APDの症状で悩んでいる人たちの交流会
聴力は正常でも、人混みなど雑音の多い場所では必要な音や話を選び取れず理解できなくなってしまう。
APD=聴覚情報処理障害という症状があります。
この症状に苦しむ人たちが、悩みを打ち明けたり、情報交換をしたりする「APD当事者会」への参加者がいま急増しています。
11月下旬、APDの症状に悩む人たちで作る「APD当事者会」の交流会が都内で開かれ11人が集まりました。
初めて参加したという男性は、勤務する工場の作業音にかき消されて上司の指示が聞き取りにくい時があるといいます。
職場で症状の説明をして周囲の理解を得ようとしても、なかなか打ち明けられない悩みを訴えました。
「症状があるということを話すと、下手したら『そういう人は会社に来なくていいよ』となりかねない。どうしたらいいか悩んでいます」
他の多くの参加者からもAPDの症状があまり知られていないため、
職場や友人、家族に打ち明けられずに悩んでいるという声が上がりました。
APDと診断された直美さんです。
小さいころから聞き取りづらさを感じていましたが、
聴力検査では異常がありませんでした。
異変を感じたのは、働き始めてからです。
窓口で客の対応をしている最中に上司から口頭で指示をされ、
聞き取れないことがありました。
客から頼まれた荷物の宛先の“香川”を“カナダ”と聞き間違え、同僚に指摘されたといいます。
「音として聞こえていても理解できないことがある」
と職場で伝えましたが、なかなか分かってもらえずつらくなり、仕事をやめることにしたといいます。
APDと診断された直美さん
「APDの認知度がとても低いので、
それが本当なんだよ、うそじゃないんだよっていうのを肯定してくださると
とてもうれしいですね」。
APDについて長年研究をしている国際医療福祉大学の小渕千絵教授は、
症状が周囲に理解されにくいことが大きな課題になっていると指摘しています。
国際医療福祉大学 小渕千絵教授
「精神的な面で深い傷を負っている人はかなりいらっしゃいます。
もし周りに聞き取りづらい人がいるようであれば、もう一度言っていただいたり、はっきり話してもらうなどのちょっとした配慮が、症状で悩んでいるかたを楽にしてくださるかなと思います」。
APDの症状を周りに説明し、理解してもらったことで生活が大きく改善した人もいます。
大学生の堀内華さんは、「長年症状を打ち明けられず苦労した」
という当事者の話を聞き、周りに相談することにしました。
堀内 華さん
「知られていない分、苦労することが人一倍多いと感じたので、
打ち明けた方が自分のためにはいいんじゃないかと思いました」
まず、大学の友人に症状を伝えました。 大学は、新型コロナウイルス感染対策でオンライン授業になっています。 堀内さんにはパソコンからの音声が聞き取りづらいといいます。
うまく聞き取れず途中で授業の内容がわからなくなってしまった時は、友人にSNSを送信。 すぐに返信が来て、授業の内容を教えてくれるようになりました。
「すぐに教えてくれる友人の存在は大きく、本当に感謝しています」
さらに、アルバイト先でも自分の症状を説明し、どんな支援をして欲しいのか、具体的に伝えました。
話し合ったことで周りもサポートしやすくなったといいます。
以前、電話の相手の話が聞き取れず内容が分からなかった時に、
すぐに別のスタッフが代わってくれたことがありました。
こうしたちょっとした助けが堀内さんにとってはとても大きなことだといいます。
また、アルバイト先も大事なことは口頭で伝えるだけでなくメモにして渡すほか、
分からないことがあったら何回でも聞くよう堀内さんに促して支援してくれています。
寺田 裕美さん
「APDの症状が具体的にどういうものかは想像できないけれど、悩んでいることを理解することはできます。こういうふうにしてもらったら助かるというようなことが分かると対応しやすいです」
学んでいることを支援にいかそうと動きだした学生もいます。 聞き取れない人たちのために会話を文字に変換する技術を活用することにしました。
ペンダント型のマイクに届いた声を、スマートフォンに文字で映し出す機器を作り、
会話をスムーズにできるようにしたいと考えています。
川名 南美さん
「いろんな人が話題にしてくれたら。
APDのことを理解してもらえるような環境になったらいいと思います」
周囲の支援によって生活が改善した堀内華さん。 将来の夢は、困っている人を支える仕事に就くことです。
堀内 華さん
「私もいろいろな人から助けをもらってきたので、
困っている人たちのことを理解して、
支援の可能性のある人をつなげる仲介者になりたい」
症状や悩みを理解することで、支援につなげる、そんな動きが少しずつ広がっています。
2021/01/09
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