“宇宙という環境を利用したビジネス”のことです。
地球での暮らしをより豊かにする手段として、宇宙を利用しているんです。
教えてくれるのは、水野倫之解説委員。宇宙に関わる取材を始めて20年余り。宇宙からテレビ中継したいと過去にJAXAの宇宙飛行士試験にも応募したことがある宇宙のスペシャリストです。
宇宙といえば、実業家の前澤友作さんが宇宙旅行していたことを思い出します。
まさに宇宙旅行はいま急拡大している宇宙ビジネスの1つです。
去年は8回の打ち上げで29人の民間人が宇宙の旅を楽しみ、「宇宙旅行元年」と言われています。
トム・クルーズも映画撮影のために行くという話もあります。
そんなにたくさん?宇宙旅行する人は増えているんですか?
そうですね。いまは誰でも宇宙に行ける時代です。
ただ、お金さえ払えば、という条件がありますが。
というのも、2、3年前までは宇宙に行きたいと思ったら基本的に国の宇宙飛行士になるしかありませんでした。
日本ではJAXA=宇宙航空研究開発機構の厳しい選抜試験に合格して、国の政策に従って宇宙で仕事をするしかなかったんです。
実は私も宇宙に行きたくて、2008年にJAXA宇宙飛行士に応募しましたが、当時は理系が条件で、文系の私は門前払いでした。
試験を受けたとは!
誰でもいける、とは言っても準備は大変ですか?
前澤さんのように地球を周回したり、地球から400キロほど離れた国際宇宙ステーションに行ったりする場合は、それなりの訓練が必要です。
どのような訓練ですか?
重力に耐える試験や、不時着した場合に備えたサバイバル訓練などです。
訓練は数ヶ月間に及ぶこともあります。
ただ、宇宙に行くだけなら訓練はいりません。
どういうことですか?
宇宙とは基本的に高度100キロ以上のことを言います。
最もお手軽な宇宙旅行は、その高さまで飛行して数分間だけ無重力状態で地球を眺めて帰ってくるものですが、簡単な医師の診察を受けるだけで訓練はいりません。
国の宇宙飛行士の場合は何年もかけて訓練が必要ですが、そういうものは一切なく健康でさえあれば行けます。
いわば“海外旅行をする感覚”に近いかもしれないですね。
そんな気軽に行けるんですか!
去年アメリカでは、SFドラマ「スター・トレック」で主役の「カーク船長」を演じた俳優のウィリアム・シャトナーさんが宇宙旅行しましたが、このときシャトナーさんは90歳でした。
90歳!?
年齢も性別も国籍も問わず、誰でも宇宙に行ける時代ですね。
※解説記事はこちら
「競争激化 202X年宇宙の旅」(「時論公論」2021年7月15日より)
一番気になるのが費用ですが、いくらかかるんですか?
例えば、前澤さんは12日間宇宙に滞在しましたが、その費用は、1人だいたい50億円といわれています。
数分間だけ無重力状態を体験できるものだと以前は3000万円ぐらいでしたが、今は値上がりして5000万円ぐらいです。
このプランには、世界からすでに600人ぐらいの応募があって、日本からも20人くらい申し込みしています。
いやいやいや、私たちは全然行けないです。
もっと安くなる見込みはありますか?
近い将来、年間100人、200人くらいの人が宇宙旅行する時代が来ると思います。そうすると価格が下がるかなと。
どうだろう…10数年後には数百万円単位から行けるようになっていればいいですね。
豪華客船で世界一周旅行と同じくらいにはなるかもしれません。
かなりハードルは下がりますね。
10数年後といったら近い気がします。
ただ、宇宙旅行で忘れてはならないのが、命の保証がされないということです。
命がけで行く、ということですか?
そうとも言えます。飛行機のように国が安全性を保証してくれるわけではないんです。
「命の保証はしません」という書類に署名が必要になりますし、やはり公共の乗り物とは大きく異なります。
実際に、事故も起きているんですか?
