お別れ そして志を繋ぐ式

「必ず、必ず繋(つな)ぎます」「届け。届け。届け」
事件で亡くなった36人の社員を追悼する「お別れ そして志を繋(つな)ぐ式」の会場に飾られたメッセージです。11月2日から3日間、京都市で開かれた追悼式には、作品のファンやアニメーション業界の関係者など1万人以上が訪れました。京アニへの感謝や励ましの声、再建への願いなど寄せられた様々な思いを取材しました。
(島崎眞碩記者 小山志央理記者)

世界中から応援メッセージ

追悼式の会場となった京都市左京区の施設
追悼式の会場に展示された国内外からのメッセージ

会場は京都市営地下鉄東西線「東山駅」から徒歩8分。京都市左京区の「みやこめっせ」です。その一角にはこれまでにファンや支援者から寄せられたメッセージやイラストが展示されました。事件現場近くの献花台や京都アニメーションに寄せられたもので、そのほとんどを展示したということです。

「どうか安らかに」「これまでも、これからも、大好きです」「ずっとずっと応援しています。心は共に」日本語だけでなく、英語や中国語などで世界中の様々な国からメッセージが寄せられました。

ブラジルの国民的漫画家マウリシオ・デ・ソウザさんが描いた4点の追悼イラストです。半世紀以上続く人気漫画「モニカ&フレンズ」のキャラクターが空を見上げているようすや折り鶴を飛ばすようすなどが「#PRAY FOR KYOANI」の文字とともに描かれています。

マウリシオさんは京都アニメーションの作品は空の青の色が印象的で、その空をイメージしながら描いたということです。手塚治虫さんと親交があった縁で、手塚プロダクションに作品を託して、京都アニメーションに届けられました。

手話で描かれた言葉は…

京都アニメーションのプロ養成塾に通う28期生が描いたイラストには京都アニメーションが制作した映画「聲の形」(こえのかたち)のヒロインで、聴覚に障害のある西宮硝子が描かれています。手話で表現している言葉は「つなぐ」です。

京都アニメーション養成塾 第28期 後期生
「自分はこれから多くのことを京都アニメーションで学びます。大切な時間を、これからをここから紡いでいきます。それができるのは、今もなお響き渡る、ここで生み出されたアニメーションを愛する沢山の想いの声と、それを作り上げた全ての作り手の方々が、自分と京都アニメーションを結ぶ細い糸を掬い上げて強く、強く繋ぎ留めてくれたからだと、そう感じています。必ず、必ず繋ぎます。いつの日かまたここから生まれるアニメーションとそれを愛する人々が、手を取り合いながら笑顔を迎えられる日を、どうか信じていてください。届け。届け。届け。」

“これからも夢と希望と感動を育むアニメーションを”

11月2日午後4時からはアニメ業界の関係者や支援者などおよそ500人が参列して、追悼の式典が開かれました。参列者全員で黙とうをささげた後、京都アニメーションの八田英明社長があいさつしました。

八田英明社長
「本年7月18日午前10時半、ことばでは言い表せない悲しい事件が起きました。本当に優秀な仲間36名が亡くなり、33名が入院などを余儀なくされました。7月17日までの日常が、普通にあったあの日々が、一瞬にしてなくなりました。あの日から100日あまりがすぎましたが、全国からこの地に集まったひとりひとりを思うときに、社内は悲しい思いで涙をこらえることができない日々が続いております。しかしこの間、世界中のみなさまから義援金、あたたかいメッセージ、ご献花をいただき、私たちを励ましていただきました。私たちが仲間とともに作ってきた作品が、こんなにも世界に届いていたこと知りました。本当に感謝しております。私、そして京都アニメーションは、世界の中の日本の京都の会社として、これからも世界中の人たちに夢と希望と感動を育むアニメーションを届けたいと思っています」

式典では、京アニで働いている女性社員のメッセージも代読されました。

女性社員のメッセージ
「いまも現実を受け入れられているような、いないような、ふわふわした気持ちのなか、日々過ごしているように思います。ですが今回の事件で知ったファンの方々の思いや、まるで家族のような存在だった亡くなった仲間たちの思いを力に変えて、1歩ずつ再建できるよう京都アニメーションの1スタッフとしてたたかっていきたいと思っています」

会場には幅30メートルあまりの祭壇が設けられ、ユリ、コスモス、キクの花などで飾られました。参列した人たちは祭壇に花を手向け、亡くなった社員たちに祈りをささげていました。

届け “みんなのつなぐ思い”

11月3日からは一般の人を対象にした追悼式が開かれ、2日間で約1万1000人のファンが参列し、別れや感謝の気持ちを伝えていました。亡くなった人たちの友人や作品の舞台となった地域の人たちも訪れ「この式で気持ちにひとつ区切りをつけることができました」と話す人もいました。来場者には亡くなった木上益治さん監督のアニメ「バジャのスタジオ」のワンシーンが描かれたイラストとメッセージが書かれたポストカードとしおりが配られました。

前橋市 会社員 男性(41)
「悲しいという気持ちもありますが、老若男女を問わず様々な人たちに愛されていたことが分かりました。きょう来たことで区切りとして、気持ちの整理ができました。時間がかかってもいいので1歩1歩進んでいただければと思います」

中国からの留学生(20)
「京都に留学に来た理由の一つは京都アニメーションの作品でした。会場は京アニへの愛に溢れていて、さようならとありがとうを伝える場を設けてくれたことに本当に感謝しています。京アニの人すべてにありがとうを伝えたいです」

京都市 会社員 女性(25)
「ずっと青春を京アニの作品と共に歩んできたので、今でもなぜという思いでいっぱいです。会場では皆さん涙していて、同じ気持ちなのだと思いました。このような機会を設けてくれただけで嬉しいですし、ファンのことも大事にしている京アニなのだと感じました。今までありがとうございましたという気持ちとこれからも素晴らしい作品を作ってくださいという気持ちを伝えました」

京都アニメーションでは来年4月以降の公開を目指して、「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の制作に全社員一丸となって取り組んでいくことにしています。