半世紀のNHK世論調査からみる憲法「意識の変化」

GHQ(連合国軍総司令部)の占領下で制定され、1947年に施行された日本国憲法の歴史は、改憲論議の道のりでもありました。
施行から8年後の1955年には「現行憲法の自主的改正」を綱領に掲げる自由民主党が発足し、憲法改正は戦後一貫して政治の争点であり続けました。

憲法を改正するには、国民投票での過半数の賛成を必要とし、世論の動向が大きなカギとなります。では、これまでの世論は憲法にどう向き合ってきたのでしょうか。NHKが1960年代から50年あまりにわたって実施した世論調査から見ていきます。

(報道局選挙プロジェクト世論調査担当・政木みき)
この記事は2017年に執筆した分析レポートを再構成したものです。詳しい分析は2017年の記事をご覧ください。

揺れ動いてきた世論

「今の憲法を改正する必要があると思いますか。それとも改正する必要はないと思いますか」
NHKの世論調査では、1962年から2017年まで、憲法改正に関する質問を断続的に行ってきました。調査は質問を読み上げて答えてもらう面接方式で、具体的な条項を特定せず、一般的に改正が必要かどうかを尋ねています。

時代とともに揺れ動いてきた世論を
①関心が低かった1960年代~1970年代 ②改憲機運が高まった1990年代~2000年代 ③慎重な姿勢が強まった2010年代 の3つの時期に分けて振り返ります。

①「関心が低かった」高度経済成長期

1950年、東西冷戦の中で朝鮮戦争が勃発し、自衛隊の前身となる警察予備隊が創設されると、日本の再軍備やそれに伴う憲法改正の問題をめぐる議論が巻き起こりました。1957年に就任した岸信介総理大臣は、憲法を改正し「自主憲法」を制定することをめざしたものの、日米安保条約改定の際の混乱の責任をとって1960年に総辞職しました。対照的に次の池田勇人総理大臣は、「所得倍増計画」を掲げる一方、憲法改正を在任中は行わないことを明言し、憲法を政治課題から遠ざけました。

この頃実施した1962年の調査では、憲法を改正する「必要がある」の20%と「必要はない」の21%がほぼ同じ割合で、ほかは「どちらともいえない」が30%、さらに「わからない、無回答」が30%でした。

その後1970年代に至るまで、憲法改正が「必要」という人も「必要はない」という人も20%~30%台で推移し、どちらも多数派とはなっていません。日本が高度成長を遂げ、政治においても経済が優先されていたこの時期、憲法改正に対する関心は高くなかったことがうかがえます。

続く1980年代は、改憲論者の中曽根康弘総理大臣が就任しましたが、憲法改正が具体的な政治課題とはならず、世論調査で質問することもありませんでした。

②1990年代~2000年代「高まる改憲の機運」

冷戦が終結し1991年に湾岸戦争が始まると、国内では1992年のPKO協力法成立までの過程で、自衛隊の海外派遣が認められるかどうかが大きな争点になりました。それまでの憲法9条をめぐる議論では、自衛隊そのものの合憲性が問われてきましたが、この時期の議論は、自衛隊の存在は前提としたうえで、国際貢献という文脈で海外での活動が認められるか否かに論点が移るきっかけにもなりました。

1992年時点で憲法改正の「必要がある」という人は35%で、「必要はない」の42%が上回っています。しかし2000年代に入ると、2002年が58%、2005年はさらに増えて62%と、かつてないほど改憲の機運が高まりました。

この時期に改憲への支持が浸透した理由として、与野党を問わず改憲議論が活発に行われ、憲法改正のテーマが9条以外にも多様化したことが挙げられます。2002年の調査で、当時の小泉政権下で議論されていた「首相公選制」「国民投票制」「地方分権の拡大」「2院制の見直し」の4項目について、憲法を改正して導入したほうがよいものを尋ねたところ、「国民投票制」が46%、「首相公選制」は61%に上りました。

1990年代は政治への不信感が高まり特定の支持政党を持たない無党派層が増えた時期でもあります。既存の統治機構を改革する、この国を変える、といったスローガンのもとで憲法改正が注目されたことが支持拡大を後押ししたとみられます。

③2010年代「慎重な姿勢強まる」

改憲支持に傾いたかに見えた世論でしたが、改正の「必要がある」という人は2005年の62%をピークに減少に転じます。2012年は57%、2017年には43%と半数を割り込み、「必要はない」(34%)との差が9ポイントまで縮小しました。

この時期は改憲機運を高めていた改革の動きも勢いを失い、また、憲法改正に積極的な安倍晋三総理大臣が政権についていた時期とも重なります。

調査方法が異なるため単純には比較できませんが、面接調査のデータがない2010年代の安倍政権下での世論の動向を、NHKが2013年から2016年まで毎年行った電話世論調査で見ると、「改正する必要がある」は、2013年は42%で「必要はない」(16%)を大きく上回っていましたが、翌2014年には28%に減って「必要はない」の26%と並び、「どちらともいえない」という人が40%で最も多くなりました。

「必要がある」と「ない」がきっ抗する構図は2016年まで続きました。2005年以降、世論は改憲に慎重な姿勢を示し始めていましたが、改正を支持する人が大きく減ったのは、2013年から2014年にかけてだったことがわかります。

世論が改憲に消極的になっていった2010年代前後の憲法をめぐる状況を振り返ると、2006年に発足した第1次安倍内閣が翌年に国民投票法を成立させ、国民に憲法改正を問う準備を整えました。

また第2次安倍内閣が2014年に集団的自衛権の行使を可能にする閣議決定を行い、安全保障政策の転換をめぐる議論が続く中で、2015年に安全保障関連法が成立しました。

さらに2016年の参院選を経て、憲法改正に前向きな勢力が衆参両院で改正の発議に必要な3分の2を超える議席を占めるようにもなりました。着々と環境が整い改正の議論が現実味を帯びていくにつれ、世論はむしろ慎重になっていったのです。

9条の改正志向も2000年代以降に後退

改憲の論点であり続けた9条の改正についてはどう考えてきたのでしょうか。
面接による調査に戻って、憲法9条を改正する必要があるかどうかを尋ねた2002年から2017年の結果を見ると、2005年は「必要はある」が2002年の30%から39%に増えて、「必要はない」(39%)と並んでいましたが、2012年になると26%に減っています。
2010年代は改正に消極的な「必要はない」が60%近くを占める状態が続いていました。

再評価される9条

9条の改正を支持する人が減った背景には、9条の評価の高まりもあると考えられます。

憲法9条が日本の平和と安全にどの程度役に立っていると思うか尋ねた1974年以降4回の調査を見ると、「非常に役に立っている」は1974年以降増えたり減ったりしていますが、2017年は29%で2002年より増え、1992年と同じ程度でした。

「ある程度」を合わせると、2017年に「役に立っている」と答えた人は82%となり、4回の調査で初めて80%を超えました。

2010年代の集団的自衛権をめぐる議論などを通じて日本の安全保障政策が改めて問われる中で、戦後9条が果たしてきた役割が再認識されるようになったのかもしれません。

「自衛隊は憲法で認められる」6割

また、現在の自衛隊が憲法で認められるものだと思うかどうかを聞いた1992年と2017年の調査を見ると、「認められる」という人が48%から62%に増えています。

合憲か違憲かが争われてきた自衛隊に対する世論の変化は、今後も9条を改正するべきかどうかという議論に影響していくとみられます。

憲法なるほどコラム

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