シングルマザーの雇用支援 ~本土復帰50年の沖縄のいま
戦後27年にわたり、アメリカの統治下に置かれた沖縄。1972年5月15日、本土に復帰しました。
それから50年。沖縄がいま抱える課題や改善に向けた取り組みについて見ていきます。
問題に挑戦!
まずは、沖縄に関する問題です。
1960年代に多くの若者たちが、沖縄から「本土」へ集団就職として沖縄の港から出航しました。彼らはパスポートを持って向かったのですが、それはなぜですか。
(駒場東邦中学校 2022年 社会 改題)
解答例としては、「沖縄はアメリカに統治されていたから」となります。
当時、沖縄では、生活には米ドルが使われ、車は右側通行でした。沖縄の人は、外国へ渡るのと同様、パスポートを持って本土に働きにきていた時代があったんです。
統治下の経済構造が雇用に影響
今では、国内屈指の観光立県を成し遂げた沖縄。近年、新たな産業の柱としてIT企業の誘致などにも力を入れています。
しかし、物流コストなどの面から、多くの雇用を生み出す製造業が育たず、全国的に見ても賃金が低い状況が続いています。
その根本に、復帰前のアメリカ統治下での経済構造が影響していると指摘する専門家がいます。福祉問題に詳しい沖縄大学の島村聡教授です。
- 島村さん
- 「アメリカの統制下にあったということで、ドル建て経済でした。高いドルでものを輸入するほうが得ということになります。つまり、沖縄でものをつくるより、本土から買うほうがコストが安くすんだのです。そうすると製造業がなかなか育ちません。産業基盤が弱いことから、たくさんの労働者がいっぺんに働けるような大きな産業が少ない、正規職員が少ないということがよく言われていて、非正規職員が多いです」
厳しい状況のシングルマザー
こうした厳しい雇用環境を改善するうえで、島村さんが注目しているのは、シングルマザーの支援です。沖縄は、離婚率が全国で最も高く、シングルマザーの割合が多くなっています。
そして、働くシングルマザーの半数近くは、パートなど非正規雇用で働き、経済的に厳しい状況にあると言います。
- 島村さん
- 「沖縄は(産業)基盤が弱く、税収が低くなります。すると、たくさん保育所が作れず、(子どもを)預けられません。子どもの面倒を見ながらやると必然的にアルバイトやパートを選択しないといけなくなるんです」
沖縄は親戚づきあいが強く、コミュニティーが濃密なので、シングルマザーになっても周りが助けてくれるイメージがあります。
しかし、それも変わってきているといいます。
- 島村さん
- 「従来はそう言われていたけど、沖縄の核家族化率は、非常に高いほうに入ってきて、特に都市部はひどい状況でして、幻想になっています」
IT業界で活躍できる人材に
状況を改善しようと、地元の財団が支援に乗り出しました。実行団体の1つで、著しい成長を続けるIT業界とシングルマザーを結ぶ取り組みを進めるWEBデザイン会社の代表、比屋根さんに話を聞きました。
- 比屋根さん
- 「沖縄も、とにかくIT分野で人材が不足しています。シングルマザーという可能性のある、沖縄にとっての人的資源を成長産業の一員として、所得もキャリアアップも向上させていきます」
去年、比屋根さんはシングルマザーを対象に、未経験でもIT業界で活躍できる人材を育てる取り組み「MOM FoR STAR」を始めました。
東京並みの給料をもらいながらウェブデザインなどを学ぶ研修を受け、その後は、東京の企業からの仕事を請け負いながら、スキルとキャリアを積んでいきます。また、支援団体から、生活物資の援助なども受けられます。
取り組み開始から1年がたち、女性たちに変化が見えてきているといいます。
- 比屋根さん
- 「仕事も増えてきているし、どんどん自信があふれ出てきている感じはあります。『お母さんかっこいい』という言葉が子どもから出てきた時に『うれしかった』という話はよくしてくれます。シングルマザーでも夢を持って成長できるという1つの事実を作っていきたいです」
貧困の連鎖をなくす
財団の事業では、他にもさまざまな取り組みが。例えば、介護の現場では、働きながら資格取得を支援する企業もあります。これまでは資格を取るまでの間が無給になってしまうため、取得を諦めてしまう人が多かったんです。
また、車社会の沖縄では、通勤や外回りなどに欠かせない車を安くリースするなど、幅広い業種でシングルマザーの支援が広がっています。シングルマザーの状況を改善することから始めることは、沖縄の将来にとっても大切だと島村さんも言います。
- 島村さん
- 「一番大切なことは、貧困の再生産を生まないことだと言われています。お母さんを支えることは子どもたちを支えることになるということが非常に大きいです。やる気のある親の姿を見て、(子どもが)自分も頑張らなくてはいけないという気持ちになってくれることが大切です。そういうきっかけになればよいと感じています」
沖縄には「ゆいまーる」という言葉があります。互いに助け合うという意味のある言葉です。
NHKに入局してから最初の勤務地である沖縄の変化や発展の様子を見てきた私(鎌倉千秋)は、沖縄のシングルマザーはこの「ゆいまーる精神」に支えられているのだろうと想像していました。しかし、そういった伝統も変わりつつあることを知り、行政、民間双方の取り組みが急務であると感じました。
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