こちらのデータを見てください。
アメリカでは2020年までに1144人が宇宙へ行きましたが、このうち20人が重大事故で死傷しています。
宇宙旅行では試験飛行でパイロットが死亡しています。
少なくないですね…。技術が発展していけば、飛行機みたいに気軽に乗れるようになりますか?
なると思います。飛行機も最初そうでしたよね。ライト兄弟が初めて飛ばした時代も相当な人が亡くなっています。
最近は技術的に進化しているので、安全性はより高まっていくとは思います。
どうして民間人がそんなに行けるようになったんですか?
民間のベンチャー企業が宇宙船の技術を磨き宇宙に行けるようになったのが大きな理由です。
昔は国がやっていたんですが、どうしてもお金がかかっていました。
例えばスペースシャトル。あれは1回500億だったんですね。
もう高くてやってられないよと国がやらなくなったんです。
そうした人材が技術とともに民間におりてきました。
急に始まったわけではないんですね。
失敗を積み重ねながら蓄積していった技術が、一気に花開いたんです。
民間企業の発想とスピード感によって、比較的短い時間で宇宙旅行できる時代になったわけです。
でも正直、私は宇宙旅行は怖いです。
そう考える人も多いと思います。
少し古いデータにはなりますが、2014年に日本の宇宙専門の旅行会社が行ったアンケートでは、「宇宙旅行に行きたい」と答えた人が5割を超えました。
そうなんですか!?
地上ではできない体験ができるので、発想が豊かになるんじゃないかと、
地上に戻ったら芸術作品が出来るみたいなことを期待する人は行きますよね。
そうしたこともあって、市場規模はこのように急増すると見込まれています。
6年後には3000億円ぐらい。これは、いまの6倍を超える計算です。
需要が増えると見込まれているということですか?
実際に需要増を見込んだ動きも出ていて、宇宙ステーションにホテルを作ろうという構想もあるし、宇宙に映画撮影用のスタジオ作ろうという計画もあります。
宇宙ステーションは増設できるので、ボコボコとつけていって。
国際宇宙ステーション(ISS)「上空約400kmに浮かぶ宇宙実験施設。日本やアメリカのほかロシアやヨーロッパなど15か国が計画に参加」
ここが魅力だから宇宙に来てくださいってこともできそう。
僕もずっと宇宙には行きたいと思ってます。ただ1週間ぐらいでいいかな。
どうして1週間なんですか?
宇宙っていろいろ問題があって、重力が少なくてふわふわ浮いているから足を使わない。
で、だいたい宇宙飛行士たちが地上に帰ってくると誰かに抱えられています。
見たことあります。
立てないことはないらしいけど、宇宙では地上よりも老化が早く進むといわれていて、骨がもろくなったり、筋肉も弱くなったりするんです。
それに放射線も結構あびる。健康に影響が出ている例は今のところないけど。
そういうこともあるので、1週間ぐらいでいいなと。
水野さんは宇宙にいったら何をしたいですか?
まずは、窓にへばりついて地球を見ると思います。
あれはどこだとか、自分の生まれたとこが見えるかどうかとか。
見てみたいかも!
あとはぜひ宇宙から生中継リポートをしたいですね。
ただ今回宇宙旅行の話をしましたが、実は宇宙ビジネスの主戦場は旅行ではなく、宇宙から観測するデータなんです。
宇宙データが一番お金を生み出そうとしているんです。
宇宙ビジネスは、宇宙旅行だけにとどまりません。中でも世界が注目している分野は、天気予報やカーナビなどに欠かせない人工衛星をつかったビジネスです。次回、詳しく解説します。
撮影:幕内琴海 編集:種綿義樹
あわせてごらんください
時事問題がわかる!
目指せ!時事問題マスター 1からわかる!宇宙ビジネス(3)宇宙の覇権はどこの手に!?
2022年12月15日
時事問題がわかる!
目指せ!時事問題マスター 1からわかる!宇宙ビジネス(2)ゴールドラッシュで100兆円市場に!?
2022年12月08日