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日本のものづくり パラアスリートを支えます

東京パラリンピックの開催まであと1000日を切りました。1秒でも速く、1センチでも遠く、高くを目指す選手たちを、日本のものづくりの技術が支えています。選手が使う車いすや義足に、どんな技術が生かされていると思いますか? (経済部記者 影圭太 早川俊太郎)

なんとかならない? 義足のグリップ

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パラトライアスロンの秦由加子選手は、去年のリオデジャネイロパラリンピックに出場した国内トップクラスの選手です。

「どうしても滑ってしまうことが頻繁にあり、なんとかならないかなあと、ずっと思っていたんですが…」

秦選手は、長年、悩んでいました。13歳の時に骨肉腫で右足を失った秦選手はトライアスロン競技の際、自転車と5キロのマラソンでは専用の義足をつけます。

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悩みは、マラソンの最中に義足が滑ってしまうことでした。義足には、市販のスポーツシューズのゴムソールを切り取って貼り付け、滑り止めにしていました。しかし、マラソンコースはアスファルトの時もあれば、石畳の時もあります。雨の中、レースをすることもあります。レースごとに路面の状態はさまざまで、手製の滑り止めではグリップ力が弱いと感じていました。

まさかあのメーカーが…

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そんな秦選手に支援を申し出たのが、大手タイヤメーカーのブリヂストンでした。雨の日の濡れた道路でも、冬の雪道でも滑らず、しっかりと路面をグリップするタイヤ作りの技術を応用して、義足専用の、滑らないソールを作りましょうと提案してきてくれたのです。

「自動車タイヤの世界企業、ブリヂストンが、まさか義足のソールを作ってくれるとは…」

秦選手は当時の驚きをそう話してくれました。

タイヤ作りの技術を使って

ブリヂストンにとっても義足のソールを作るのは初めて。義足の底には、どれくらいの圧力がかかるのかを測定するところから始めました。そして数10種類のゴムの成分の中から、滑りにくく丈夫で、しかも走りの負担にならないよう軽い成分を選んで配合。半年間の試行錯誤の末、最初の試作品を作り、この夏、秦選手のもとに届けました。

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グリップに手応え

9月下旬に横浜市の八景島で行われたトライアスロン大会で秦選手は試作品を試してみました。

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レースではゴムソールがしっかりと地面をグリップ。滑ることなく走れたそうです。実は秦選手、水泳や自転車に比べてマラソンはやや苦手なのだそうです。しかしゴムソールが変わってから、タイムも上がっていると言います。秦選手は「今までのソールと全然違う!」と手応えを感じています。

開発を担当しているブリヂストンの小平美帆さんは「ソールは小さくて地味に見えますが、走りを支える非常に大事なパーツ。もっと改良を重ね、秦選手と一緒に2020年の東京を目指したい」と意気込んでいます。

車いす 理想のフォームは?

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車いすマラソンの山本浩之選手を支援しているのは、大手自動車メーカーのホンダです。前回のリオ大会では12位。東京大会では表彰台を狙っていますが、そのために課題になっているのがフォームの改良です。

「車輪をこぐ時、ほんの2、3ミリ、ポジションがずれるだけで、スピードが大きく変わるんです。力をいかに効率よく地面に伝えるかが重要なんですが、正解がわからなかった」

車いすを最も早く走らせる理想のフォームは? 山本選手は科学的に答えを見つけ出したいと思っていました。

走行データを見える化

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そこでホンダは、熊本市の「熊本保健科学大学」と共同で車いすマラソンのフォームを解析する計測装置を開発。装置の上で、車いすをこぎ、腕やひじ、頭など全身の動きを8台のカメラで記録します。また車輪のスピードや、腕でこぐ力、力の向きなども車輪に内蔵されたセンサーなどでつぶさに計測し、走りをデータ化し、フォームを詳細に分析できるようにしたのです。

ASIMOを応用

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実は、この装置に活用されているのは、ホンダのロボット技術です。ホンダのロボットと言えば、ご存じ「アシモ」。走ったりジャンプしたりと、高い運動能力が最大の特徴です。アシモがバランスを崩さず動けるのは、内蔵された高度なセンサーが前後左右にかかる力を正確に計測しているからなのだそうです。この高度なセンサーが車いすの計測装置にも使われているのです。

見えた? メダルへの道

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この装置でフォームの改良に取り組む山本選手。計測の結果、上半身を前かがみにしたフォームのときに、車輪を回す時間が増えてより加速できることがデータで裏付けられました。

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新たなフォームで練習を積み、10月に行った測定では驚きの結果が出ました。車いすのスピードが時速40キロを超え、以前より1キロ近く速くなっていたのです。

「ばっちりですね」。データを見た山本選手からは思わず笑みが。「さらにフォームとパワーを改善し、東京大会でメダルを獲得したい」と意気込みを語ってくれました。

ブリヂストンやホンダのパラアスリート支援の取り組み。社会貢献という意味はもちろんありますが、新たな分野に技術を応用することで、思わぬ発見や将来の新商品のヒントにつながる可能性にも期待していると言います。義足のゴムソールも車いすの計測装置も、2020年に向けて改良が続きます。

東京パラリンピックをきっかけに、選手の技術も、ものづくりの技術も進歩する…。そんな成果につながってほしいと思います。

影圭太
経済部記者
影圭太
山形局 仙台局をへて経済部 自動車や金融業界を担当 現在 日用品や素材メーカーを取材
早川俊太郎
経済部記者
早川俊太郎
平成22年入局 横浜局、岐阜局、名古屋局をへて 現在 自動車業界を担当