この記事へのコメント

共働き家庭の前に立ちはだかる“小1の壁”。

取材を進めると、中には「退職」や「転職」に踏み切ったという人も。
なぜ、働き方を変えることまで余儀なくされてしまうのか。キャリアをあきらめずに壁を乗り越えていくためにはどうすればいいのか、取材しました。

子どもが1歳のときから“小1の壁”を考える人も

話を聞いたのは、子育てをしながら働く「ワーキングペアレンツ」向けの転職支援サービスを行う企業の皆さんです。

4人の企業の皆さんにオンラインでお話を聞きました

記者
ライフチャット編集部にも「小1の壁で働き方を見直すことになった」という意見が寄せられています。実際のところ転職活動をされる方はどれくらいいるのでしょうか。
肌感覚としては、共働きで小1というものを意識していない人はいないのではと感じるくらいです。例えばお子さんがまだ1歳や2歳でも、小1の壁を見据えておきたいとうっすらと考えられてるような方もいますね。
XTalent 代表取締役上原達也さん
記者
1歳から!転職を考えられる方は、小1の壁で、今の職場の何がネックになっているのでしょうか?
やっぱり「働く時間」と「働く場所」が大きいなと思います。
3歳以降や小学生になるタイミングで時短勤務ができなくなるという会社がまだまだ多いです。そうなると例えば通勤で片道1時間とか1時間半かかるという方で、小学生になって「学童の迎えは19時です」と言われて、これまでは間に合っていたけど難しくなる方がいる。
上原さん
転職にあたって、フレックス勤務で時間が融通がきくリモートワークができるということを求められているのは大きな傾向です。
記者
職場の雰囲気や風土などの面では、どういった企業を希望される方が多いでしょうか。
やはり男性・女性かかわらず「育児をしながら働くということが当たり前に受け入れられる」とか「ちゃんと評価をフェアにしてくれる」「長時間働いたかどうかよりも、ちゃんと会社に貢献したのかということを見てくれるような会社がいい」と、こういうことがよく言われますね。
上原さん

あらためて解説 “小1の壁”とは
子どもが小学校に入学したタイミングで、子育てと仕事との両立が難しくなること。
これまでは保育園などで長い時間預かってもらうことができていたが、入学後は下校の時間が早まってしまう。子どもを預かってもらえる「学童保育」では待機児童が発生している地域もある。たとえ学童に入れても、これまでより預かり時間が短くなったりする場合もある。
最近では小学校の門が開く時間が教員の働き方改革などで8時15分などになることで「朝」の時間が壁、ネックになっている家庭もあることが知られるようになってきた。

約半数が「働き方の見直しを検討」

記者
上原さんのほかにも、「小1の壁」の経験者がいらっしゃると聞きました。
今、小学2年生になる子どもがいます。大変だといわれていることは家族で前倒しで対策していましたが、「学校にある学童」と「民間の学童」のうち、民間学童の方が合わなかったみたいで、行くのが嫌だと言われてしまいました。学校が終わると1人で帰ってきちゃう、その対応をしないといけないというのは想定していなかったですね。
XTalent マネージャー吉田悠平さん
XTalent コンサルタント吉田智恵さん
私も、もともとはサービス業の会社で働き、全国各地の店舗で勤務をしていて、フル出社でした。いま小学2年生の上の子どもが年中から年長のときに転職を考え始めて、今の会社に1年ほど前に入社しました。
前の会社も時短が小学3年生まで取れましたが、下の子もまた3年後に小1になるので、『いつまで時短をとったらいいんだろう』と。
時短を取ることによって職階も下げて働いていたので、働き方を変えて別の方向でキャリアを積みたいと思ったのが転職の経緯です。

小1の壁で約半数が「働き方の見直しを検討」
都内のNPOが去年1都3県(東京・埼玉・千葉・神奈川)の、小学生を育てる働く女性1000人に行ったアンケート調査では、50.7%が子どもの小学校入学にあたって働き方の見直しを検討したと回答。
実際に働き方を変えた379人のうち「正社員から別の就労形態に変更した」と答えたのが12.4%、「職場は変えないまま、時短勤務に変更した」と答えたのが27.4%だった。
いっぽう「主婦からあらためて働き始めた」と答えた人も27.2%で、子育て中の女性たちにとって、小学校入学がひとつのターニングポイントとなっていることが分かる。

「放課後NPOアフタースクール」 ホームページより

調査では、小学校の入学で子育ての負担や悩みが増えたと感じたという人は57.3%に。負担や悩みは、子どもの勉強のサポートや、夏休みなどの長期休暇の子どもの世話(弁当作りや送迎など)、子どもの持ち物などの準備、子どものメンタルケア、PTAなどの保護者参加行事など、保育園時代には少なかった悩みが上位に並んでいる。

放課後NPOアフタースクール ホームページより

“当たり前”が長時間労働だと 特別扱いに?

