日々の通勤・通学で利用するエスカレーター。関東などでは、左側に人が立ち、右側は急ぐ人が歩くという乗り方が、″暗黙のルール″として広がっています。 でもこのルールに悩んできた人たちがいます。
“なんで立ってんだよ”“どけよ”
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この春、小学校を卒業した横浜市に住む林姫良さんと、母親の太佳子さん。
姫良さんは脳の障害で左半身にまひがあり、思うように左手で″つかむ″ことができません。
このため、エスカレーターでは、緊急停止しても体を支えられるよう「右手」で、「右側」の手すりをつかんで乗るようにしています。
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ここで立ちはだかるのがエスカレーターの″暗黙のルール″。
姫良さんは、右側を歩いて急ぐ人から、これまでにこんな言葉を浴びせられてきました。
そのときの心境について「嫌な気持ちになった」とつぶやく姫良さん。
母親の太佳子さんも「悪いことをしているんじゃないかって、毎回自分を責めますし、すごいストレスになります」と訴えます。
ある日、娘がとった行動とは
太佳子さんには忘れられない出来事があります。
小学校の高学年になった姫良さんはある日、予想外の行動をとりました。
いつものようにエスカレーターの右側の手すりにつかまったあと、すぐに左側に移りました。
さらにその場で後ろ向きの状態になって、右手で左側の手すりをつかんだのです。
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そばにいた太佳子さん、思わず「あっ」と心の中で叫んだといいます。
私も他の人と同じになりたい、娘の気持ちの表れなんだろうか…
でも、後ろ向きに乗るのはとても危険です。いつかは1人で行動する日が来る娘のことを考えると、いてもたってもいられなくなりました。
「止まって乗る」が正解
太佳子さんは、エスカレーターが設置されている商業施設や地下鉄の駅などに正しい乗り方を確かめました。
すると「右側も左側も止まって乗る」ことが正しいとわかりました。
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動いているエスカレーターを歩くことで転んだりする危険性があるほか、緊急停止に備えて手すりにつかまって止まって乗る必要があるのです。
メーカーも同じように呼びかけています。
そのうえで母親の太佳子さんは、控えめに訴えます。
林太佳子さん
「たとえ人とは違う乗り方をしていても、そういう人がいるという意識を持っていただきたいです。私自身も、自分の子どもを通して知ることができたので、いろんなところに目を配りながら、いろんな人に優しい社会になってほしい。それが今の私の願いです」
合い言葉は「止まって乗りたい人がいる」
姫良さんたちのように、エスカレーターの正しい乗り方を広めたいと願っている人たちは、ほかにもいました。
脳梗塞などで体にまひが残った人のリハビリなどを担当する、東京都理学療法士協会の人たちです。
ふだんの通勤でエスカレーターに乗り、歩いてくる人にぶつかられて転びそうになった人など、「止まって乗りたい人」が世の中には少なくないことを知っているのです。
協会は先日、姫良さん親子と、ホームページに載せる写真の撮影会に臨みました。エスカレーターの正しい乗り方を訴えるためです。
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合い言葉は「止まって乗りたい人がいる」です
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東京都理学療法士協会の齋藤弘さん
東京オリンピック・パラリンピックでは、世界中からさまざまな人たちが東京に訪れることになります。
誰もが安心して移動できる環境をつくっていくことはとても大事でしょうし、変えられるチャンスだと思っています。
ところで、エスカレーターについての切実な願いを、なぜ2020年の東京オリンピック・パラリンピックに託すのでしょうか。その答えは、スポーツの祭典の根本原則を定めた「オリンピック憲章」にあります。
「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指す」
2020年までの歩みが、私たちの社会をもう一度見つめ直す機会になればと思います。
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