交通ルール

横断歩道がこんなに危なかったとは

(ネットワーク報道部:田隈佑紀・鮎合真介 岡山局:遠藤友香 津局:須川拓海)

信号のない横断歩道で歩行者がいたら歩行者優先で一時停止。
でもドライバーの多くが「自分が通り過ぎたら、あとで渡れるから」と思い、守っていなかったとしたら…。
当たり前を常識にするために何が必要なのでしょうか?

SNSに相次いだ「危険動画」

SNSに投稿が相次いでいる動画があります。その一つがこちら。

2月にツイッターに投稿され、100万回以上再生されている映像です。茨城県の県道をバイクで走行していた男性が取り付けていたカメラで記録しました。 左手には、信号のない横断歩道を渡ろうとしている3人の親子がいます。男性のバイクは、手前で一時停止をしたものの、右脇から後続のバイクや車が次々と追い抜いていきます。
「追い越し禁止」の黄色のセンターラインを超えながら、車が「気をつけろ!」と言わんばかりにクラクションを鳴らして通過していくのです。もし家族連れが渡っていれば、あわやという場面。れっきとした道交法違反です。

(動画を撮影した男性)
「歩行者の立場だったら、どう思うか。本当に危ないですよね。こういう運転をしないでほしいという気持ちで投稿しました。急いでいるのかもしれませんが、その後、普通に運転していて追い抜いたバイクや車にすぐに追いついたので、危ないことしてもそんなに到着時間が変わるものではありません。あおり運転の問題もありますが、みんな余裕がなくなっているのかなと最近、運転していて感じます」

こちらは2月、横浜市の男性が運転する車のドライブレコーダーに記録されていた映像です。朝の出勤中、男性が運転する車が前方に信号のない横断歩道を渡る人を見つけ、停止しようと減速。その脇をスピードを上げて別の車が追い抜いていきました。 追い抜いたときには、親子連れとみられる2人はまだ横断を渡っている途中。
さらに、別の人も横断歩道を渡ろうと待っていましたが、一切停止することなく去って行きました。

(動画を撮影した男性)
「この横断歩道は通学中の生徒も多いので、いつも注意して通っています。事故にならなくて本当に良かったと思いました。」

それ法律違反ですから!

動画に記録された車やバイクは、すべて道路交通法違反です。
信号のない交差点で歩行者がいる場合の一時停止義務は、道路交通法第38条に明確に書かれています。

要約すると
・横断する人や自転車がいないことが明らかな場合のほかは手前で停止できるよう減速。
・横断中、または横断しようとしている時は、一時停止して道を譲る。
・横断歩道の手前から30メートル以内の場所では追い越し禁止。
(警察庁ホームページより抜粋)

そして事件は起きた

こちらは1月16日、東京・品川区でバスのドライブレコーダーが記録した映像です。
信号機のない横断歩道で、バスが手前で止まったことを確認して、19歳の女性が渡り始めます。

そこに、バスを追い越してきたミニバイクが、一時停止することなく女性をはねました。
女性は肩を脱臼するなどのけがをしたということです。 ミニバイクの男は、転倒した後、再びバイクに乗って逃走し、警視庁がひき逃げ事件として男の行方を捜査しています。

一時停止は17.1%

信号機がない横断歩道で歩行者がいるのに一時停止しない。この法律違反は実はドライバーの間では常識になっているのではないかと思わせるデータがあります。 JAF・日本自動車連盟が2019年に全国で約1万台を対象に行った調査によると、歩行者が渡ろうとしている場面で一時停止した車はわずか17.1%でした。

JAFのホームページより

一時停止する割合が最も低かったのは三重県で(3.4%)、次いで青森県(4.4%)、京都府(5.0%)でした。 一方、一時停止する割合が最も高かったのは長野県で(68.6%)、都道府県の中で唯一、6割を超えました。

改めて調査してみたら…

本当にドライバーは止まらないのだろうか?全国で最悪の結果となった三重県警察本部では自ら調査に乗り出しました。
調査は去年12月、信号機がなく小中学校の通学路にある横断歩道36か所で行われ、歩行者にふんした警察官が横断歩道を渡ろうとした際に右から来る車が一時停止した割合を集計しました。

三重県警の実態調査(背景は加工しています)

その結果、JAFの調査方法とやや違うため単純に比較はできませんが、約8割の車が止まらなかったのです。

“自分が通り過ぎればわたれる”

それにしてもなぜ、ドライバーが、信号機のない横断歩道で一時停止しないのか?その手がかりとなるアンケート調査をJAFが2017年に行っていました。

「自車が停止しても対向車が停止せず危ないから」
「後続から車が来ておらず、自車が通り過ぎれば歩行者は渡れると思うから」
「横断歩道に歩行者がいてもわたるかどうか判らないから」
「一時停止した際に後続車から追突されそうになる(追突されたことがある)から」

