いつもあなたのそばにある~聖地の缶バッジ

魚屋さん、豆腐屋さん、和菓子屋さん、服屋さん…京都市のある小さな商店街の店主たちの胸元には、同じメッセージが書かれた缶バッジが付けられています。

「いつもあなたのそばにある」。

そのメッセージには京アニへの応援と深い感謝の思いが込められていました。

(海老塚恵 記者)

商店街はある日聖地になった

京都御所のすぐ近くにある京都市上京区の出町桝形商店街。日用品や食料品などを扱う40店舗あまりが軒を連ねるごく普通の小さなアーケード商店街です。この商店街に異変が起きたのが6年前。なじみの地元客とは別の見知らぬ若者たちが突然、訪れるようになりました。

きっかけになったのが、京都アニメ-ションが制作したテレビアニメ「たまこまーけっと」。主人公の餅屋の娘、北白川たまこが生まれ育った「うさぎ山商店街」を舞台に、たまこと商店街の人たちとの交流をコミカルに描いた作品です。その舞台のモデルが出町桝形商店街でした。アニメの放送後、作品の聖地として国内外からファンが訪れるようになったのです。

桝形事業協同組合 岸本仁専務理事
「アニメの放送前はちょうど商店街が低迷している時期でした。2013年にこのアニメで商店街を取り上げてくれたことがひとつのきっかけになって上を向き始め、いまではこの商店街はとても良い状態になりました。何十年も空き店舗だった物件も今工事が進められていて、新しい店舗ができる予定です。商店街の人たちは京アニさんにとても感謝しているんです」

京アニと商店街をつなぐ言葉

事件を受けて、何かできる支援はないか。商店街の組合員たちが話し合いを重ね、あらたに制作したのがおそろいの缶バッジでした。

この缶バッジのメッセージに選ばれたのが冒頭で紹介した「いつもあなたのそばにある」です。

もともとはアニメの作中に出てくる「うさぎ山商店街」の看板に書かれたキャッチコピーでしたが、ファンからの要望をうけて作品から逆輸入。5年前から現実の出町桝形商店街でも掲示されています。

桝形事業協同組合 鋸屋愼三 理事長
「商店街は作品のおかげで力をいただいたわけですからね。聖地としての商店街らしい応援がなにかできないかという意見が出ました。京アニと商店街をつなぐシンボリックな言葉で『いつもあなたのそばにある』が一番良いということで、みんなが賛成しました。変わらずにいつもここにいるよ、ドンといつでもここにいるよと伝える。それが一番良い応援メッセージじゃないかと思いました」

9月30日から商店街のほぼすべての店舗が参加し、約120人がこの缶バッジを胸元につけて、毎日接客をしています。店主の1人は「みんなで一緒になって、京アニさんが再生できるように支援を続けていきたい」と話していました。商店街では、募金活動も続けられています。

聖地だからできる息の長い支援

この商店街の魚屋さんの前には、作品のファンたちが交流するためのノートも置かれています。19冊目になる交流ノートには、事件翌日の7月19日以降、再起への願いや応援のメッセージが多くつづられています。メッセージには「決して折れずまた夢を創って下さい」「京アニは負けないって信じています」などと記されていました。魚屋さんの店主は「これからはファンとともに京アニさんに何か恩返しをしていきたい」と話していました。

ファンが訪れる「聖地」だからこそできる支援がある。商店街の人たちは缶バッジを胸に、いつまでも京アニのそばに寄り添って、支援を続けていくことにしています。