APD

“聞こえているのに 聞き取れない” APD当事者の悩み

APD取材班 ネットワーク報道部 井手上洋子

「雑音の中では話が聞き取れない」「早口や小さな声が聞き取りにくい」こうした症状、APD=聴覚情報処理障害といいます。
聴力は正常でも、人混みなど雑音の多い場所では必要な音や話を選び取れず理解できなくなってしまう症状で、いま、こうした悩みを訴える人が増えています。あまり知られていない症状のため周囲に理解されず、仕事や対人関係につまづくことも多いことから、当事者たちが苦しい現状を知ってほしいと、ネットを通じて発信する動きが広がり始めています。

異変感じた高校時代「話聞いてないよね」

笑歩さん

症状に悩む笑歩さん(23)です。
異変を感じたのは、高校生の頃でした。
「話を聞いてないよね」「たまに変なところであいづちするよね」。
友人からの思いがけない言葉が、きっかけでした。
当時、聴覚情報処理障害の症状を知らなかった笑歩さんは、うまく聞き取れないことを友人に説明してもわかってもらえず、戸惑ったといいます。 近所の耳鼻科など、複数の医療機関をまわって聴力検査を受けましたが、正常だと言われました。
医師に違和感を訴えたものの「そういうこともある」、「気にしすぎ」と言われ、明確な診断はつきませんでした。 悩んだ笑歩さんが、インターネットなどで調べたところ、出てきたのがAPD=聴覚情報処理障害という初めて聞くことばでした。

APDの聞こえ方って?

周囲に理解されにくい症状を知ってほしいと去年始めたのが、動画投稿サイトの配信です。
笑歩さんには、実際どのように聞こえているのか投稿した動画で再現しています。

笑歩さんのYouTubeより

例えば、次のようなことばも。
「携帯電話はマナーモードにしていただくか電源をお切りください」。
にぎやかなレストランでは、人の話し声や食器の音にまぎれ、一部の音しかわからないというのです。 「携帯電話は・・・・にしていただくか・・・・切りください」

「コンビニやスーパーなど、買い物の時が大変です。
いろいろな音が入って、耳に入ってくる情報が多いし、色々な音が入るので、頭がパンクしてしまいます。苦手なことはいっぱいあります」

ポンコツだと自分を責めた 仕事を失った

症状に悩み、仕事を失った人もいます。
ことし7月、自分の経験を漫画にした、きょこさん(39)です。

きょこさんが描いた漫画

「このあいだ日曜日さー家族で水族館に行ったんだけどね」という何気ない会話も。
会話の音は聞こえていても、雑音にまぎれて、もやがかかったようになり、内容が理解できないといいます。

症状に気づいたのは、2年半前、工場でパートの仕事を始めた時でした。
上司の指示は全て口頭でしたが、機械の大きな音で聞き取れず、何をすればよいのかがわからなかったといいます。
さらに状況を悪化させたのが、仕事で着用するマスクでした。
上司の声がこもって聞き取りづらくなるうえ、口元が見えず話の内容がわかりづらくなってしまい、思うように仕事をこなすことができませんでした。

当時は育児のストレスも重なり、落ち込んだというきょこさん。
結局、仕事を辞めざるを得なくなったといいます。

きょこさん

「みんなふつうにできているのに何で自分はできないんだろう。
まさか聞こえのせいなんて思っていなかったので、ただただ自分がポンコツなんだ、自分ってできないんだと思ってしまって、それがつらかったです」

実態つかめていない日本 支援体制も不十分

聴覚情報処理障害は、脳の神経機能の問題などが原因とも指摘されていますが、詳しい原因はわかっておらず、明確な治療法もありません。
海外では、学齢期の子どもの約3%に症状があるなど、さまざまな研究報告もありますが、日本では詳しい実態がつかめていないのが現状です。
長年、聴覚情報処理障害の研究をしている国際医療福祉大学の小渕千絵教授は、日本では支援体制が整っていないと指摘しています。

国際医療福祉大学 小渕千絵教授

「いろいろな研究を見ると、日本でも海外と同じ位の割合の人がAPDの症状を持っていると考えられます。
ところが、日本では海外のように幼い頃に症状を発見し、支援する体制が整っていません。
このため、大人になってアルバイトや就職をしたあと、仕事でミスを繰り返して初めて症状に気付くケースが多いのが特徴です。
症状は個人差が大きく、症状を疑った場合は、専門の医療機関を受診して、自分の症状の特性や対処法を知って欲しい」

症状に悩む人たちが当事者会を作って生活の悩みや医療に関する情報を発信しています。 「APD当事者会」のwebサイトはこちらです。(NHKサイトを離れます)

寄せられたご意見[12件]

2020/10/17

電気工事士をしている男性です。建築現場での作業が主ですが、現場内は他業者も含め様々な雑音が出る環境で、私は仕事の指示や合図や会話を聞き取ることが出来ず、何度も聞き返してしまい難聴扱いをされます。ですが、先日の健康診断でも聴覚の検査では異常はありませんでした。恐らくはAPDだと思うのですが…

