せっかくの休日に、上司からの仕事のメールが届き、思わずため息…。みなさん、そんな経験はありませんか。
「メールが来るとゆっくり休めないし、仕事とプライベートの分け目が無くなってしまう」
「メールは四六時中送ることができるから、ある種の暴力だ。改善していった方がいい」
メールでも多くの悩みがNHKに寄せられました。
(役員秘書)
「上司の都合で深夜早朝問わずLINEで連絡があります。上司との関係が悪くなるのも困るので対応していますが、どうしたらいいか。」
(スーパー店長)
「会社から貸与された携帯には、店にいないときでも24時間365日ひっきりなしに連絡が来ます。立場上、仕方がないかもしれませんが、気持ちが休まる暇がありません」
東京都内の心療内科にも、時間外の業務連絡に追い詰められている人たちが増えていました。
20代の会社員の女性は常に仕事のメールを気にするあまり、実際にはスマートフォンが着信していないのに、振動しているように感じるといいます。
「幻想振動症候群」という症状です。
(女性会社員)
「メールを早く返信することで、次の仕事がうまく回ると思い込んでいるので、本当は放っておけばいいとは思うんですけれど、夜中でもメールをチェックせずにはいられないんです。早く返信しないと、つまはじきにされるんじゃないかという恐怖感がありますから。
全然着信がないのに、バイブレーションが鳴っているような気がして何度も画面を見てしまう」
精神科医の浅川雅晴さんは、脳が緊張した状態が続き、自律神経が乱れることによって引き起こされると説明します。
気のせいだと思って放置していると、不眠や記憶障害につながってしまうといいます。
(浅川雅晴医師)
「通勤電車を見回しても、スマートフォンで仕事のメールをチェックしたり、情報収集をしたりと、今の人たちは脳が休まる暇がない。うつ病になって会社を辞めざるを得ない患者も増えているし、深刻な問題です」
そこで今注目を集めているのが「つながらない権利」です。
フランスでは2017年に、業務時間外に会社から仕事の連絡があっても労働者側が拒否できるという「つながらない権利」を定めた法律が施行され、労使間で協議することが義務づけられました。
「つながらない権利」はイタリアでも法制化され、カナダ、イギリス、フィリピン、ニューヨークなどほかの国や都市でも広がっているということです。
日本ではまだ法制化の動きはありませんが、企業の労務担当者向けの講演会で「つながらない権利」が紹介されるなど、関心は高まっています。
(労働安全衛生総合研究所 久保智英さん)
「業務時間外のメールが多いほど、退社した後も仕事の心配事について繰り返し考えてしまうため、睡眠の質の低下につながっています。仕事の生産性だけでなく、働く人の健康被害にもつながる恐れがあり、対策が必要です」
「つながらない権利」に取り組む企業も現れ始めています。東京・千代田区のIT企業「イグナイトアイ」です。
この会社の従業員は40人あまり。業務時間以外である深夜早朝、土日や祝日などの仕事に関するメールや電話をすべて禁止しました。
かつては残業も当たり前でしたが、子育て中の女性社員が増えたことなどから、思い切って働き方を見直すことにしたのです。
これを徹底するため、取り引きのあるほかの会社にも、時間外には対応できないことを前もって知らせています。
また休暇中にメールが届いても、「休み」であることが自動で返信されるよう設定されています。
(従業員女性)
「働き方は結構変わりますね。常に携帯を気にしなくていいので、旅行に出かけたり携帯を置いて外に遊びに行ったりできるようになりました。土日にしっかりリフレッシュできるかどうかは、仕事にも影響していると思います。」
しかし「つながらない権利」を取り入れるためには、徹底した業務の効率化も必要だといいます。
この会社ではまずは移動手段を短縮するため、商談はすべてオンラインに切り替えました。
限られた勤務時間でも効率的に働けるよう、オフィスのレイアウトも変更しました。
集中して仕事をするため仕切りを設けたスペースや、オンライン会議専用スペース、打ち合わせ用のフリースペースなどを設け、社員1人1人が好きな場所で働けるようにしました。
時間がかかる紙ベースの経理処理をやめ、領収書をスマートフォンのアプリで撮影するだけで、経費精算ができるようにしました。
従業員の仕事への意欲が上がり、顧客の開拓などでも結果が出やすくなったほか、生産性も高まったといいます。
「つながらない権利」を取り入れ、業務時間外の連絡を禁止しても、逆に会社の売り上げは4割増えたということです。
(イグナイトアイ 吉田崇社長)
「誰か1人が頑張ってそれで成り立っているようなサービスでは、その人が抜けたり辞めたりした場合に立ちゆかなくなる。人に依存しすぎたサービスではなく、仕組みを整えた安定したサービスが必要です。「つながらない権利」は1社だけで完結するのは難しいので、お客様やパートナーの企業とも協力しながら、つながらない権利が大切だという意識を高めていくことが大切です」
広がり始めた「つながらない権利」。誰もが暮らしやすい社会へ向けて、つながり方を考えてみませんか?
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