新型コロナ

いま、免疫力を高めよう~新型コロナ、感染へのそなえ~

(2020/4/6 京都放送局アナウンサー 江原啓一郎、ネットワーク報道部記者 井手上洋子)

免疫力フェア

千葉県柏市の大型書店。販売経験25年の店員、佐野圭一さんが3月からフェアを始めました。テーマは『免疫力あげていこう』。免疫に関わる30種類以上の書籍を入り口に並べました。新型コロナウイルスへの不安が広がる中、「お客様の心配をなんとかやわらげたい」と企画したそうです。

佐野圭一さん

佐野さん
「病院ではないので、じゃあ、何ができる?と考えた時に、免疫や健康に関する本をそろえようと思い、出版社にかけあって取りそろえました。関心はとても高くて本を手にする方が多いです」

そもそも免疫って?

関心を集める免疫。それはウイルスなどの病原体から私たちを守る防御システムのようなものです。血液の中にある白血球に含まれる免疫専門の細胞(免疫細胞)の働きでこのシステムが作られます。体内にウイルスが侵入してくると、免疫細胞が攻撃を開始し、私たちを守ろうとするのです。 免疫の研究が専門の京都大学iPS細胞研究所の濱崎洋子教授は、免疫という兵隊がウイルスと戦うと考えると、その仕組みがよく分かると言います。

免疫力が高いとは何?

濱崎教授
「免疫にはウイルスに感染した細胞をそのまま退治する『T細胞』と呼ばれるものやウイルスにペタペタとくっついて、それを働かなくする『抗体』などがあります。免疫=兵隊の数が多くてたくましいほど免疫力が高いといわれ、ウイルス=敵に対して強くなります。体の中で増えていくウイルスに対応できるだけのたくましい兵隊を増やせるかどうかが症状を抑えるポイントの1つなんです」

年齢による違いも

この免疫の力、年齢などによって変化します。

かぜなどの一般的なウイルスに感染した場合、免疫力がどう作用するかを表したグラフです。健康な若い世代の場合、ウイルスが体内に侵入してから1週間ほどたつと、免疫の活動量が一気に増えて、やがてピークを迎えます。ウイルスを排除し、症状がおさまるとともに免疫の活動量も減っていきます。 しかし高齢者の場合、1週間を過ぎても免疫の活動量があまり増えず、免疫力が若い人と比べると、低くなっています。これは50歳を過ぎるころから、『T細胞』と呼ばれるウイルスを攻撃する免疫細胞などが新しく作られにくくなることが原因の1つとみられています。

未知の怖さも

また濱崎教授は新型コロナウイルスなど未知のウイルスに感染した場合、免疫が作用し始めるまでに、より時間がかかる可能性もあるといいます。

京都大学iPS細胞研究所 濱崎洋子教授

濱崎教授
「新型は誰もが初めて見るウイルスです。すると敵のウイルスに対抗できる数にまで、免疫の兵隊が増えるには時間がかかるかもしれません。その間にウイルスが増えてしまうのがこわいんです」

そこで免疫力を高めて対抗

濱崎洋子教授は重症化を防ぐうえで私たちができることは、それぞれが持っている免疫の力を最大限に高めておくことだと言います。高齢でも免疫の活動を活発化させることがウイルスとしっかり戦えることにつながります。 逆に若者でも免疫力が極端に下がるような生活を続けてしまうと、重症化につながるのです。免疫力を上げるにはポイントが3つあると言います。

1つは睡眠。しっかりとした睡眠をとることは、疲労回復や栄養の吸収を高める効果があり、免疫力を上げることができると考えられています。一方、睡眠不足になるとストレスを感じた時と似たホルモンが分泌され、免疫力を下げてしまいます。
そしてバランスのとれた食事。ウイルスを攻撃する免疫細胞が活発に活動するには糖分、アミノ酸、ビタミンなどさまざまな栄養が必要です。バランスのよい食事でしっかりと栄養をとることが免疫の働きをよくします。
また体を温めることも大切です。免疫細胞は体温が上昇すると活動が活発になることがわかっています。効果的なのが「運動」と「入浴」。適度な運動は体を温めるだけではなくストレスの解消にもつながります。入浴は、ぬるめの湯にしっかりとつかり体の芯まで温めることがポイントです。

体内に入るウイルスを減らす

さらに、感染したとしても体内に入るウイルスの量を減らしておくことも大事。戦う相手が少なければ免疫が作用して撃退する可能性が高まると考えられるからです。その方法は基本的な感染対策と同じです。

手洗いや消毒に加え、水分補給や粘膜の保護が大切なことについて濱崎教授はこう話しています。

濱崎洋子教授
「粘膜が乾いてしまうと、ウイルスが入りたい放題になってしまうんです。水を少しずつ口に含むなど、保湿をして入りにくくしておくことも対策になると思います」

子どもと妊婦

また、赤ちゃんや妊婦について産婦人科専門医の高尾美穂さんに話を聞きました。高尾医師によると免疫細胞がたくさん集まっているのがリンパ節で、のどの下や両脇、腹部、膝の裏側などにあり、侵入してきたウイルスなどを退治しているそうです。 私たちが「リンパ節が腫れた」と感じる時は、免疫の仕組みが働いてウイルスなどの侵入者と戦っているサイン。また口から大腸にかけての消化管の管も特有の強い免疫の仕組みがあり、鼻やのど、気管支なども同じような仕組みを持っていると言います。

産婦人科専門医 高尾美穂さん

赤ちゃんについては…
「月齢によるので一概には言えないのですが、発熱による脱水症状への抵抗力などは大人よりも弱く、免疫力にも影響するので今の時期はより注意が必要です。やはり不要不急の外出を避けたり、無理に環境を変えたりしないようにしてほしいです」

妊娠中の人については…
「妊娠している=免疫力が下がるというわけではありません。体調に気をつけている人が多いと思うのでそうした生活を続けてほしいです」

ただ、睡眠不足やストレスで免疫の力が落ちるリスクがあるため、「今、先が見えないことに不安を感じている人がたくさんいると思いますが不安な気持ちを否定せず、自分の気持ちとして感じ取りながら、例えば好きな音楽を聴いたり映画をみたりという『楽しいな、穏やかな時間だな』と感じる時間を意図的につくってほしいです」と話していました。

いま、大事なこと

新型コロナウイルスに免疫がどのように作用するのかまだ詳しく分かっていません。 しかし、治療方法が確立されていないまま、感染が広がり続けるいま、感染しないための対策と同じくらい、感染した時に重症化しないための対策が大事になってきています。

濱崎洋子教授
「もともと持っている免疫が常にしっかり働くようにしておくこと。新型コロナウイルスと戦うためにはそれが大切です」

最新記事

  • 今、高齢者の体の急速な衰えが問題になっています。家にこもりがちになることで起きる「コロナフレイル」です。コロナ禍がいつおさまるのか見通せないなか、どうやって防いでいけばいいのでしょうか。

  • いま、新型コロナウイルスの影響で、子どもたちの「学び」が危機に。 親の収入が減ったことで、進学に悩んだり学ぶことをあきらたりする子どもが増えているのです。

  • 新型コロナウイルスの感染拡大で、大きく変わってしまった私たちの生活は、子どもたちの学びの機会にも影響を及ぼしています。 この1年、学校が休校になって学びの機会を失ってしまったり、親の収入が減ったために進学することを悩んだりする子どもも増えています。

  • あれから10年。いま、震災の記憶や教訓を伝え続ける難しさに直面しています。 いずれ起きるかもしれない災害にどう備え、命を守るために何ができるのか。 みずから考え、行動するための"スイッチ"を紹介します。