車いす送迎に潜む危険 寄せられた声から

(2020/3/14 取材 富山局:山澤実央 函館局:浅井優奈 渡邉 健 ネットワーク報道部:井手上洋子 )

車いすのお年寄りを車に乗せて送迎する際に潜む危険性を、このサイトやテレビで伝えたところ、当事者や福祉施設の関係者などからさまざまな声が寄せられました。

「危ないのはわかっているがどうすれば…」
「ガイドラインのようなものがほしい!」
「海外の車いすは国際基準に従って作っている」
「危ないのはわかるが、外出の楽しみを奪わないでほしい」

さっそく取材しました。

車いす送迎に潜む危険とは

事故を起こした福祉車両

取材のきっかけは、デイサービスなどにお年寄りを送迎する車の事故が相次いでいたことでした。取材すると座席に座っていた人は無事だったものの、車いすのまま乗り込んだ人だけが命を落としていたのです。

これまでわかったのは以下のことです。

1)車いすに乗った人は、体の状態や車いすの構造によって3点式のシートベルトが装着しにくいことがある。2点式ベルトでは、事故の衝撃でベルトで腹部が圧迫され命を奪われるおそれも。

2)日常生活で利用されている車いすは車に載せることを前提に作られていない。このためシートベルトが装着しづらかったり、事故の衝撃に耐えられる強度がなかったりする。また、衝撃から首を守るヘッドレストもない。

3)車載専用の車いすも製作されているが、重いなど日常生活で使いづらく普及していない。

こうした内容を1月に「NHKニュースおはよう日本」で放送し、このサイトでも伝えたところ、様々な声が寄せられました。前回の記事はこちらです


1・介護施設スタッフ「簡単なガイドラインを」

「独自に安全への取り組みを行っているが、本当に安全が担保されているのか疑問があります。安心して送迎ができるように、安全性についての基準やガイドラインが整備されることを望んでいます」

福岡市にある介護施設のスタッフから寄せられた意見です。
この施設の利用者の中には、姿勢が前かがみのために3点式シートベルトを装着できない人がいるほか、認知症の影響で自らベルトをはずしてしまう人もいると言います。

車載専用の車いすを用意するのは費用や人繰りの面からも難しいため、車いすに後付けできるヘッドレストを活用しているそうです。しかし前屈みの人は必ずしも首が守られるかは疑問も残ると言います。

施設で使っている車いす

介護現場の方からは、同じように「シートベルトをうまく装着できない」「ヘッドレストがない」といった不安の声がほかにも多く寄せられました。

国は「車いすの種類や使う人の体の状況は様々で、一律の基準を設けるのは難しい」としていますが、ガイドラインのようなものが欲しいという声も切実だと感じます。

2・鞄メーカー担当者「安全グッズの開発を進めています!」

「安価で安全性は担保できるものができないか、開発を進めています」

東京・墨田区にあるかばんの製造・卸売会社では、シートベルトが体に食い込まないようなグッズを開発しているということです。試作品を見せていただきました。

救命胴衣風の衝撃吸収機能付きのベストです。このベスト、車いすに4点で固定されていて、衝突の際に体をしっかり保持します。

また胸の左右にクッションがあり、ベルトが食い込みにくくなっています。手軽に使えないと広まらないとして、軽い素材を使い簡単に取り外しができるワンタッチのバックルが使われています。
もちろん、車に備え付けられているシートベルトを装着することが大前提です。

本業の鞄以外で開発を手がけたのは、従業員の家族にデイサービスに通っている人がいるほか、社長自身の親も80代半ばという理由がありました。
自社の技術を応用すれば、もっと安価に安全を確保できないか、社会貢献できるのでかないかと考えたということです。

鞄メーカー担当者
「まだ開発段階ですが今後はさらに強度を確かめたり、使い勝手がよくなるように調整を進め、さまざまな利用者のニーズにあうように商品化を目指したい」

外国製の車いすへの投稿が目立ちました

外国製の車いすについてのご意見も目立ちました。

介護用品のレンタル・販売業者
「弊社ではかなり前から車いすなどの車載については、ヨーロッパの衝突試験をクリアした海外製車いすを取り扱っています」

宮城県介護研修センター・大場薫さん
「日本で流通している車いすの多くは、車に載せることを想定してつくられていません。このため車に載せたいという人には、車いすの固定の安全性を定めたISO規格=国際標準化機構の規格に適合した外国製の車いすを紹介することが多いです」