2020/10/12

大学教員をやっていました。大教室で学生に質問をして、うまいこと手を挙げて答えてくれる学生がいても(この頃はなかなか返事をしてもらえません)、その答えを上手く聞き取れないことがたびたびありました。このようなことが度重なると、学生の発言を聞くときに、えらく緊張しました。今時のスマホから調整できる高価な補聴器を買ってみましたが、効果は今ひとつです。 思い返せば、小学生の時、みんなで舞台に上がって合唱した折、今どこを歌っているのか分からなくなり、混乱した記憶があります。また、楽器のレッスンの折、先生のピアノの伴奏を聴きながら自分のパートを演奏するのに困難を覚えました。今APDの情報に接してこれらのことの原因がわかったように思います。 脳の機能障害は目に見えません。当人は、他の子が上手にこなしているのをみると、大いに落ち込んだものです。

2020/10/09

もう35年前ですが、子供の幼稚園のお迎えに行くと園庭に200人ぐらいのお母さん方が、5人から10人くらいの縁を作りお喋りします。 その時間が大変憂鬱でした。聞こえているのに聞き取れないのです。ワイワイガヤガヤの中では聞き取れない事が多々ありました。聞こえてるフリをしたり、自分だけ話しがわからなくどうしたらいいか悩む状態でした。やっとの事で家に帰ってもう心身共にクタクタで疲れきってしまってましたね。理由がわからず自信をなくすやら、神経を使うので辛かったです。色々な声がとにかくまとまりなくワンワンと入ってくる感じです。 もしも聴覚の異常だと分かっていれば何かしら対策や、安心に繋がっていたでしょう。治療法もないとなると、今何も知らず悩んでいる方が気の毒でなりません。小さい子も人の話をちゃんと聞けない子とか誤解されるでしょうね。早くこの症状の調査や、理解を多くの人に認知する活動をしてほしいとおもいます。私は主婦として家庭におりました。友達も少人数と行動をとるようにしましたから人生の後半は不便はあまり感じませんでした。早くこの情報を知っていたら人生そのものへの影響は大きいと思います。今あの園庭での事、父母会などを想像するだけで辛かったこと、不安だったことを 思い出します。しかしこの歳ででも、自分のせいではなくて病気だったんだと思うと、納得いたします。人が好き、話が好きな性格ですから、もっと楽しい母親生活ができたはずだったんですものね。全然恥ずかしくない事だったんですね。何回も言いますが 今この事で悩んでいらっしゃる方にこの症状の情報が届きますように、放送活動をお願いいたします。学生、職場で悩んでいる方にこの情報を届け早く救って差し上げて欲しいと思います。また医学的な研究や治療法を進めるためにも医療関係者の方々への情報提供もしていただきたいですね。世界的に見て日本は遅れているとの事、生活に支障を持つ大切な分野ですから 早く研究をしていただきたいと切に思います。

続きを読む

関連記事

  • APD
    “聞こえているのに聞き取れない” 生活改善のヒントは?

    (2020/09/15)

    APD=聴覚情報処理障害という症状を知っていますか?聴力は正常でも、人混みなど雑音の多い場所では必要な音や話を選び取れず、理解できなくなってしまう症状です。今、こうした悩みを訴える人が増えています。 取材を進めると、症状を抱えながらも生活を改善させるヒントが見えてきました。

  • APD
    音に苦しむ「聴覚過敏」知ってほしい

    (2019/09/22)

    生活する中で聞こえるまざまな“音”に苦しむ人たちがいます。「聴覚過敏」という特性がある人たちです。周囲から入ってくる音に敏感に反応し、ひどい時には痛みや苦しさを感じることがあります。

  • 日本語で話しかけてほしい

    (2019/06/05)

    3年前の熊本地震で、避難所になった体育館の写真です。

  • ヘルプマークをつけて外出してみたら

    (2018/11/29)

    「ヘルプマークをつけて外出したら『頭のおかしい人が持つやつ?』と言われ泣いてしまった」。11月上旬、こんなツイートが話題になりました。

  • 5センチの段差をなくしたい

    (2018/09/21)

    大好きなお店で、熱々のカレーを食べたくても、店の入り口にある段差をひとりでは越えられず、いつもテイクアウト。子どもと毎日遊びに行く公園の入り口にも段差。

最新記事

  • いま、新型コロナウイルスの影響で、子どもたちの「学び」が危機に。 親の収入が減ったことで、進学に悩んだり学ぶことをあきらたりする子どもが増えているのです。

  • 新型コロナウイルスの感染拡大で、大きく変わってしまった私たちの生活は、子どもたちの学びの機会にも影響を及ぼしています。 この1年、学校が休校になって学びの機会を失ってしまったり、親の収入が減ったために進学することを悩んだりする子どもも増えています。 子どもたちの学ぶ機会を失わせないために立ち上がったのは、地域に住む大人たち。 リモートワークなどでできた時間を使って、無料の学習支援教室に社会人が集まっています。

  • あれから10年。いま、震災の記憶や教訓を伝え続ける難しさに直面しています。 いずれ起きるかもしれない災害にどう備え、命を守るために何ができるのか。 みずから考え、行動するための"スイッチ"を紹介します。

  • 「新型コロナウイルスに感染した人などへの差別やひぼう中傷をなくしたい」。 差別をなくそうと声をあげるのではなく、ちょっとした方法で感染した人たちを守っていこうという取り組みがあります。