音に苦しむ「聴覚過敏」知ってほしい

生活する中で聞こえるまざまな“音”に苦しむ人たちがいます。「聴覚過敏」という特性がある人たちです。周囲から入ってくる音に敏感に反応し、ひどい時には痛みや苦しさを感じることがあります。

こうした人たちが利用しているのが「イヤーマフ」。大きな音をやわらげる道具のひとつです。

「子どもの耳、そして心と体を守ってくれるもの」、そう話す母親もいます。ところが音楽を聴いていると誤解され、つらい思いをすることがあります。

そんな誤解を解こうという優しさが今、社会に広がり、変化を生み出し始めています。
(2019/9/22 取材:ネットワーク報道部・大窪奈緒子 井手上洋子 社会部・清水彩奈)

聴覚過敏って?

聴覚過敏のある中学1年生の男の子は、突然鳴り響く大きな音、特に、登下校で必ず通る踏切の警報器の音が苦手です。

「カンカン」と音が鳴りだすとおびえたように立ちすくみ、母親の背中に隠れようとします。
学校に通うためには踏切を必ず通らなくてはならないものの毎回立ち止まってしまい、10分以上その場を動けないこともありました。

2年ほど前、その様子を見ていた見知らぬ女性が、男の子の母親に声をかけました。

「家にあったものですが、よかったらどうぞ」

差し出されたのがイヤーマフでした。

(母親)
「その女性がお子さんに使っていたものなのかと思いますが、イヤーマフを偶然いただき、それからイヤーマフを使うようになりました。大きい音も少しやわらぐようで、落ち着いて踏切を渡ることができるようになり、ありがたい気持ちになりました」

通学に記者が同行させてもらった日も、男の子は玄関のハンガーにかけてあるイヤーマフを手に取り、慣れた手つきでつけていました。

踏切に入る前、おびえたような表情でやや不安そうにしていましたが、立ち止まることなく踏切を渡り終えることができました。

ただ、踏切を渡りきった時に、警報器の音が鳴りだすと表情は一変します。苦しそうに小さくうめき声をあげながら、母親の後ろに回って隠れようとします。

イヤーマフはつけているものの、それでも、こんなにも音を苦しく感じてしまうものなのかと実感しました。母親に聞くと、これでもつける前とくらべ、通学がだいぶ楽になったといいます。

「イヤーマフをつける前はほかの場所でも何度も立ち止まって、なかなか歩くのも大変でした。つけると、安心感があるようで、気持ちも安定します。大きな音がして驚いても、ショックを長引かせることなく歩いてくれるようになりました」

体育に合奏も

聴覚過敏のある子どもたちは、イヤーマフをしていないと、音によるショックを防ごうと、自分の両手で耳をおおってしまうことがあります。
イヤーマフをすることで、両手が解放され、さまざまな体験を積むことができるようになります。

神奈川県横須賀市の筑波大学附属久里浜特別支援学校の児童は、イヤーマフをつけてわんぱく相撲の土俵にあがることができました。大勢の観客がいて音があふれる中でも、堂々と相撲をとることができたのです。

ヘッドホンと誤解される

ところが、聴覚過敏を知らない人から誤解されることも多くあります。
NHKが、聴覚過敏の子どものいる保護者におこなったアンケートには、「音楽を聞いていると勘違いされる」「あからさまにジロジロ見られる」「レストランで食事をしているとき、行儀が悪いと思われる」など、勘違いされてしまう苦しさがつづられていました。

「電車に乗っているときに、隣に座ったおじいさんに『こんな小さいころから音楽を聴かせて。自分の世界にひきこもらせている。親として何を考えているのか』と言われた」

「ヘッドホンをつけて音楽などを聴いているように見えるので、レストランなど食事に行くとあからさまにジロジロ見られることはよくあります」

アンケートに答えてくれた母親の1人

「視力が低い人がメガネを利用するように聴覚過敏のある人がイヤーマフを利用するという認識になって欲しい。生きやすくなるために使っている道具のひとつだという風に思っていただければありがたいなと感じます」

そこで生まれたマーク

こうした、イヤーマフへの誤解をなくそうという動きがあります。

外出するときには、必ずイヤーマフをつけるという13歳の山田真也くん。イヤーマフにはあるマークが貼られています。
そのマークにはイヤーマフをしたうさぎのイラストに「苦手な音を防いでいます」という言葉がそえられています。


聴覚過敏であることをひと目でわかるようにと、大阪にある標識やステッカーの製造会社が作り、会社のホームページから無料で利用できるようにしています。

母親の友香理さん:
「こうした困りごとに反応してマークを作ってくださって、ありがたかった。気にかけて、意識してくださっている方がいるのだということも励まされました」

マークをイヤーマフに貼るようになってから、周囲の誤解をおそれず、家族の活動の幅も広がったといいます。今年の夏休みには、飛行機に乗って家族旅行を楽しむことができました。

母親の友香理さん

「聴覚過敏という言葉自体を知らない、初めて聞くという人も多い中、こうしたマークをすることで見る目が変わる、そういう空気を感じることがあります。これはヘッドホンじゃないんだなって、1人でも多くの人に気づいてもらえたらなと思います」

広まる動き

発達障害で大きな音などが苦手な子どもたちに対して、川崎市とJリーグの川崎フロンターレ、それに民間企業などが協力して動き始めました。
ことし7月、防音設備などが施された部屋でJリーグの試合を楽しんでもらう取り組みを試験的に行うなど、新しい試みも始まっています。

2020年に向けて人が人を思いやって少しずつ社会が変わっていく、そんな動きが広がっていきますように。

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