夢追う姿を後輩に 母校に文庫開設 ~笠間結花さん~

憧れの存在だった京都アニメーションに入社し、アニメーターになる夢をかなえた笠間結花さん(当時22)。入社3か月。プロとしての一歩を踏み出したばかりのときに、第1スタジオで放火事件が起きました。

あれから2年。

笠間さんの母校に、その足跡や夢への思いを伝える新しい本棚が完成しました。

(京都放送局 記者 小山志央理)

名前の文字には“笑顔”のデザイン

笠間さんの母校、大阪市東淀川区の大阪成蹊女子高校に設けられた新たな本棚。

名前は「笠間文庫」。

京アニ作品や笠間さんが影響を受けた映像のほか、書籍や絵本などが並べられています。

遺族から寄付金が寄せられたことをきっかけに、母校の高校と大学にそれぞれ、去年12月からことし5月にかけて設置されました。

棚に貼られたプレートをよく見てみると、「笠間」の文字が笑っているように見えます。

この文字をデザインしたのは、笠間さんが高校生のとき美術の授業を担当していた岩永孝常さんです。

理由を尋ねてみると、岩永さんは「クラスのムードメーカーだった彼女の明るい性格を表現したかった」と話します。

大阪成蹊女子高校美術科 岩永孝常 講師
「カメラを向けたらいつも笑ってピースサインをするような子だったので、笑っている顔をイメージすると、文字も笑っていてほしいなと思いました。本人が喜んでくれるかは分からないですけど、誠実に作ったので、それが伝わればいいなと思っています」

プレートの端には、笠間さんのオリジナルキャラクター「パットンくん」も描かれています。大きな鼻とめがねが特徴の男性です。

これはそのパットンくんが主人公の作品で、高校の卒業制作です。

1分半の動画で、パットンくんが濁流に流されたり爆弾に飛ばされたりと翻弄されるようすがコミカルに表現されています。

何よりも楽しみながら絵を描いていたという笠間さん。その中でもパットンくんは大のお気に入りで、高校のノートにもよく書いていたといいます。

大阪成蹊女子高校美術科 岩永孝常 講師
「私はパットンくんは笠間さん自身だと感じています。夢中になって走っている姿とかが、一生懸命絵を描いていたときの姿とそっくりで、『これ自分自身やろ?』って問いかけたこともありました。だから絶対にプレートにも入れたいと思いました」

“絵を動かす”ことに関心 魅力的な動きを追求

大学時代の作品にもパットンくんは登場します。

結婚式で花嫁の指輪を落とし、大慌てのパットンくん。

指輪を追いかけて、走ったり転んだり飛んだりして動き回るようすをダイナミックな構図で描いています。

大阪成蹊大学の恩師の糸曽賢志教授によると、この動きに笠間さんがアニメーターを志した原点があるといいます。

大阪成蹊大学芸術学部 糸曽賢志教授
「初めて出会ったとき、自分でどんどん手で書いて、絵を動かしていきたいと言っていました。作品の魅力を聞くと、ストーリーが面白いとかキャラクターがかわいいとかいろんな意見がある中で、彼女の場合はこのシーンのこの動きが魅力的だとか、いつも動きに注目して話していました。そのたびに、やっぱりアニメーターになる子だなと感じていました」

魅力的な動きを追求するため、好きなクリエイターが描いたシーンをコマ送りにして分解し、まねをして描く練習をひたすら繰り返していたといいます。

努力を重ね、事件が起きた年の春、憧れの京都アニメーションに入社しました。

これは糸曽教授のもとに、事件のおよそ1か月前に届いた連絡です。

その夏に公開された新作映画で、初めて担当した2カットが映像化された喜びを報告していました。

笠間さん
「担当したカットが初めて映像化したんでなんとなく報告したくなりました!」
糸曽教授
「おぉー!よかったですね!後輩にも、笠間さんが頑張ってるって自慢しますね」
笠間さん
「毎日怒られてますけどね。ありがとうございます」

目標へひたむきな思い 後輩たちに

母校に設置された笠間文庫には、アニメーターやデザイナーを目指す後輩の学生たちが授業の合間などに訪れています。

いつも友人に囲まれていたという笠間さん。完成した文庫も多くの後輩たちが集まる場所になり始めています。

大阪成蹊大学芸術学部 糸曽賢志教授
「笠間さんは諦めずに努力をすることで道を切り開いて、夢を叶えた学生だと思っています。これから活躍ができたし、もっともっと絵を描きたかっただろうなって。後輩たちに笠間文庫を利用してもらって、その思いを感じながら、あとを継いで自分の夢をかなえていってほしい」

最後に紹介する作品は笠間さんの大学の卒業制作です。

テーマは就職活動。

優秀なライバルたちの登場に、途中で挫折しそうになりながらも、がむしゃらに高い壁をよじのぼり、困難を乗り越えて一次面接を通過するというストーリーです。

作品で描かれる主人公は夢を追い続けた笠間さんの姿と重なります。

笠間さんは将来の夢について聞かれたとき、はっきりとこう語っていました。

「私はアニメーターになりたいんです」

そのひたむきな思いは、後輩たちへと受け継がれています。