ニュースの編集の仕事をしている「私」は34歳。
8年間の地方勤務を経て、2年前に地元である東京に戻ってきた。今、3児の父だ。
大学時代に共に全国を旅した自転車サークルの友人たちとは、今でもオンラインで飲み会を開いたりする。
最近は子どものいる同級生も増え、家事や育児に関する話題が多くなった。
父親になった仲間には、保育園の送迎や食事の準備、子どものお風呂、寝かせつけ、積極的に育児をしている者も多く、私たちの父親世代とは状況が大きく変わったと実感させられる。
ただ気になるのが男性の育児休業。
取得できた友人も結構いるのだが、職場での発言に傷ついたという声があがったのだ。
(報道・映像センター関口正俊)
負い目感じながらの育児休業
私の友人が育児休業取得の際に上司や同僚にかけられたことばだ。
「昇進に響くから取らない方がいい」
「俺の時代はそんなの取る人いなかった」
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職場の人手が手薄になると同僚に負い目を感じながら取得したという、育児休業。
そうした声に友人は「取得にプレッシャーを感じてしまった」と話してくれた。
「NGワード」と「うれしいワード」
こうした悩みはきっと多くの人が感じているのではないか。
私たち取材班は男性育児のSNSコミュニティ「パパ育コミュ」に協力してもらい、アンケートを実施した。
育児休業を取得する際に、かけられてつらかった「NGワード」と「うれしかったワード」を聞いてみたのだ。
NGワード(かっこ内はかけられた相手)
「社会への体裁をよくする為に育休制度を作っているが、本当に使ったら『何使ってるの?』と思われるよ」(上司)
「お世話になっている人たち全員が理解してくれると思う?裏切られたと感じる人もいると思うけど」(上司)
「出世はもうええんやな」(上司)
「先生の仕事が嫌になったから育休取るの?」(担任していた生徒の保護者)
「育休とって転職するつもりだろ(笑)」(同僚)
「男性が育休とって日中何しているんですか?」(知人)
(復帰する際)「おかえり!もう子育ては終わったな」(上司)
「育休でしっかりリフレッシュしてきてください」(同僚)
取得することにプレッシャーを感じてしまうことばや、取得中も育児で大変なこと、取得後も子育てが続くことに理解のないことばが並ぶ。
取得しやすい社会になっているとは言い難いのが現状のようだ。
厳しいことばをかけられた男性は
「そんなこと無理だ」と、実際に厳しいことばをかけられたという人に話を聞いた。
柔道整復師として整形外科に勤める40代の男性で、子どもは2歳と4歳。
「大手企業ではなく、中小・零細の組織の厳しさも知ってほしい」と取材に応じた。
取材に応じた男性
男性は妻が出産後に体調を崩してしまったこともあり、育児休業の取得を上司に相談した。そのときかけられたことばは「前例がない。そんなこと無理だ」。願いは一蹴され、取得をあきらめた。
少数の職場で男性が休んでしまうと代わりがいないことや、同僚のほとんどを女性が占める中で、男性が育児休業をとることにまだ理解が進んでいないことが、理由にあるのではないかと男性は話した。
男性
「結局のところ、仕事も育児も私がやるしかない。どうにもならないのです。助けを求めてもどうにもなりません。社会に助けを求めることもあきらめています。ただ自分と同じ思いをする人が一人でも減ってほしくて、社会の流れが少しでも変わってくれたらと、そういう思いで取材を受けることを決めました。男性も女性も子育てしやすい社会に、すこしでもよくなっていってほしいです」
かけられてうれしかった!
逆に、かけられてうれしかったことばも、いろいろな回答が寄せられた。
うれしいワード(かっこ内はかけられた相手)
「ぜひ社内での前例を作ってください」(同僚)
「前例を作ってくれてうれしいです。僕も続きます」(職場の後輩)
「社内初の男性育休取得者だからやりづらいとこもあるだろうけど、頑張ってね。」(上司)
「社会が変わってきたようでうれしいです」(女性の同僚)
「男性が育休を取れる社会になると女性も働きやすくなります。育児頑張ってくださいね。」(後輩の女性社員)
「男性育休取得の事例として、仕事と家庭を両立するロールモデルになってほしい」(上司)
「長期的に活躍してほしいので、一時的に家庭優先で仕事のペースを落とすことは全然問題ない。それを受け入れられる組織を作っていきたい」(上司)
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目立ったのは「前例」ということば。
まだ取得者が多くない中、新しい働き方の先陣を切ることを期待してもらい、背中を押されたうれしさがあるようだ。
また女性に社会の変化を感じるようになったと言ってもらったことで、前向きになれたと感じている人が結構いた。
たったひと言が、人の気持ちを変える。
たかがことば されどことば
取材を通し、男性が家事・育児に主体的に関わることが以前より増えたものの、まだまだ職場での理解が進んでいないことを改めて痛感した。
また中小企業などでは、サポートする要員やハード面などがネックとなっている実態も取材から見えてきた。
女性の同僚からは「私たち女性はずっとこうした悩みを抱えながら働いてきた。やっと男性も私たちと同じ悩みを考えてくれる時代が来たか」と声をかけられた。
これまで、育児休業に関わる問題を、わがこととして考えることができていなかったと思う。
子育てのしかたは一様ではない。
それぞれの人が選ぶ子育ての進め方が尊重されるような社会になってほしい、誰もが負い目なく育児に参加できる社会に少しでも近づいてほしいと思う。
そして子育てに奮闘している仲間に「ねぎらいのことば」「いたわりのことば」をかけてあげる。そうしたささやかなことでも、職場環境は大きく変わってくるのではないかとも感じた。
たかがことば、されどことば。
私自身がきょうから実践してみようと思っている。
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