※取材メモ:「ISOとは」

工業製品や使用技術の規格統一を推進するための国際機関。これまでに2万件以上の国際規格が定められています。
車載用の車いすについては、大きくわけて
・車いすを車に固定するための方法や固定具についての規定
・前方衝突時の衝撃(20G)の安全性を確かめるテスト方法
が定められています。

このメールをいただいた方に、IS0の規格に適合した外国製の車いすの写真を見せていただきました。

スウェーデン製の車いすです

ひと目見てわかるのは、フレームが太く頑丈そうなこと。そして車に固定するためのフックをかける場所がすぐにわかるよう、カラビナのような形をした「固定場所のマーク」が付けられていることです。

介護用品のレンタル・販売業者
「海外製の車いすで車に乗せるものは、ISOに定められた規格を満たしたものだけが車載用として認識されています。またヘッドレストについては別売りのものを使うほか、車側に装備されているものもあります。
日本の車いすと海外の車いすを比較して感じるのは、日本の場合は“介助者目線”で選ばれているということ。それは介助者にとって軽くて使いやすい車いすということです」

日本の送迎車には日本製車いすを

メールを送っていただいた1人で、宮城県大崎市にある県の介護研修センターに勤務している大場薫さんも、外国製の車いすを紹介することが多いと言います。ただ外国製は日本の送迎車に合わない場合もあるそうです。

大場薫さん
「ワゴン車などの床に取り付けられている車いすを固定するフックは、日本で広く流通している車いすのサイズに合わせてつくられています。このため外国製の車いすを車内に固定しようとすると、フックのサイズや形状が合わないことなどがあります。車いすと車は一体で車載を考える必要があります。車いすメーカーと自動車メーカーが一緒になって課題の解決に取り組んでほしいです」

日本製の車載用車いす

日本の一部のメーカーも車載を前提にした車いすを製作していますが、統一した基準はありません。ISOが絶対という訳ではありませんが、やはり統一した基準に向けた議論が必要だと感じます。

福祉車両は社会への入り口

最後に車いすを利用している当事者、富山市に住む山本辰美さんから寄せられた声を紹介します。

山本辰美さん


山本辰美さん
「週に3回、送迎の車に乗ってデイサービスにでかけ、そこでの会話などが気分転換になっていて、自分を運んでくれる福祉車両は『社会への入り口』です。だからこそ安全性も大事ですが、必要以上に規制が増えると外出がしにくなりますね」

若いころの山本さんです

山本さんは21歳のときに交通事故に遭い、首の骨を折って手足が不自由になりました。
車いすごと移動できる福祉車両が無かったころは、外出するにも車いすから車の座席への移動が必要で、介護をしてくれる親への遠慮もあって、家に閉じこもることも多かったといいます。しかし福祉車両が発達してからは、外出する機会が増えました。


山本辰美さん
「車いすごと車に乗せられるというのは、介助者の軽減になっている点も大きいですね。実際、自分にとって外に出るということはほんとうに大きいこと。デイサービスなどで外に出ることで生きがいを感じている人も少なくないと思います。パラリンピックが開かれるなか、バリアフリーとは何かを考えてほしい」

安全な外出用の靴を

この問題を取材する中で私たちは、通常の軽くて移動しやすい車いすは「スリッパ」、そして頑丈な車載用の車いすは「靴」に置き換えるとわかりやすいと考えました。そして福祉車両が発達し、高齢化で車いすの利用者が増えるにつれて、外出用の「靴」の必要性が高まってきたのが現在なのです。
しかしその靴はまだ外国製が多く日本の一部のメーカーが作っているだけで、誰もが安全な靴をはける状態ではありません。

安全な靴を手に入れるためにはどうすればいいのか、ISOと車いすにも詳しい東北福祉大学の亀ヶ谷忠彦講師に聞きました。

亀ヶ谷忠彦講師
「車いすを使う人々の『移動したい』という思いやその人らしく生きる権利を守るためには、車いすを車両に乗せる上で安全性を確保することはどうしても必要です。我々もそのような立場になる可能性があるのだから、国や政府が主導して車いすメーカーや自動車メーカー、利用者、介護現場の全てを巻き込んだ議論を行っていくしかありません」

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