アヤソフィアに住みついたネコ グリとイスタンブールの物語
古くからヨーロッパとアジアの文明が交差する十字路として栄えてきたトルコのイスタンブール。その街の歴史を伝える建物、世界遺産のアヤソフィア博物館に「グリ」という名の名物ネコがいます。
目次
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イスタンブールはネコの街
私はグリ。イスタンブール生まれ、イスタンブール育ちの雌ネコだ。
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イスタンブールの冬は寒い。曇りや雨の日が多い。ボスポラス海峡からは冷たい風が吹きつける。ネコにとって、いい季節だとは言いがたい。
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この街に暮らすネコは17万匹とも言われている。歩道という歩道に、ゴミ箱の上に。
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カフェのテラス席に私たちはいる。イスタンブールはネコの街なのだ。
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誇張ではない。路上には住民たちが置いてくれたえさがあるし、使い終わったペットボトルを入れたら、えさが出てくる「えさの自販機」なんていう気の利いたものまである。
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ペットというわけでもないのに、雨風や冬の寒さをしのげる小屋まで置いてくれている。だからといって寒いものは寒いのだけれど。
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イスラム教の預言者ムハンマドは、ネコをかわいがっていたらしい。だからなのか、私たちはとても大切にしてもらっている。
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アヤソフィアの守り神
そんなイスタンブールで、いちばん有名なネコが何を隠そう私なのだ。
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強いて言うならば、巨大なアイドルグループで不動のセンターを張っていると言っても過言ではない。
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私が住んでいるアヤソフィア博物館は、この街を代表する名所のひとつ。約1500年前にキリスト教の大聖堂として建てられて、途中でイスラム教のモスクに改装された。文化が混在するこの街らしい、由緒ある建物だ。
私はそのアヤソフィア博物館の、看板ネコ。だいたいの時は、建物のいちばん奥のところにいる。すると観光客が私にカメラを向けたり、触ってきたりするんだ。
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写真撮影にはきちんと応じる主義。前足を揃えて背筋は伸ばす。時にはカメラに目線を送ってね。手を差し出されたら、こんな感じで写真におさまったり。
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知らない人にかわいがられるのも、悪くない。長い間やっていると名前も知れてきた。
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ガイドの中には私のことを「アヤソフィアの守り神」なんて呼ぶのもいる。最近はインスタでも人気者で、私のページを2万人近くが見てるんだって。
おばあちゃんネコの憂鬱
私も生まれたときは誇り高きイスタンブールの野良猫。物心ついたころには、ここで暮らすようになっていた。
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なんとなく居ついて、かれこれ15年。いいことも悪いこともあった。少し前、アメリカの大統領から記念撮影を求められたのはいい思い出だ。
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でも最近は目が遠くなってきたし、すぐに眠くなる。お客さんには申し訳ないけど、相手ができない時もちょくちょく増えてきた。
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だってしかたがない。ネコの15歳は人間で言うと80歳くらい。立派なおばあちゃんだ。
去年の年末にはここにいる唯一の身内だった姉妹のクズムを亡くした。あの子も高齢だったからね。
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ずいぶんと落ち込んだけど、そんな時に私を励ましてくれたのが副館長のデフネだったんだ。
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デフネがここで働き始めたのは私が生まれた年。つきあいの長い同期みたいなもんだ。でも残酷なことにネコと人は時の流れかたが違う。
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餌をもらったり、目薬を差してもらったり。特にこのところはデフネには世話になりっぱなしだ。
愛をつなぐもの
私があまりに元気がないからと、最近、デフネがあわててお医者さんを呼んでくれたことがあったんだ。
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私もいい年齢だしって、センチメンタルにもなった。けど、調べてもらったらずいぶん健康体だったらしい。
「グリ」という名前はもともとは「Gri=グレー」っていう毛色にちなんだ名前だ。それがいつのまにか「Gli=愛をつなぐもの」っていうことになっている。ファンの人たちがそう呼ぶからだ。
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きょうも大勢の観光客がアヤソフィア博物館にやってくる。あなたもここを訪れることがあったら、私を探してみて。期待どおりの愛くるしさで出迎えてみせるから。(取材 カイロ支局 山村充カメラマン)