「当店はバリアフリー」サイトにそう表示してある店に行ったら、確かに店内には段差はないものの、店そのものが地下にあり、入り口に行くためには階段しかなかった…。
そんな残念な経験を無くそうと、札幌で暮らす人たちが、ひと味違うグルメサイトを作りました。
美味しくて雰囲気がよく、何より車いすでも入れるお店をもっと知ってほしいという思いです。
グルメサイト「車いすでも入れる美味しいお店」です。
トップページを見てみると、店の探し方が3つに分かれています。
①和食やイタリアンといった「ジャンル別」
②「2次会・3次会」「デート」「女子会」などの「用途別」
そして
③「ユニバーサル対応状況から探す」は、「車いす対応トイレあり」や「点字メニューあり」などから店を選ぶことができます。
それぞれの店を見てみましょう。
あるカフェを選ぶと、店の名前の下に「ストローあり」の文字が最初に書かれています。これ、手の力が弱く、グラスをうまく持てない人やフォークやスプーンがうまく使えない人にとって、とても大切なことなんです。
さらに「車いすリピーターあり」「通路90cm以上幅あり」などと、細かい情報も書かれています。
さらにカフェで出されるメニューや、実際に車いすで利用している様子などの写真が並んでいます。どの写真もカフェの雰囲気を壊さないよう撮影されていて、「利用できる」より「行ってみたい」気持ちにさせられます。
このサイトが紹介しているのは、カフェだけではありません。
北海道らしいジンギスカンやパエリア、生ハムが自慢の「スペインバー」や、ちょっと変わったところではプロの語り部が聞かせる「怪談ライブバー」など、札幌市内の21の店舗が現在掲載されています。
このサイトを立ち上げたのは介護福祉士の平間栄一さんと、車いすを利用する佐藤成二さんの2人。
佐藤さん:
「サイトを見て行きたくなったある店の表示を見ると『バリアフリー』と書いてあったので事前に予約して行ったんです。でも、その店が地下にあったんですよね。店内はバリアフリーかもしれないですけど、エレベーターがなかったんです。
お店としてはバリアフリーの表示をしたということは『車いすの方もウエルカム。来てください』という気持ちで案内してくれたんだと思うんですけど、店には行けませんでした」
平間さん:
「こういう仕組みがあったら障害のある人みんなの選択肢も増えるし、いいんじゃないかと思うので、始めました」
サイトの掲載内容は、店に直接取材した情報がもとになっています。
取材班の中心となっているのは、障害のある人たちです。
この日の取材は、札幌市内で約200店が軒を連ねる観光客にも人気の商店街、狸小路の一角にある、おしゃれなカフェバーです。
店の売りはカクテルやくん製で、取材班はテーブルを囲んで実食。なにより大切な味付けを確かめます。
さらに取材班は何度も車いすを前後させて、店のテーブルの下に入れたり出したりを繰り返しました。
テーブルの足などが車輪にぶつかると、テーブルと自分の間に隙間ができて食事が楽しめないのです。
この店のテーブルは、天板の中央から伸びた1本の足が床から四隅に向かって伸びるタイプで、車いすに座りながらテーブルに近づける構造でした。
2018年12月にオープンした時から、バリアフリーを意識していたそうです。テーブルとテーブルの間の通路も余裕を持った作りでした。
取材班が強調していたのは、目的は店を「評価」することではなく、障害者のちょっとした「気づき」を伝える機会にしたいということでした。
たとえば店の入り口の扉。ガラスのような透明な扉は、障害者にとってうれしいポイントがあるそうです。
取材班の女性:「透明だから外から来ても中の人から見えるので、開けてもらいやすいんです。いつ開けてもらえるんだろう…と不安になることがないのでうれしいです」
取材班の1人で車いすを利用している女性は、ガラスの扉を嬉しそうに開け閉めしていました。
別の男性がアドバイスしていたのがストローの太さです。
「シチューを食べるとき、太いストローだったら具ごと吸えるんですよね。上半身に障害がある僕としては、ストローもなるべく太めのものがあるとありがたい。太いストローが1つあれば、自分の力で自分で飲み込めるので、助けがなくても食べることができるんです」
話を聞いた店主は、「ストローも細いだけでなく太いのも必要だという話は初めて聞きました。取材を受けるというだけでなく、勉強になりました」と話していました。
サイトの運営は、障害者の支援にもつながっています。平間さんは仲間と2人でサイトを更新してきましたが、去年6月、就労支援のために事業所を立ち上げ、現在約20人のスタッフが店の取材や広告の募集などにあたっています。
平間さんたちが運営する事業所は、専門的に言うと「就労継続支援B型」で、企業などで雇用契約を結んで働くのが困難な人たちが、比較的簡単な作業を短時間から行うことが可能です。
ただ平間さんによると、「こうした事業所では箸を袋に入れるような内職みたいな仕事が多く、がんばって数をこなしてもなかなか利益が出ないのが現状」だそうです。
ところがグルメサイトの運営では広告料などが安定的な収入として事業所に入るため、利用者に支払う時給は最大500円と、全国平均の2倍以上になったと言います。
平間さんは「企業とタイアップして当事者が収入をちゃんと得ていける仕組みで、全国的にも参考になる1つの『ツール』として確立していきたい」と語ります。
平間さんたちのグループでは、このサイトで取り上げる分野を飲食業にとどまらず、ネイルサロンや美容室にも広げていきたいと話しています。
そのために欠かせないモットーが「楽しむことをあきらめない」です。
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