9歳で結婚させられた少女

    「私は父親に売られたのです」
    20歳以上年上の相手と結婚させられた9歳の少女が語った言葉です。

    少女が暮らすのは内戦が5年目に突入した中東のイエメン。長引く戦闘を背景に、結納金目当てで親が子どもを事実上売る、「児童婚」が横行している実態がわかってきました。

    目次

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      9歳で結婚 児童婚の現実

      「父は50万リアル(日本円でおよそ10万円)を受け取ったわ。貧しいから私を売ったのよ」

      取材に答えてくれたイマンさん(9歳)。ことし初め、父親に突然、家から連れ出され、見知らぬ男性に引き合わされました。そして、「きょうからこの人がお前の夫だ」と言われ、自分が結婚させられたことを知ります。失業中で日銭にも困る状態だった父親は、結納金にあたるお金だけ受け取って立ち去りました。

      イマンさんは「家に帰りたい」と訴えますが、夫となった男性の家族から「ダメだ」と一蹴されてしまいます。後からわかったことですが、夫となった男性は自分より21歳年上の30歳でした。

      イマンさんは、経済的困窮のために父親に事実上、売られたのです。

      なぜ生まれる児童婚?

      イエメンでは慣習で10代半ばで結婚することは珍しいことではありません。しかし、状況を大きく変えたのが5年目に突入した内戦です。

      児童婚に詳しい地元のガボール・ザイディ弁護士が説明してくれました。

      「内戦が始まってからは10歳前後だけでなく中には8歳で結婚させられるケースもあります。問題なのは、『幼すぎる少女』を金銭目的で結婚させることです。結婚させられる女の子の年齢が大きく下がっているのです」

      低年齢化する児童婚はイエメンで広がり続けているとみられています。18歳未満で結婚する子どもの割合は内戦以降、結婚全体の3分の2を占めるまでに増加していると国連は指摘しています。

      長引く内戦が背景に

      イエメンの内戦は、国内の勢力争いだけでなく、覇権を争う中東の地域大国、サウジアラビアとイランによる「代理戦争」となるなど、終結に向けた兆しすら見えていません。このため内戦が長期化しているのです。

      なぜ内戦が起きると幼い子どもが結婚させられるのでしょうか。

      大きな理由が食糧難です。イエメンでは食糧の多くを輸入に頼っていました。しかし、食糧の輸入拠点で、国連などによる人道支援物資の陸揚げで大きな役割を担っていた西部の港湾都市ホデイダで戦闘が激化し、これまでのように食糧が入らなくなったのです。これまでに栄養失調で死亡したとみられる5歳未満の子どもは8万5千人。栄養失調に苦しむ国民の数は700万人あまりで、実に国民の3割近くに上っているのです。

      国連が「最悪の人道危機」と呼ぶ事態が生活の困窮につながり、結納金目当てで幼い子どもを結婚させる児童婚が深刻化しているというわけです。

      暴力につながる児童婚

      幼くして結婚させられた少女たちは、暴力にさらされるケースが少なくありません。ザイディ弁護士の元に寄せられる相談の大半は、早すぎる結婚のあと暴力にさらされたケースだと言います。

      実際イマンさんも、夜になると夫に性交渉を迫られ、断ると暴力を受けました。

      「彼はわたしの手足を縛って口に布を詰めた。ある夜薬を飲まされて意識を失ってしまった。翌朝おきると体に違和感があった」

      イマンさんはやりきれない表情でそう語りました。

      終わらない悪夢

      イマンさんは、隙を見て夫の家から逃げ出し、今は知り合いの女性によって保護されています。相談を受けたザイディ弁護士は、「暴力が離婚の理由になる」と判断し、離婚に向けた法的手続きを進めています。

      しかし、イマンさんの不安が解消されたわけではありません。仮に法的に離婚が認められても、夫の家族が父親に結納金の返還を求めてくる可能性があります。父親が結納金を返せない場合は、2つ下の妹を代わりに差し出せといわれるのではないかと懸念しているのです。

      「妹のことが心配です。父親は妹を売りかねません。私はただ、学校に戻って勉強したい。戦争が本当に早く終わって、みんな給料をもらえるようになってほしい」

      問題を解消するにはどうすればいいのか。取材班は、取材の最後にザイディ弁護士に聞きました。ザイディ弁護士は少し考えてこう答えました。

      「結局、内戦が終わるしかありません」(ドバイ支局・吉永智哉)