次は私たちが支える番です

日本だけでなく世界中の人たちが途絶えることなく、連日、そこを訪れていました。京都市の京都アニメーションの第1スタジオ近くに設置されていた献花台です。

事件2日後から撤去される8月25日までの37日間、亡くなった人たちとファンの想いをつなぐ場所になっていました。
「京アニの作品に救われた」
「次は私たちが支える番です」
そこで多くのファンが口にした言葉です。

追悼の祈りや感謝の気持ち、そして再興への願いなど、献花台に訪れた人たちのさまざまな思いを伺いました。
(取材班 谷口碧記者 海老塚恵記者 新地生佳記者)

献花は自然に始まった

事件は7月18日、京都市伏見区の京都アニメーションの第1スタジオで起きました。

押し入ってきた男がガソリンをまいて放火し、社員70人のうち36人が死亡、33人が重軽傷を負いました。10月11日現在、やけどなどでいまも5人の社員が入院して、治療を続けています。

日本のアニメーションを支えてきた多くの人たちの命が一瞬で奪われた凄惨(せいさん)な事件。現場では翌日から手を合わせる人たちの姿が見られ、献花が自然と始まりました。

2日後には第1スタジオから南に100メートルほど離れた京阪電鉄六地蔵駅近くに、京都アニメーションが献花台を設置しました。

私たちは取材にご承諾して頂けた方々、1人1人にその思いを伺いました。多くの人たちは何気ない日常を美しく描いた京アニの数々の作品に救われたと感謝の気持ちを話しました。その一部の声です。

「仕事がつらいときも「けいおん!」を見て、なんとか心を保つことができた。生きる支えだった」(20代男性)

「いじめにあっていた学生時代、作品が救いの手となり、仲間や居場所を与えてくれた」(20代男性)

「京アニはほかの会社にはない繊細な作画描写が素晴らしく、水や楽器など表現が難しいところも美しく再現してくれるアニメーターがいっぱいいた」(20代女性)

「京アニの作品が自分がアニメの仕事に就くきっかけになった。同じ仕事をする仲間の命が失われたことは本当に悔しい」(20代男性)

「冥福を祈らないといけない。でも焼け焦げた建物をみるのはつらい。だから日が沈んで見えなくなってから来ました。現実は受け入れられていない」(50代男性)

イラストをささげる人たちも

京都アニメーションの作品の人気キャラクターを描いた手書きのイラストを献花台にささげる人たちも多くいました。事件からちょうど1か月が経った8月18日。中学1年生の女の子が手に持っていたのは大好きなアニメ「日常」のキャラクターのイラストでした。スタッフのことを想いながら一生懸命、自分で描いたと話してくれました。

「たくさんの人を感動させられるアニメを作ったアニメーターのみなさんが、暴力によって亡くなり、けがを負って、すごく悲しい気持ちです。私にとって京アニは笑顔と幸せを与えてくれるものです」(中学1年生の女子生徒)

京アニ作品が人生を変えた

献花台には日本だけでなく欧米や中国など、世界中から作品のファンだという人たちも訪れました。

そのうちの1人、イギリス人の留学生、ユージン・リーさん(19)。京都を留学先に決めた理由が「京都アニメーションの作品の舞台を訪れたかったからだ」と話しました。リーさんが特に影響を受けたのが人気アニメ『氷菓』。他人と積極的に関わろうとしなかった主人公の男子高校生が、ヒロインや友人との交流を通して、人生に彩りを得ていく物語です。

リーさん自身も高校生の頃は、主人公と同じように友人と深い関係を築こうとせず、その場限りのつきあいでかまわないと思っていました。しかし『氷菓』を見たことで、友人を大事にして人生をより豊かにしたいと考えるようになり、生き方が変わったといいます。

ユージン・リーさん
「京アニのキャラクターは本物の人間みたいで、体の動きだけで感情が分かる。主人公の人生は僕の人生に似ているところもあって、『氷菓』をみて残りの高校生活を友達と一生懸命楽しみたいと思った。そうしなかったら、今友達との関係や絆はたぶんないと思う。人々に喜びと幸せを届けようとしている京アニのスタッフにこんなことが起きていいわけがない」

世界から京アニへ 応援メッセージ

リーさんは感謝の思いを伝えたいと、世界中の人たちにインターネットを通じて呼びかけ、応援メッセージを集めました。1週間ほどで、欧米、インド、オーストラリアなどのおよそ120人から京アニへの思いが届きました。リーさんは、その言葉の1つ1つを丁寧に色紙に書き写し、第1スタジオの前ですべて読み上げました。最後に「ありがとう京アニ」とつぶやき、色紙を献花台に捧げていました。

寄せられた応援メッセージの一部です。

▼Your works helped me keep going during tough times. When I wanted to kill myself, your shows made me feel happy. I am praying for you, Kyoani. Take as long as you need to recover,I will be waiting.(あなたたちの仕事のおかげで私は困難が立ちはだかる時も立ち止まらずにいられました。私が自殺したいと考えた時、あなたたちの作品が私に幸せを感じさせました。私は京アニのために祈っています。立ち直るには長い時間がかかると思いますが、私は待ち続けます)

▼Thank you for your works over the years! They have helped to shape my worldview and encourage me to live better!(長年にわたるアニメ制作に感謝します。京アニのアニメが私の世界観を形づくり、よりよい人生を与えてくれています)

“TSUNAGU”思い

京都アニメーションに寄せられた寄付金は29億円を超え(10月11日時点)、インターネットやアニメの舞台となった聖地でも募金の呼びかけが続いています。数々の作品を生み出してきた多くのアニメーターが犠牲になり、遺族への支援や会社の再建に向けて、息の長い取り組みが求められています。

今回、私たちは献花台を訪れた100人以上の方々からお話をお伺いしました。「亡くなられた方々の思いや作品をつないでいきたい」「京アニの作品に救われた」などの言葉とともに、多くの人たちが口にしたのが「次は私たちが支える番です」でした。こうした1人1人の思いをつないでいけるよう、私たちはこの事件と向き合い続けていきたいと思います。