グラフィック:スンニ派とシーア派ってどういうこと?
中東のニュースを理解するために知っておきたい基礎知識のひとつが「スンニ派」と「シーア派」です。ここでは、地図とグラフを通じてイスラム教の2つの宗派、そして中東の紛争の原因と思われがちな「宗教」について説明します。
仏教に「浄土宗」とか「臨済宗」などの宗派があるように、イスラム教にも宗派があり、それをざっくり、おおまかに2つの宗派に分けたものが「スンニ派」と「シーア派」ということになります。アメリカの調査機関、ピューリサーチセンターが2009年に発表した調査によると、全世界に住むイスラム教徒の87%から90%が「スンニ派」、10%から13%は「シーア派」と推定されています。
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(出典:ピューリサーチセンター CIA WORLD FACT BOOK)
これは中東の国々の住民のうち、スンニ派の住民の割合がどれくらいなのかを色分けした地図です。
地図を見てみると、「スンニ派の盟主」と形容されることがあるサウジアラビアは、実はエジプトやヨルダンと比べると色が薄くなっていることがわかります。サウジアラビアの東部にはシーア派の住民が住んでいる地域があるからです。サウジアラビアのシーア派住民の割合は10%から15%と推定されています。
次はシーア派の住民の割合を国別に色分けした地図です。
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(出典:ピューリサーチセンター CIA WORLD FACT BOOK)
「シーア派大国」と呼ばれるイランから、西にイラク、そしてレバノンにシーア派の住民が分布していることがわかります。この一帯を「シーア派三日月地帯」とも言います。
上記の2つの地図では便宜上、スンニ派にサウジアラビアの「ワッハーブ派」が含まれていますし、シーア派にはシリアの「アラウィ派」が含まれたりしているので、あくまで「ざっくりした」分類だと理解してください。イスラム教の宗派が2つしかない、ということではありません。
スンニ派とシーア派の違いの詳細にはここでは踏み込みませんが、預言者ムハンマド以降続いたイスラム教の指導者をどうやって決めるかをめぐって意見が対立したのがスンニ派とシーア派の始まりだとされています。
中東の紛争や対立を理解する上で、こうした宗教や宗派の構成を知ることは欠かせません。教義の違いが対立の直接的な原因となっているわけではありませんが、それぞれが政治的なグループを作ったり、そうしたグループが方針を打ち出したり、国の中で多数派と少数派に分かれたりするなかで対立が生まれている現実があるからです。
1つの国に複数の宗教や宗派がまとまった割合である、いくつかの国について円グラフで見てみましょう。
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内戦が続くイエメンはスンニ派が全体の約65%、シーア派が約35%と推定されています。スンニ派の政権側と対立する反政府勢力の「フーシ派」はシーア派のグループで、イランから支援を受けていると指摘されています。
レバノンは宗教・宗派問題を抱えてきた国の1つで「モザイク国家」とも形容されます。レバノンでは首相はスンニ派、議長はシーア派、大統領はキリスト教マロン派から選出することで権力の均衡を保っています。
シリアはスンニ派が主体の国ですが、少数派のアラウィ派が政権を握る逆転構造の国です。
アラウィ派はシーア派の一部と一般的に分類されています。
また、イスラエルを見ると、実はユダヤ教は全体の75%で、残りはイスラム教とキリスト教、さらに少数宗教などで構成されています。自らを「ユダヤ国家」と定義づけるイスラエルの政策は、国内のイスラム教徒やキリスト教徒にとって「押しつけ」と映り、治安が不安定化する要因となっています。
中東のニュースに触れるとき、こうした宗教や宗派のバックグラウンドを知ると、より理解が深まるかも知れません。