記者
調査などからも、入学のタイミングで多くの保護者が働き方について悩んだり模索をしていることが分かります。小1の壁に直面しているワーキングペアレンツが、それぞれの職場で能力を最大限発揮して働けるようにするためにはどうすればいいのでしょうか。
企業としてはやっぱり可能な範囲でのテレワークやフレックスなどワークスタイルの柔軟性は必要になってくると思います。 フレックスではなくても、例えば時差出勤や時短勤務の延長だったりもあると思いますし、それを女性だけではなくてやっぱり男性もやっていくことで夫婦の中での分担もできるようになっていくと思うんですよね。
上原さん
ほかの社員は融通がきいた働き方ができないけれど、子育て中の女性だけが時短勤務をずっと継続できる、などとなると、どうしても業務の不平等とかギャップが生まれやすい。ちゃんと男性も参画して男女で分担できるようになっていくと、例えば週の半分は学校の対応が必要だけど、残り半分はパートナーにお願いができれば、例えば残業ができるかもとか、そういったことができるようになりますよね。
記者
昔と違って共働き家庭が多くなっていますから、企業も、そして私たちも意識をアップデートしていかないといけませんよね。
そうした対応ができる企業とそうでない企業の違いはどこにあると思いますか。
“働き方の当たり前”がどこにあるのかということだと思うんですよね。
上原さん
働き方の当たり前?
オフィスに出社して長く働くということが当たり前になっていると、仕事の間に「中抜け」をするとか家庭の事情があるから働く時間を短くするっていうのがとても特別なことになってくると思うんですよね。
上原さん
子育て中の人たちに仮に理解があってなんとかしたいと思っていても、当たり前の働き方が長時間労働だと、特別扱いをしてあげないといけない。とすると、現場でのハレーションだったり不公平だという声が生まれてしまうかもしれない、ということです。弊社だと、自分も含めて多くの人間が子育てをしながら、もしくは地方に住んだり何かの事情があったりしながら働いているので。「その事情の中で成果を最大限発揮する働き方を取っていきましょう」というのが違いなのかなと思います。

“自分たちの世代の価値観は違います”

労働市場として、このままだとサステナブルではないということに、ちゃんと企業を経営する人たちが気付くっていう事が一番かなと思います。これまでは男性と女性で役割が明確に分担されていて、いま共働きで働くということは当たり前になってきたものの「家庭の分担は今までどおり」というのがまだ経営層の頭の中にある絵なんですね。でも自分たちの世代は、そういう価値観ではなくなってきています。長時間働ける人だけを優遇する会社というのは、現実的に労働者を確保できなくなってくるとも思います。
上原さん
いっぽうで「働き方だけをよくしたい」という転職はなかなか難しい面もあります。リスキリングということばもありますが、何を会社にギブできるのか、経験・スキルを身につけていくことも個人として問われていくとも思います。
吉田悠平さん
僕は転職支援の現場で働いている身として感じるのは、仕事ができる人に仕事が集まってそこから抜け出せなくて家庭と両立できなくて疲弊してしまうっていう方が結構いらっしゃいます。
企業側が、優秀なこの人に任せたい、という姿勢から、属人化させずに、誰が変わっても仕事が回ったり事業が成長できるような構造にしていかなければいけないのかなっていうふうに思ってます。
「育児中心の人でしょ」と捉えられちゃう方の中でも、お話を聞くと昔はハードワークをされていて、子どもが生まれてからも生産性がすごく高くて優秀な方も多いです。子どもを育てながら働いてる親への見方がもっとフラットになればいいなというのが転職支援をしていて思うことですね。
吉田智恵さん
みなさん、ありがとうございました!

みなさんの声をお待ちしています

今回は「小1の壁」の背景にある、私たち大人の働き方に目を向けました。

大型連休も目前の時期で、入学したばかりの子どもたちも、保護者の皆さんも疲れがたまっているころではないでしょうか。
引き続き、ライフチャット編集部では小1の壁に関するみなさんからもモヤモヤ、ご意見や体験談をお待ちしています。

気兼ねなく、声を寄せていただけるとうれしいです。
一緒にこの問題を考え、声をあげていきましょう。

ぎりぎり平成の1989年に高知県で生まれました。首都圏局などで、福祉や子育てなどについて取材をしてきました。

みなさんの声

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