“理想”のファミリーあります モデルハウスに行ってみた

家族がついてくるモデルハウス?

トレンドワードを追いかける企画4日目。ネット上では、毎日さまざまな言葉が浮かび上がっては議論を呼んでいる。

きょう午前に突如トレンド入りしたのが「モデルハウス」。

何事かと思いツイッターで調べてみると、都内の住宅メーカーが今月行うというモデルハウスの体験企画がヒットした。

なんと、俳優が演じる家族といっしょに、モデルハウスでの理想の生活を体験できる、「モデルファミリー付きモデルハウス」企画だというのだ。

今月17日の「家族の日」にあわせて、応募した一般の人のなかから5人限定で、プロが演出したストーリーに沿って、プロの俳優が演じる妻と娘との生活を疑似体験してもらい、「マイホームのある素敵な未来」を想像してもらうとしている。

ホームページに掲載されたストーリーには、結婚して8年目の活発で明るい妻と7歳になるパパが大好きな娘が、自分の帰りを待っていると書かれていた。

ツイッターでは、なんだかSFみたいとか、独身はそもそもモデルハウスに行かないなど、独身男性の悲哀を訴える声のほかに、理想の家族像についての議論も巻き起こった。

いったいどんな狙いでこの企画を始めたのか。私たち取材班は、住宅メーカーに連絡を取って現場に向かった。

取材にあたったのは記者とディレクターの3人。

記者の斉藤は35歳独身。建築やインテリアが好きで、建物を探訪するテレビ番組やインテリア雑誌を眺めながら、あてもない理想の家を夢想しているが、1人でモデルハウスに行く勇気は無かったので、良い機会だと思い手を挙げた。

ディレクターの今氏(いまうじ)も独身の31歳。夢の一戸建てを手にして住宅ローンの返済に追われるよりも、ひとつの土地に縛られない生き方のほうが自分らしいと思っている。今、世帯数が減少する中で、そもそも戸建てへの憧れが弱い人も少なくないのでないか。こうした思い切ったイベント企画を行おうと思った背景が気になった。

ディレクターの上田は今年入局したばかりの23歳独身。学生時代の友人と部屋をシェアして暮らしたいと、何か月も物件を探してはファミリー客に取られを繰り返し、先週ようやく夢の新居が決まったばかり。「モデルファミリー」という言葉にひっかかり、その違和感の正体を探りたいと思った。

担当者に直撃してみた

取材班が訪れたのは、東京・国分寺市に本社がある住宅メーカー。

ぜひモデルファミリーとの生活を体験してみたいとお願いしたが、スケジュールがあわず、この企画を考案した高谷一起さんがモデルハウスの中を案内してくれた。

モデルハウスは2階建ての戸建て住宅。

中に入ってみると、木を多く使った優しい内装と開放感のある吹き抜けが目を引いた。床面積はそれほど広くはないが、3人家族には十分だと感じる広さだった。

モデルファミリーの構成にあわせて、子供用の勉強机や、家族で団らんできるリビングとアイランドキッチンがきれいに飾りつけられていた。

この体験企画には、きょうまでに20代後半から30代後半までの10人ほどの男性が応募してきているという。

高谷さんに、この企画をめぐってネット上で議論が起こっていることについて聞いてみると…。

「モデルファミリーの構成や体験する内容もスタッフで熱心に議論しましたが、あくまでもリアリティのある、よくある自然なシチュエーションの1つとして選びました。もしかしたら私たちが思っていた“普通”が、個人の方々が思う“普通”と違っているかもしれないが、それは真摯に受け止めていきたい」

そのうえで、体験した人に家族や暮らしのあり方の選択肢を示したかったと話した。

「人それぞれの暮らしをどう選択していくかということの議論のきっかけになったことは、ありがたいことだと思っています。なにが正しい理想の家族なのかは個人個人違うけれど、私たちができることはその選択肢を提示することだと思います」

住宅業界への危機感も

今回の企画の背景には、住宅・不動産業界の将来への危機感もあると高谷さんは話す。

「戸建てを建てたいと思う人の絶対数自体が減ってしまうので、難しい時代に突入していると思います。これからは上手くいく会社とそうでない会社の二極化が進むと言われています。個人的には、今は建物を提供すること自体に価値を置く企業が多いと感じますが、アフターサービスなど、人が暮らし始めてからのフォローが弱いと感じることがありました。家というモノではなくその後の暮らしを提案できないか。住宅メーカーにはまだやれることがいっぱいあると思います」。

そして、高谷さんは用意している台本を見せてくれた。

台本には妻と娘の台詞が書かれていて、「わたし」の台詞は空白になっていた。

買い物から帰ってきた「わたし」を娘が駆け寄って迎えてくれる場面から始まり、ダイニングテーブルを囲んだり、子ども部屋で娘の宿題を見たりと、それぞれの部屋で過ごす「ふだんの生活」の会話が書かれている。

