障がい者 新型コロナ

声かけで心の“距離”縮めたい

松江放送局アナウンサー 藤原陸遊・ ネットワーク報道部記者 井手上洋子

「店に入った時のアルコール消毒液の場所が分からない」。 「ソーシャルディスタンスが分かりづらい」。 コロナ禍で新しい生活様式が求められるなか、視覚に障害のある人たちから戸惑いの声が上がっています。
どうしたら不安を取り除くことができるのでしょうか。

コロナ禍で音やにおいが…

三宅隆さん

重度の弱視の三宅隆さんは、通勤や買い物に行く時、頼りになるのは周囲の音やにおいです。 飲食店から聞こえる、食器が重なるガチャガチャとした音。
それに、肉を焼いた時の香り。

三宅さんが道を間違えずに目的地に向かっているかを確認するのに、こうした音やにおいは大事な情報です。 ところが、新型コロナウイルスの感染拡大で休業や営業時間が短縮になる店が増え、必要な情報が得られなくなったといいます。

(三宅隆さん)
「自分がどこまで来たのか目安になるので非常に大事な情報です。こうした情報が感じ取れないと、本当は聞こえてくるはずなのに、聞こえてこないな、どうしたのかなと不安になります」

ソーシャルディンタンスが分からない

「消毒液の位置が分からない」。
「レジでの並び方が分からない」。 視覚に障害のある人の多くが、新しい生活様式に難しさを感じているといいます。

日本盲導犬協会はことし2月末までの約1か月間、盲導犬のユーザーで視覚障害のある227人を対象に、外出した時の不安や困りごとについて聞き取り調査をおこないました。 調査は複数回答で、
▽「ソーシャルディスタンスが分かりづらい」が41%と最も多く
▽「周囲にサポートが頼みづらい」が22%
▽「商品などを触るため周囲の目が気になる」が21%などとなりました。

日本盲導犬協会 視覚障害サポート部 金井政紀 管理長

日本盲導犬協会 視覚障害サポート部の金井政紀 管理長は、次のように呼びかけています。

(日本盲導犬協会 視覚障害サポート部 金井政紀 管理長)
「周りの人のサポートも減り、視覚に障害のある人が困ってしまっている状況です。
『消毒液もう少し左ですよ』、『並ぶ位置もう一歩前ですよ』というちょっとしたひと言だけでも大変助かります」

ふだんの買い物さえ

ふだんの買い物でさえ、大変になったというひとがいます。

永島幸子さん

島根県松江市に住む弱視の永島幸子さんです。 商品の詳細を一目で判断することができないため、金額や消費期限などを確認するには、手に取ってしっかりと見る必要があります。 ところが、感染が拡大してからは周囲の目が気になって商品に顔を近づけることに気が引けてひまうといいます。

永島幸子さん

(永島幸子さん)。
「あまり近づけて見ると周りの人に『何をするのかな』と思われるんじゃないかと思います。大変です」

視覚に障害のある人たちの不安、どうしたら取り除けるのでしょうか。

不安を知ってサポートに

コロナ禍での不安を知ってもらい、サポートにつなげようという取り組みが始まっています。

東京の社団法人、「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」が子どもたちに向けてオンラインで開催したイベント。 進行役は全盲の檜山晃さんです。 最初に呼びかけたのは、次のことばでした。

檜山晃さん

「みんなの様子を見ることができないので、みんなの声が頼りです。どんどん声を出してもらいたいです」

見えない世界を体験してもらおうと、ふだん暮らしている地域の地図を書いてもらい、何を頼りに歩くのか子どもたちに考えてもらいました。 このなかで、檜山さんが、自宅から学校までの地図を書いた男の子に、どんな目印や危険があるかを聞きました。

途中、信号機のある横断歩道があると説明した男の子。 檜山さんが次のように問いかけました。

「その横断歩道、渡っていいかだめかはどうやって判断するの?」。

もうひとりの進行役の木下路徳さんは、信号について次のように説明しました。

木下路徳さん

「音がない信号機はね、正直、信号自体は頼りにならないんです」

視覚に障害がある人にとって、音が出ない信号機は渡るタイミングがわからないため、車の音や足音を頼りに横断歩道を渡っていると知った子どもたち。 子どもたちは体験会を通して、声かけの大切さを学んだといいます。

参加者

(参加者)
「やさしい声で話しかけて案内をしたいと思いました」

参加者

(参加者)
「目の不自由な人はいろんなものを使って、命がけで歩いているという大切さを知りました。積極的に話しかけて助けたいなと思いました」

“声かけ”の動き各地に

声かけをすすめようという動きが各地で広がっています。

「あい・らぶ・ふぇあ実行委員会」が作成したパンフレット

京都市内ではショッピングモールなどに、視覚障害者への対応をまとめたパンフレットが配布され、
店側が積極的に声をかけようという動きが進んでいます。 パンフレットを作ったのは、京都府視覚障害者協会などで「あい・らぶ・ふぇあ実行委員会」です。

「あい・らぶ・ふぇあ実行委員会」が作成したパンフレット

パンフレットには、入店した時に、ソーシャルディスタンスを伝える方法や、検温やアルコール消毒のサポートする方法などが描かれています。

あい・らぶ・ふぇあ 実行委員会 藤原健司 実行委員長

「たくさんのお店のかたから、視覚に障害のある人が1人で入店した時にサポートをしたいけれど方法が分からないという声をいただき、その声に応えたいと作成しました」

買い物のサポートも

買い物に困っていた永島さんが通う松江市のショッピングセンターでも、依頼があれば、研修を受けた従業員がサポートするサービスを始めました。店では、サポートにあたる従業員が永島さんの手にアルコール消毒液をかけた後、声をかけながら店の中を案内します。

商品の特徴をよく知っている従業員ならではの視点で、コロナ禍で触って確認しづらくなった商品の特徴をことばで詳しく伝えます。

永島幸子さん

(永島幸子さん)
「大変助かりました。いつもは買い物に2時間くらいかかるのですが、あっという間に終わったような気がします」

高田澄枝さん

(高田澄枝さん)
「楽しく買い物して頂くために私たちがおりますので、そのお手伝いができることがいちばん大事だと思います」

“声かけ”が困った人の不安を取り除く。 ちょっとひと声、かけてみませんか?

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