目指せ!時事問題マスター

1からわかる「ブレグジット」(2)なぜもめているの?メイ前首相編

2019年10月11日 (聞き手:高橋薫 田嶋あいか)

ニュースでよく聞くイギリスのEU=欧州連合からの離脱問題「ブレグジット」。

「なぜ、こんなにもめているの?」前ロンドン支局長の国際部デスクに詳しく聞いていきます。(2019年4月取材、10月11日改訂)

 

EU離脱を決めたのに まだもめているのはなぜ?

学生
高橋

EUからの離脱を決めたのに、まだ、もめ続けるのはなぜですか?

3年前に国民投票をやってイギリスはEUからの離脱を決めました。離脱したい大きな理由のひとつは移民問題だという話をしましたよね。

松木
デスク

はい。

でも国民投票で離脱が決まっても、すぐに離脱するわけにはいかないんですよ。

離脱後のEUとの関係をどのようにするかとか、そういう話し合いをする必要があるんです。メイ首相はこのEUとの交渉で、移民を制限する権限を取り戻したいと主張したんです。

学生
田嶋

そのために離脱するんですもんね。

EUはヒト・モノ・カネが自由に動く単一市場でしょ。移民を制限したいというイギリスの主張は「移動の自由を受け入れたくない」つまり「ヒト・モノ・カネのヒトを受け入れない」ということ。

それってEUからすると「ヒトを受け入れないなら、モノやカネの動きも制限する、つまり単一市場から離脱するんですね」ということになる。メイ首相は「それでいいです」と応じた。

でも単一市場から離脱するとデメリットも大きいのではないですか?

そうです。単一市場から抜けると、たとえば今までかからなかった関税がかかるようになったりして経済的にはマイナス。でも、国民の意見はやっぱり移民を制限したい。

単一市場から抜けることでいろいろ問題があるのはわかっているけど、諦めますと決めたわけ。で、経済的な関係をどうするか、EU側と話し合いを始めたんですけど、非常に難しい問題にぶつかってしまったんです。

何ですか?

北アイルランドとアイルランドの国境問題。イギリスはグレートブリテン島と、アイルランド島の北アイルランドを合わせてイギリスなんですね。

アイルランド島にはEU加盟国のアイルランドもあって、このアイルランドはもともとイギリスの統治下にあったんですけど独立したんです。

一方、北アイルランドはそのままイギリスに帰属して、北アイルランドとアイルランドの間は陸続きの国境になっているんです。

北アイルランド紛争って聞いたことありますか?

聞いたことあるような気がするけど、わからないですね。

北アイルランドはイギリスだけどアイルランド系の人がたくさんいるんですよね。イギリスへの帰属が決まって、そういう取り残されたアイルランド系の人たちは不満を持った。実際に就職とかで差別されたりしたんだよね。

それで、イギリスからの分離を求める住民とそれに反対する住民の間で対立が深まって激しい紛争が起きた。1960年代以降、テロなどでおよそ3000人が亡くなっている。それが北アイルランド紛争なんです。

そうなんですね。

紛争の和平の条件として、ここの国境の移動の自由を絶対保証しようということが決まったんです。国境の検問もなくしたので、自由に行き来して仕事もできるようになった。だから北アイルランドに住んで、アイルランドで仕事をしている人は結構いるんです。

ところがイギリスがEUから抜けると、どうなると思いますか?

北アイルランドはイギリスだからEUではなくなってしまいますよね。

そう。イギリスがEUの単一市場から抜けるとなると、EUとイギリスは別々のルールで貿易などをすることになりますよね。かける関税も変わってくるかもしれない。

実際とは違う話ですけど、たとえば、イギリスは日本から輸入される車を歓迎して関税をゼロにするけど、EU側は日本からの車に10%の関税をかけるとする。

それでもしEUのアイルランドとイギリスの北アイルランドの間の国境をノーチェックで通れるという今の状態のままだったら、EU側でかかる関税を回避するために関税のかからない北アイルランド側から入れて、関税ゼロでEU側のアイルランドに持ち込むこともできてしまいますよね。

確かに。抜け穴みたいな感じになりますね。

そう。あと、これもたとえばですが、アメリカから食品を輸入するとして、ヨーロッパではまだ禁止されている農薬が使われているけど、イギリスではOKになっていたとするでしょ。そういうものがこの国境を通してEU側に入ってくることも考えられる。

だから単一市場から抜けるということは、やっぱりこの国境をまたいでモノをやり取りする時には何らかのチェックをする必要があるということになるんですよ。

確かにそうですね…。

ただ、過去の紛争の反省もあって、イギリスとEUの間では、検問を設けたりはしないということで一致していて、そうなるとこの問題、なかなか解決する手だてがないんですよね。

この北アイルランドの問題は、EUからの離脱を考え始めたときに検討しなかったんですかね?そこは深く考えずに離脱したいということになったんですか?