脚本を見て、斉藤はいつのまにか胸の奥が締め付けられていた。

高谷さんが言うように、モデルファミリー付きモデルハウスは、たしかに家族や社会のあり方の、「1つの可能性」を示しただけかもしれない。

ただ脚本を読んだとき、マッチを擦ったように、“かつてなりたかった自分”“なれたかもしれない自分”の姿が浮かび、無意識に抑え込んでいた欲望を突きつけられたように感じた。

入局1年目のディレクター・上田も、また違った意味で胸を締め付けられていた。

台本の家族には、間違いなく愛があふれている。

少しの隙もなく「理想の家族」が詰め込まれている。

しかし、冒頭の「パパー、お帰り!」…これだけで、もうだめだ。

誤解しないで欲しいが、別に家族が嫌いなわけではない。

物心ついたころから、優しく、おしとやかで、かわいらしく、かつ賢いという「完璧な女の子」であることを両親に求められ続けてきた。「女らしくあるべき」だと。

その期待と愛情になんとか応えようと自分なりにがんばってきたが、最近社会人になり、やっと「模範的な女の子」であることに対する呪縛からも逃れられると思っていたところだった。

そうしたときに直面した「モデルファミリー」…。くらくらするくらいの衝撃を受けた。

疑似家族は即興劇?

私たちは、演出を手掛けた劇団ヨーロッパ企画の諏訪雅さんと、キャスティングなどを手掛けたROBOT所属の横山治己さんに話を聞くことにした。

上田は、まず違和感を覚えるということを率直に伝えた。すると…

(諏訪さん)
「あくまで演技ですから。面白がってもらうためのエンタメ。思い切った遊びです。家族のリアリティーを追求したものではありません」

やはり相容れないのだろうか。

でも一方で、不思議と安心感も覚えた。

(横山さん)
「広告に使っている、“理想のお家と理想の家族”という表現は、あくまでキャッチーな表現であり、それぞれの人にとって家族の“理想“はある」

さまざまな家族の形がゆっくりと、でも着実に認められつつあるのではないか、と実感したのだ。

一方、斉藤が二人から話を聞いてなるほどと思ったのは、この企画が演劇における「即興劇」の1つだということ。

あるストーリーに沿って、一般の人が架空の人物を演じる。そのリアルな体験を通してモデルハウスの良さを知ってもらうことを意識して、キャスティングや脚本を手がけたという。

(諏訪さん)
「あまりない取り組みなので、世間が面白がってくれたらいいなと思ってやってみようと思いました。普通の人が来て急に劇が始まるというので、それをどう即興劇として成立させられるのか。我々の間でも家族構成やストーリーについて議論があったものの、わかりやすさを重視して、今回のストーリーを選びました。」

最終的にどんな劇が繰り広げられるのか、2人にも予想が付かないという。

(横山さん)
「モデルハウスの体験会ではありますが、即興劇の面白さやくだらなさが、この企画を通して伝わればいいなと思っています。SNSでの反応は、私たちが当初思っていた反応とはちょっと違っていましたが、今後、独身男性の一軒家とか、いろんなシチュエーションでこの企画が続いていけば、家づくりっていいなということが伝わっていくと思っています」

取材を終えて

(斉藤)
この話題に対して私は当初、理想の家族を押しつけられているように感じて、あまり良い印象を持てなかった。それでも、住宅メーカーの担当者や演出家と実際に話をしてみると、理想の家族は決して1パターンではなく、個人にとっての幸せにはさまざまな形があるということを理解していた。家も家族も、人生という“舞台”を自分が楽しむためのパートナーなのかもしれない。その理想が自分と違っていたとしても、批判するだけでなく、1つの可能性として受け入れられれば、もっと人生が楽しめるかもしれないと感じた。

(今氏)
今回の取材を経て、SNSを見て当初抱いた違和感とは異なる売り手側の創意工夫を垣間見ることができた。戸建ての販売が難しい現状に対する新しい提案が思わぬ形でSNSを賑わしていた。一方で家族の多様性が広がる今、HPに掲載された「モデルファミリー」という言葉が“理想の家族像”を定型化してしまう印象はやはり強い。モノの売れない時代にあって、企業は新たな販売戦略を求められるが、それが社会にどのような影響を与えるのかは常に問われると感じた。

(上田)
ネット上には、「“普通”の幸福があまねく行き渡るべきだという価値観の押しつけは、おぞましい」といった声もあった。こうした声にどう向き合うつもりなのだろうか。
この台本を、サービスを、純粋に楽しみたいと感じている人々を邪魔する権利は、私にも、ほかの誰にもきっとない。
それでも私は思う。理想の家庭など、ない。この世のどこにも、たぶん、ない。

理想のファミリー、あなたはどう思いますか?

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