豪雨による被害が毎年相次ぎ、川の氾濫や土砂崩れで死者、行方不明者が出ています。命を守るには、安全な場所への避難が大事。
ところが、危険を知らせる情報があっても、避難に結びつかず、被害が出ています。いま、ためらわずに避難を進めるための“避難スイッチ”が注目されています。
2019年の台風19号で、自宅が浸水した宮城県丸森町の佐藤仁さん。避難勧告が発表されたあとも、自宅にとどまりました。当時の心境を次のように語ってくれました。 「こっちの堤防の方が高いもんですから増水しても向こうにいってもこちらに来ないっていう変な自信があったんです」
ところが、川が氾濫して自宅は浸水。水位が一気に床上1メートルまで上昇し、孤立状態となりました。
危機が迫っても、自分は大丈夫だと思い込む心の状態を”正常性バイアス”といいます。
これが、避難を妨げることがあるのです。
京都大学防災研究所の矢守克也教授は「人間誰しも、自分だけは大丈夫、前回が大丈夫だったんだから、今回も大丈夫という気持ちにはなりがちです。避難をするということ自体、エネルギーのかかることなので、このまま家で過ごしている間に何事もなく台風が通り過ぎて欲しいと思うのは人間のさがだとは思います」と話しています。
その上で、あらかじめ”避難のきっかけ”を決めておくことの大切さを訴えています。 「自分の避難のきっかけにするものをあらかじめ、”避難スイッチ”という形で事前にやっぱり決めておく、選んでおくっていうことが大事だというふうに考えます」
災害が起きる前に、迷わず避難するためのきっかけ、”避難スイッチ”を決める取り組みは各地で進んでいます。
兵庫県宝塚市の中心部を流れる武庫川は、氾濫すれば大きな被害が出るおそれがあります。
そこで、橋に取り付けたのが この“目印”。今の水位が、一目でわかる表示板です。
自主防災会の喜多さんは「逃げられるように、逃げ遅れのないようにということで、この目盛をつけました」と話していました。 いまは3点2メートルを目安に、避難を呼びかけようと考えています。
このほか避難の目印となる表示板を設置したのは、武庫川の3つの支流、一後川、荒神川、大堀川。
それに、住宅街のため池にも設置しました。速やかな避難に役立てようとしています。
自主防災会が作った防災新聞には、“目印スイッチ”も掲載。住民に周知するよう、つとめています。
自主防災会の喜多さんは「ともかくわかりやすい、住民に説明しやすい、ということが基本です。住民の方々全員に周知できれば、ひとりも逃げ遅れることなく命を救うことができると思っています。ひとりでも命を守りたい、そういう思いです」と話していました。
大分県日田市の鈴連町では、地域で声をかけ合って避難をうながす、”声かけスイッチ”を取り入れました。
その仕組みです。地区を8つの班に分割し、自治体の避難情報をもとに、自治会長が各班長に連絡。住民全員に避難を呼びかけます。
きっかけは、3年前の九州の北部を襲った豪雨。激しい雨音で、屋外のスピーカーも聞こえなくなり、避難の呼びかけが難航したのです。
7月の記録的な豪雨では、この“声かけスイッチ”が役立ちました。
雨が強まると、自治会の井下さんは、各班長に連絡を取ったのです。その結果、住民はあらかじめ安全な場所に避難し、情報伝達や安否確認もスムーズにいきました。
「よかったなと感じますね。経験していかないと、この避難方法がよかったのかわからないですから」自治会の野田さんはそう話していました。
台風の豪雨で、避難せず、孤立してしまった宮城県の佐藤さんも、今では、自治体の避難勧告などを自分の”避難スイッチ”にしています。
佐藤さんは「警報が出る前に全部片づけて避難してしまうという考え方がベストだと思ってます」と話していました。
避難することを迷わない、そしてためらわない、それが命を守ることにつながります。自分自身の、そして家族の避難スイッチは何になるのか、一度考えてみて下さい。
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