でも、歩行者は車が止まってくれると思っています。ここは歩行者の立場に“スイッチ”して考えてみましょう。

脱!止まってくれない栃木県

そのための、とてもユニークな動画があります。2018年の調査で全国最下位だった栃木県警察本部が制作しました。ちなみにこの時の一時停止率はなんと、0.9%。「ほぼすべての人が止まらない」という数字です。 その意識を大きく変えねばと、栃木県警などが作ったのがこの動画です。車が横断歩道で止まらないために、恋人同士が会うことができないという面白くも切ないストーリーで、県内限定のテレビCMやスポーツ会場などで繰り返し放映。 ポスターも作って街頭啓発も行いました。
その甲斐あって2019年には、0.9%から13.2%と大幅に伸びたそうです。

栃木県警 野澤課長補佐

「“最近、車が結構止まってくれる”という声も市民から聞くようになって、着実に意識は変わってきている。我々が見ていても『おお、ちゃんと止まったじゃん』と思う場面も出てきました」

“乱横断”も招く

また、横断歩道で一時停止しない問題は、別の事故を誘発しかねないといいます。

(栃木県警 野澤課長補佐)
「“横断歩道にいても結局止まってくれない”のであれば、歩行者が横断歩道のないところを渡り、より多くの事故を引き起こす“乱横断”につながる。それを防ぐためにも横断歩道を歩く限りは絶対安全だ、と思える環境を作らなければいけないんです」

栃木県警では、一定の成果を上げられたとして第二弾のCMを制作し、4月から放送することにしています。撮影には、第1弾の動画にカップル役で出演した若い男女が再び起用され、今回も横断歩道を巡って恋人同士のコミカルなドラマが繰り広げられる予定です。

子どもは車に気付けない

「車が近づけば歩行者が気付いて止まってくれる」 そんな風に思い込んでいるドライバーに認識を改めてもらおうと、JAF岡山支部では、
「チャイルドビジョン」を活用したユニークな講習会を開いています。

チャイルドビジョンとは、6歳児の視野は大人の6割程度という海外の研究報告を踏まえて作られた紙製のメガネです。
これをかけると子どもがいかに狭い範囲しか見えていないのかがわかります。

JAF岡山支部 建部拓さん

「車のドライバーは、自分が見えているから歩行者や自転車も見えているだろうと思いがちですが、実際には見えていない。結果、大きな事故になってしまう、非常に怖いことだと思っています」。

全国1位 長野県の秘けつ

一方、7割近い車が一時停止を守っているのが長野県です。JAFが調査を始めた2016年以降、4年連続で1位となっています。 実際に車が一時停止をしているのかを確かめようと、朝の通勤通学の時間帯に長野市内で取材しました。よく見ると、歩行者がドライバーに軽くおじぎをしていました。大人も子どもも…。ちなみに周囲の長野県出身者に聞いても「それ、当たり前だよ」と平然と答えます。

2月に長野市で撮影しました

いったいなぜ?その理由をいろいろ尋ねたところ長野県内の先生たちで作る「信濃教育会」の後藤正幸会長は、「長野の人たちがあいさつを大切にしてきた成果ではないか」と話してくれました。

信濃教育会 後藤正幸さん

「私たちはやっぱり長年の学校、地域、家庭で、あいさつとか会釈とかいうものを大事にしてきたことが顕在化しているのではないかと思います。ドライバー=かつての子どもたちだし、今の子どもたちも車が止まってくれるという、その安心感みたいなものを持ちながら大人になっていくわけです。ドライバーも子どもも、ある意味では世代を超えながらみな同じ体験を共有している。そのことが大きいのではないかと思います。
『決まりがあるから止まりなさい』と言って止まらないのは、他県である意味で証明されています。運転手にとって快いこと、また歩行者にとっても快い体験を重ねていくことが、実はとても重要じゃないかなと思います」

寄せられたご意見[18件]

2020/10/12

つくば市は歩道が発達していて地方都市としては歩行者や自転車が多いと思います。横断歩道も目立ちやすくなっていたりします。それでも止まる車は僅か。信号のない交差点の横断歩道を渡っていても、路線バスが曲がって来て怖い思いをすることがよくあります。栃木県で1%が13%になって効果があったと自賛しているようですが、止まるのは10台に1台ですよね。危険はちっとも減っていないと思います。米国や西ヨーロッパでは、横断歩道近くに立っていると車は必ず止まるし、渡り終えるの待たないで発進する車が捕まるのも何度も見かけました。ほんの数分の路上駐車であっても必ず切符が切られるように、ルール違反は高くつくからです。交通ルールを定着させるには、マナーに訴えるだけでは、守らない人が得をすると皆が思うだけで、解決しないと思います。少なくとも定着するまでは厳しい取締りをしないと。その意欲がないだけでは?

匿名

2020/04/23 60代

未来スイッチの横断歩道一時停止の番組を見ました。私も3年位前から、横断歩道に歩行者がいる場合は必ず停止していますが、以前追い越して行った車が歩行者と事故になりそうになり、ひやっとしたことがあります。このような番組を繰り返し放送していただくことによって意識が高まる事を期待します。

匿名

2020/04/14 70代

青信号で渡ろうとしているのに車は横断歩道に入り込んで来て渡ろうとする。車が優先するのだという傲慢な人がいます。警官がいる時だけ法を守る人が多い。

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