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再生医療の技術でサンゴも再生!?

海の生き物の宝庫、サンゴ礁。
9万種もの生物が暮らしていると言われています。

しかし近年、サンゴが白くなり、やがて死滅する「白化現象」が各地の海で確認されていて、地球温暖化との関係も指摘されています。このままでは、気候変動などで2030年には、世界のサンゴ礁の9割が死滅するとも言われています。

サンゴの再生が大きな課題となるなか、日本では、人の再生医療の技術を使った研究が進められています。

温暖化で白化現象が起きる理由

サンゴとは、どんな生き物か知っていますか?
実は、動かないけれど、動物なんです。

サンゴの表面を観察してみると、小さいブツブツがあります。
「ポリプ」という小さな組織で、これらが集まってサンゴは出来ています。

このポリプの下には、人間の骨にあたる「骨格」があります。
ポリプが、海水に溶け込んだ二酸化炭素やカルシウムイオンを使って、この「骨格」をつくっていて、これによってサンゴが大きく成長していきます。

そして、ポリプが生きていくうえで大事なのが、「褐虫藻(かっちゅうそう)」という植物プランクトンです。
ポリプの体内にすまわせ、この褐虫藻が光合成で作り出す栄養などを吸収して生きています。
つまり、サンゴにとって褐虫藻は欠かせない存在なんです。

この褐虫藻に関する問題が、中学入試にも出されていました。

問題

サンゴは体内の褐虫藻を外へ排出する働きがあり、その排出数は、海水の温度と関係があることがわかりました。グラフをもとに地球温暖化によってサンゴが死んでしまう理由を説明しなさい。

(東京女学館中学校 2017年 理科 改題)

正解は「海水温が上がるとサンゴから排出される褐虫藻の数が増えて、栄養分が足りなくなるから」です。

褐虫藻がいなくなると、サンゴは白くみえるようになります。
これが白化現象なんです。

専門は“チタンを使った再生医療”

白化現象への懸念が広がるなか、サンゴの保全や再生に向けた研究が世界各地で進められています。
なかには、専門が異なる分野の研究者が取り組んでいる例もあるんです。

関西大学の上田正人教授です。
専門は、人の体の失われた機能を取り戻す再生医療です。
細胞がくっつきやすい特性を持つ金属のチタンを用いた人工骨と骨をつなげる研究をしてきました。

上田さんのチタンに関する知識を、サンゴの再生にも生かせないかと、同じ大学の先生から声をかけられたんです。

関西大学 上田正人教授
「正直に言いますと、サンゴは全く興味なかったですし、『サンゴの研究をやっている時間はないよな』と思っていました。ただ、解剖学の本をパラパラっとめくると、サンゴの解剖学も載っていたんです。我々の骨を作るメカニズムとサンゴが骨格を作るメカニズムが全く一緒だったんです」

メカニズムが同じなのであれば、チタンをサンゴの骨格の一部としても使えないかと考えた上田さん。
サンゴの断片をチタンの上に移植してみました。
すると、チタンを覆うようにポリプが拡張してきたのです。

上田さん
「ポリプがチタンを異物と認識できず、自分の体だと誤認識してくっついてくれたのが、1か月くらいでわかりました。そのときは本当に興奮しました」

チタンを使った再生医療の技術を生かせると感じた上田さん。
今度は、チタンに移植するポリプを効率よく集める方法を研究しました。
注目したのは、水中の塩分濃度でした。

塩分濃度や海水温が上昇すると、ポリプはやがて骨格から剥がれます。
この特徴を利用して、塩分濃度を上げ、ポリプが剥がれたところを採取したのです。

上田さんのこの手法、従来のサンゴの再生技術よりも利点があると言います。

例えば、生きたサンゴを折って移植する「断片移植」は、親サンゴのダメージが大きく、回復にも時間がかかります。
こうした弱点を回避できるというのです。

上田さん
「我々の方法は、1センチ、2センチとかの小さな断片からも100個くらいのポリプがとれます。ドナー(親サンゴ)を傷つけないことはないですが、最小限に抑えることができます」

しかし、ポリプは環境に敏感なため、育てるには高度な技術が必要です。
そこで、安定して成長させるため、水温や光など水槽を徹底管理する技術をもつベンチャー企業と共同研究も始めました。

上田さん
「長期間培養しますと、移植したポリプの下には骨格もできてくるでしょうし、大きなサンゴにもなると考えています。データを蓄積して、最終的には海に持っていくことを達成したいと考えています」

上田さんは、サンゴを再生することは、将来的な温暖化問題の解決にもつながっていくと考えています。

関西大学 上田正人教授
「サンゴを増やすと、海の中の二酸化炭素を吸収できますし、原理的には空気中の二酸化炭素を軽減させることができます。骨格に二酸化炭素をため込みますから、サンゴでも二酸化炭素を固定できるということをきちんと実証したいです」

上田さんの専門が人の再生医療だったからこそ、「いかに体に負担がなく再生させられるか」という発想から生まれた技術で、異なる専門分野が組み合わさって、サンゴの保全が進められているんですね。

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