この記事へのコメント

自転車が守る信号機についての身近な疑問。調べてみると意外と知らない複雑なルールが見えてきました。

"サイクル爺さん"から寄せられた疑問

去年の11月、NHK名古屋局にこんな「疑問」が届きました。

「自転車で車道を走っていて、交差点を車用の信号に従って直進しようとしたら、トラックのドライバーに注意されました。"歩行者用の信号を守れ"とのことです。どっちの信号を守ればいいのでしょうか」

愛知県警察の交通部の取材を担当している私(田川記者)ですが、この質問を読んで、恥ずかしながら「どっちなんだろう...」と思ってしまいました。

田川記者です

同僚の記者に「どう思う?」と聞くと「たしかに気になっていた」とのこと。
これは取材せねばと、まずは疑問を寄せていただいた「サイクル爺さん」に会って話を聞いてみることにしました。

愛知県半田市の駅前で待っていると・・

道路の向こうからクロスバイクにまたがったスポーティな男性が。

あの人が「サイクル爺さん」?

田川記者:

田川記者
「投稿をくださった人ですか?」
「そうです」
男性

「サイクル爺さん」こと河合さん、72歳。
5年前に体力維持のため自転車を購入しました。

週2回ほどサイクリングを楽しんでいるそうです

車道を走るときはヘルメットを身につけたり、日ごろから自転車の交通ルールを意識していましたが、予期せぬことに直面しました。

それは去年の秋、ある交差点を渡ろうとした時のこと。

交差点の信号機に記されていたのは「歩車分離式」の文字。
こうした交差点では、車用の信号が青の時は、歩行者用の信号はすべて赤となります。

そのとき河合さんは車道を走っていたので、車用の青信号に従って直進しようとしたところ、反対車線から右折しようとしていたトラックに「歩行者用の信号を守れ」と言われたそうです。

「私は『自転車は軽車両だから車と同じだ』という解釈で車道を走っていて、車用の信号が青だったので直進したわけです。そしたら反対車線のトラックの運転手に指摘を受けたんです」
河合さん
田川記者
「びっくりされませんでしたか」
「びっくりしましたよ。びっくりしましたけど、うん?って思いましたね。『何が正しいんだろう』って」
河合さん

河合さんの疑問をしっかり受け取った私は、調べてみることにしました。

何が正しいんでしょう?

みんな知りたい自転車の「ハテナ」

まずは名古屋市内で道行く人たちに話を聞いてみました。

「自転車はどの信号機を守ればいいかご存じですか?」

20代男性
「僕は歩行者用の信号を選んでます。(Qそれが『正しいか』って聞かれたら?)うーん、ちょっとハテナなところはありますね...」
「信号機に『自転車』って書いてあればそっちの信号を見ますね。その時に歩道を走っていれば歩行者用の信号を守るようにしています」
30代女性

10人ほどに話を聞きましたが、判断はさまざまで、街の人たちも信号機には悩まされているようでした。

それもそのはず。
街なかをじっくりと観察してみると、交差点にはさまざまな標識やマークがあることがわかります。

「スクランブル式」の文字。
車道上に描かれた自転車のマーク。
信号機に併設された「歩行者・自転車専用」の標示板などなど。
少し歩いただけでも、4パターンの交差点が見つかりました。

教えて「B-Force」!

信号機の謎は深まるばかり。
「ここは"あの人たち"の力を頼るしかないか」
答えを求めて会いに行ったのは…

「自転車対策小隊、B-Forceです!」

背筋をピシッと伸ばし、ヘルメット姿で敬礼するこの人たちは、愛知県警の自転車専用の取り締まりチーム、「B-Force」です。

2016年に誕生し、子どもや高齢者向けに自転車教室も開催する、交通ルールのプロ集団です。

さっそく質問をぶつけました

田川記者
「自転車はどの信号を守って渡ればいいんでしょうか?」
「自転車で車道を走っている場合は、車用信号機に従って走行していただく。逆に歩道を走っている場合は、歩行者用信号機に従って走行してもらいます」
B-Force山口貴哉巡査長

答えは意外にシンプル。
交差点を横断する際は「自分が走ってきたほうの信号機を守る」のだそうです。

「歩行者・自転車専用」に注目!

