LGBT

ありのままを、受けいれてほしい

(2018.10.20 首都圏放送センター 山下由起子/ネットワーク報道部 宮脇麻樹)

4年前のソチオリンピックの開会式は、異例の式でした。アメリカやフランスなど、欧米の首脳が欠席したのです。ロシアで、同性愛者の活動を制限する法律が成立したことに対する、反発を意味する欠席でした。

これをきっかけに、オリンピック憲章に加わったことばがあります。「性的指向」です。差別を禁止する文章に加えられました。
2年後の東京オリンピックに向けて、日本は、私たちは変われるのでしょうか。

異質だと見られたくなかった

女性に恋愛感情がない、タカシさん(仮名)。
中学生までは、「まだそういう時期が訪れていないだけ」と思っていましたが、やがて自分が好きなのは男性だと気づきます。でも両親には打ち明けられませんでした。

異質だと見られたくなかったです。

タカシさんはその時の気持ちを、そう表現しています。

男性に恋愛感情を持つ男性を“ゲイ”といい、それは男性が女性に恋愛感情を持つことと同じような、性的指向のひとつです。異質ではなく、本来、人として同質です。全体から見て「割合が少ない」、ただそれだけです。
でもそのことでタカシさんは、身近な家族の中で差別を感じることになります。

「気持ち悪い」といわれ家を失った

ある日、タカシさんがゲイであることを兄が知りました。15歳の時でした。
兄は、「男を好きっておかしい。気持ち悪い」と言いました。タカシさんは家を出ました。

声をかけてきた男性の家を、転々とする日々を送りました。公園で過ごしたり、ビルの階段で眠ったりする日もありました。

「なんでこんなことをしているんだろう」と思うこともありましたが、差別を受けた家に戻されてしまうのではと思い、役所にも相談できませんでした。

本来の姿でいられない

しばらくして、信頼できるパートナーと巡り会いました。「心のありかが見つかった」と感じました。仕事にも就きました。介護の仕事でした。

しかし2人でいる時は幸せでも、2人で外を歩くと「ゲイではないか」と言われることもあり、それはもちろん、単に性的指向を指しているのではなく、自分たちは正常で、ゲイはそうでないとからかっている言われ方に感じました。

そんな経験があるから、職場ではカミングアウトをしていません。自分を隠して働いているので、生きづらさを感じることもあります。

常に緊張しています。自分本来の姿ではいられないんです(タカシさん)

7割近くがカミングアウトしない

2年前、ゲイやバイセクシュアルの男性など約7000人を対象に行った調査結果があります。HIV陽性者の支援を行っているNPO法人「ぷれいす東京」などが実施しました。
それによると7割近くが、家庭や学校、職場でカミングアウトをしていませんでした。
20人に1人の割合で、住まいを失っていました。

親の前で本当の自分を見せられず、異性愛者を演じている。そうすると、素の自分で甘えた経験がなかったり、親との信頼関係も育たなかったりする。
困難に直面した時、セクシュアリティのことを含めて相談できないと、どうしても表面上の話になってしまう。性の多様性を前提にした支援があれば、安心して住める家を失ったり、誰にも相談できずにいたりなど、路頭に迷う人がもう少し少なくなるのでないでしょうか
(調査を行った「ぷれいす東京」生島嗣代表)

カミングアウトできる職場

性の多様性を前提にした支援を受けて、自分らしく働いているという人もいます。
都内の証券会社で働く、20代のトランスジェンダー(心の性と体の性が一致しない)の社員です。

就職試験は女性として受け、トランスジェンダーであることは隠していました。就職で望まない思いをしてきた、「少ない割合の人」たちを見てきたからです。

勤めることになった会社は、「少ない割合の人」の支援を進めていました。
まずトランスジェンダーの社員に向けた、対応のガイドラインがありました。例えば男性用と女性用のどちらの服を着るか、使うトイレはどうするか、あらかじめ話し合って決めることができます。
カミングアウトをする場合は、不利益にならないよう誰まで情報を共有するか、本人の意向に沿って決めることができます。
こうした取り組みを知ってこの社員は、男性として働きたい、とカミングアウトしました。

会社には、「LGBTアライ」と書かれたステッカーが、見渡すかぎりのパソコンに貼られています。「アライ」は「味方」という意味を持つ英語の「ally」からきていて、LGBTの人に共感する姿勢を表しています。

初めて職場に行った日、ステッカーを見て、本当に安心しました。『トランスジェンダーだからこうする』ではなく『あなたはどうしたいか』と常に聞いてもらい、働きやすいと感じています(トランスジェンダーの社員)

ありのままを受け入れる

社員の意識にも変化が生まれてきました。アライのステッカーをはった社員は、「この方はこういう方なんだなと、その人のありのままを受け入れようという姿勢が、身についたのではないかと思います」と話していました。

社員の多様性を尊重して、その強みを生かしていけるような企業になっていきたい。東京オリンピック・パラリンピックは、変化の大きなきっかけになると期待しています
(野村證券ダイバーシティ&インクルージョン推進室園部晶子室長)

東京大会をきっかけに

冒頭で紹介したゲイのタカシさんは、取材の中で「ゲイだからと言って危害を加えるわけじゃない。ただ、個人として認めてほしい」と話していました。

身近な生活の中で、LGBTの存在をからかったり、気味悪がったりすることばを聞くことが、まだあります。家族からも特異な目でみられたり、つらいことばをかけられたりする人が、まだいます。

「ただ個人として認めてほしい」というのは、ありのままを受け入れてくれる社会になってほしいということだと思います。東京都では10月5日、オリンピック憲章に基づいて、差別をなくすための条例が成立しました。

「あの東京大会をきっかけに、誰もがありのままでいられるようになったね」

2度目の東京での大会が、後から振り返ってそう言われるような大会になってほしいし、なるようにしなければいけない、そう思います。

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