まあそうですね。一般の人たちはこんなに大問題になるとは思っていなかったと思いますよ。

政治家たちは非常に難しい問題だとわかっていたけど、後回しにしてきたんです。移民の問題とか単一市場からの離脱とかそういうことを威勢よく言ってね。

一体どうすればいいんですかね…?

イギリスのメイ首相

メイ首相とEUが交渉して「こういうふうに離脱しよう」ということを定めた離脱協定案がまとまりました。

その離脱協定案では、関税の面では、今は混乱もないんだからイギリスは当面、EUの関税同盟の中にとどまると。それで他にいい解決策が見つかったら、そちらに移行すればいいんじゃないですかということになったんです。

そうなんですか。

この離脱協定案、イギリスの議会に持っていって議会にイエスと言ってもらわないと正式な合意にはならないんだけど、議会に持っていくと「ノー」と言われてしまう。これまでに3回否決されています。

なぜですか?

だってEUの関税同盟に残っちゃったら、今と何が変わるの?ということになりますよね。「いい解決策」なんて見つかるかどうかわからない。

結局EUのルールに縛られ続けて、自分たちで関税も決められない状態が続いてしまう。しかも離脱したらEU内でイギリスの発言権はなくなるんですよ

メイ首相の身内の与党・保守党の中には、EUに対してもっと厳しく主張してきっぱり離脱すべきだと主張している離脱強硬派と呼ばれるグループがいて、発言権もないままEUのルールに縛られ続ける離脱では絶対に納得できないとずっと反対しているんです。

確かに、反対する気持ちもわかる気がします。

しかもメイ首相がキャメロン前首相から政権を引き継いだときは、与党・保守党は議会の中で過半数を維持していたんだけど、その後、議会を解散して総選挙をやったら過半数を割ってしまったんです。

そうなんですか。

だから身内に反対する人たちがいると、絶対通らないわけ。それで離脱協定案は3回も議会に否決されちゃったんです。

イギリス議会

よくテレビで「合意なき離脱」ということばを聞くんですけど、「合意なき」というのは誰の合意なんですか?EUとの合意がないということですか?

そうです。離脱協定案が議会を通らないままだと、EUとの間で何の取り決めもないまま離脱することになる。イギリスとEUはある日突然、外国どうしの関係になってしまうんです。それが「合意なき離脱」。

そうなるとどうなるんですか?

今は輸出入の際、EUどうしだから関税はゼロなんですけど、世界の標準ルールに基づいた関税をかけなきゃいけなくなる。

自由に行き来していたヒトやモノも、外国だからチェックが必要になって、自由に入ってこなくなっちゃう。

具体的にはどんなことが起きるんですかね?

イギリスには日本の自動車メーカーも進出していますけど、いきなり部品が入ってこなくなったり、時間がかかったりする。輸出しようとしても関税がかかって高くて売れなくなる。

イギリスはトマトなどをスペインとかからたくさん輸入しているけど、今は手続きなしで入ってきている食品にも急に関税がかかって、検疫などの手続きも必要になるかもしれない。そうすると食べ物もすぐには入ってこなくなっちゃう。

そんなことになるんですね。みんな混乱しちゃいますね。

だから「合意なき離脱」は絶対に避けなければならない。

離脱の期限までに議会で可決されないとなれば、その期限自体を延ばすしかなくて、当初の期限は今年の3月29日だったんですが、今は10月31日まで延ばしている状態です。

離脱協定案に反対している人たちは、こんな大混乱を招く「合意なき離脱」でもいいと思っているんですか?それでも離脱したいと?

離脱強硬派の人たちも「合意なき離脱」はあまりに混乱が大きいから嫌なんです。だけど、もっといい案、イギリスに有利な案でEUと合意して離脱したいから、今の離脱協定案には反対する。

もっといい案って、そんなことできるんですかね…?

そうだよね。メイ首相とEUが何回も交渉して、EU側からすると今のが最大限の譲歩ですと言っているのが現在の離脱協定案なのでね。なかなか難しいと思います。

議会で3回も否決されて、与党の保守党を説得するのはもう難しいということで、メイ首相は野党の労働党と話し合いを進めていたんですけど、意見の隔たりは埋まらず、その協議も打ち切られることになってしまいました。

議会との対立などで追い込まれていたメイ首相は6月7日に与党・保守党の党首を辞任。次の党首が決まり次第、首相も辞任する考えを表明した。

詳しく知りたいテーマを募集