ただしここで大切なのは「例外もある」ということ。

「いちばん見ていただきたいのは、歩行者用の信号機に『歩行者・自転車専用』という標示板があるかないかです。これがある場合は、それまで車道を走っていても、一度歩道側に移動して『歩行者・自転車専用』の信号機の方に必ず従ってください」
B-Force山口貴哉巡査長

なるほど...。
交差点を渡るときには、いろいろと注意して見ないといけないんですね。

「歩車分離式」の交差点であっても、「歩行者・自転車専用」の標示板がある場合は歩道側の信号機を守ることになります。

疑問を寄せてくれた河合さんがトラックに注意された交差点には、「歩行者・自転車専用」の標示板はありませんでした。

だから車道を走っていて車用の信号を守った河合さんの渡り方は正しかった、ということになります。(河合さん、疑問の投稿、ありがとうございました!)

自転車が走るのは「歩道?」「車道?」

当初の疑問にはお答えできたところで、もう一つ聞いてみたいことが。

今回、街なかでたびたび聞かれた「そもそも自転車って、歩道と車道どっちを走るの?」という疑問です。

これについては...。

「自転車は『軽車両』なので、原則、車道を走ってください。ただし、『13歳未満の子ども』や『70歳以上の高齢者』、『体が不自由な方』は歩道を走行していただいてもかまいません。
また『自転車通行可の青色の丸い標識がある場合』や、工事や道幅が狭いなどの理由で車道を走るのが危険な場合も、歩道を走ることができます。歩道を走る場合は中央から車道寄りの走行をお願いします」
B-Force山口貴哉巡査長

なるほどここでも「例外」があるんですね。まとめると、

・自転車は原則、車道を走る。
・13歳未満の子どもと70歳以上の高齢者、体が不自由な人は歩道を走行してもかまわない。
・「自転車通行可」の青色の丸い標識がある場合は自転車も歩道を走ることができる。
・工事や道幅が狭いなどの理由で車道を走るのが危険な場合も、歩道を走ることができる。
・歩道を走る場合は中央から車道寄りの走行を!

調べるほどに自転車のルールの"複雑さ"も見えてきました。

車道を走るのが危ないかどうかはその時々の判断になりますが、歩道を走る場合でもあくまで「歩行者が優先」。速度を出しすぎたり、「チリンチリン」とベルを鳴らしながら歩行者の間をすり抜けて走ったりするのはダメだということです!

どうしてこんなに複雑なの?

それにしても自転車のルール、なぜこれほど複雑になっているんでしょう。
交通部歴20年、警察本部の姫嶋次長に聞いてみました。

愛知県警察本部交通規制課 姫嶋祥光次長:
「もともと自転車は完全に"車両"として扱われていたので、車のルールに従っていればよかったのですが、交通事故死者数が非常に多くなった1970年に、自転車利用者の犠牲を減らそうということで、道路交通法が改正されました。
これによって自転車が歩道も通行できるようになりました。その結果、若干わかりにくいようなところも出てきてしまったのかなと思います。自転車の性能もかつてとは変わってますし、利用目的も時代によって変わっていますので、それに応じて自転車利用者に強くお願いするポイントというのも変わってきているんです」

時代とともに自転車の走る場所が変化してきたことが、交差点の渡り方に複雑な事情を生んでいたことがわかりました。

自転車のルール、知っていますか?

・自転車に乗っている際に守る信号は、「自分が走行してきたのが歩道か車道か」によって決まる。
・ただし「歩行者・自転車専用」の標示板があるときは、歩道側の信号を守る。

自転車は子供もお年寄りも使う、生活に身近な乗り物です。
私も学生時代はほぼ毎日乗っていましたが、今回調べてみて、意外にもそのルールをちゃんと教わる機会はほとんどなかったなと思いました。
そして私と同じように多くの人が、迷いを感じながら自転車に乗っていることもわかりました。

去年、愛知県内で起きた自転車が関係する事故による死傷者は、5798人。
そのうち約76%で、自転車側に交通違反があったということです。
警察もルールの周知が課題だとしています。

基本的なルールは警察のホームページなどで確認できますが、もしわからないことがあれば最寄りの警察署に問い合わせてほしいとのことでした。

自転車は月に1回乗る程度。趣味は将棋。勝負の人間ドラマに魅せられています。2021年に入局して愛知県警担当として事件・事故を取材しています。

みなさんの声

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