届け!あのパンの味

京都アニメーションの本社がある京都府宇治市は、吹奏楽に青春をささげる高校生たちの日常を描くアニメ作品「響け!ユーフォニアム」の舞台でもあります。

京阪電鉄の黄檗駅(おうばく)から歩いてすぐのパン屋さんは、アニメに登場する、いわゆる「聖地」のひとつ。作品に出てくるパンが、店とファンを結びつけています。
(石山寛規 記者)

秀一と言えば あのパン

ソーセージにデニッシュ生地を巻き付け、ケチャップで味付けした「フランクデニッシュ」。どこか懐かしさを感じさせるこのパンは、ファンの間で“秀一パン”と呼ばれています。由来は、「響け!ユーフォニアム」の主人公・黄前久美子の幼なじみ=塚本秀一がいつも食べているから。秀一は主人公の幼なじみとはいえ、主要な登場人物というわけではありません。だからなおさらなのでしょう、ファンは「秀一と言えば、あのパン」と、強く結び付けているのです。 

“新しい世界を見たような感覚”

アニメに登場するパン屋の店構えも、実在の「中路ベーカリー」そっくりです。店主の中路義弘さんが、「フランクデニッシュ」イコール「秀一パン」だと気付いたのは4年前。大学生の次男から「友達に『アニメに出てくるパン屋、お前の実家ちゃう?』って言われた」と聞いて見てみると、確かに、店の外観もパンもそっくりでした。

店主の中路さん
「現実のものがものすごくリアルに表現されているので、本当に不思議な感覚でした。30年か40年前から作っているパンですので、アニメをきっかけに新しい友達とつながれるということは今まで想像したこともありませんでした。うれしいような、新しい世界を見たような感じがしました」

ファンの輪 これからも変わらぬ味を

「宇治が好きになった」、「パンおいしい!」、「応援しているのでがんばって下さい」ー 中路さんが、店を訪れたファンたちからかけられたことばです。秀一パンは、店の入り口近く、道路からもガラス越しに見える場所に並べています。同じスペースに一緒に飾っているのは、「響け!ユーフォニアム」のイラストです。ファンの人たちが持ち寄ってくれたものです。

中路さんは、若いファンの人たちの店への気遣いにも感銘を受けました。秀一パンを目当てに来るファンが増えると早朝に店の前に列ができるようになりましたが、ツイッターで「朝早くから並ばないように」という呼びかけが広まったのです。住宅街にある商店にとって近所への配慮は欠かせません。

正式な商品名は「フランクデニッシュ」のままですが、ファンの通称「秀一パン」も、もちろん店公認。中路さんは、アニメを通して生まれたつながりを大切に、これからも変わらぬ味を届けていこうと考えています。

店主の中路さん
「京アニの作品にパンが取りあげられたことをきっかけに、いろんなファンの方たちと交流をさせていただき、輪になった感じです。つながりができて、それがまた1つの原動力になって、外から京アニを応援できればと思います」