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『“イクメン全国一”佐賀県で聞いてみた』

育児に積極的な男性を示す「イクメン」。

このことばもすっかり定着した感がありますが、ことし9月に発表された、ある民間の調査で、佐賀県が「イクメン・ランキング全国1位」になったことが話題になりました。

佐賀で子育て中の私にとっては、うれしい反面、にわかに信じられない気持ちも。

「どうして佐賀県が?」取材してみることにしました。

(佐賀放送局記者 藤本拓希)

佐賀がトップ!でも…

調査を行ったのは大手住宅メーカー「積水ハウス」。

男性の育児や家事参加の実態を調べようと、ことし7月、小学生以下の子どもがいる全国の20代から50代の男女9400人を対象に、インターネットで調査しました。

調査結果は1位が佐賀県、2位が熊本県、3位が福岡県。

佐賀県をトップに、上位3つを九州勢が独占したのです。

ふるさと佐賀県で1歳10か月になる息子を育てる私にとって、喜ばしいニュースではありましたが、正直、違和感もありました。

総務省が5年ごとに実施している「社会生活基本調査」で、直近の平成28年、佐賀県の男性の1日の家事時間は38分と、全国46位だったというデータを知っていたからです。

「九州男児で“亭主関白”のイメージもある佐賀が1位?」

まずはこの調査について、もっと聞いてみないと…

“イクメン力”調査とは

調査を行った、住宅メーカーの担当者に詳しく聞いてみました。

それによると、今回の調査、“イクメン力”の評価の項目は5つ。

▽「夫の家事・育児の実践数」
▽「妻が評価する夫のイクメン度」
▽「夫の育休取得日数」
▽「夫の家事・育児時間」
▽「家事・育児参加による夫の幸福感」

それぞれを数値化してランキングにしたそうです。

今回、佐賀県がナンバーワンになったポイントは、5つの項目のうちの「妻が評価する夫のイクメン度」。

この項目が全国1位だったというのです。

積水ハウス広報部 井上美穂さん
「佐賀県は5項目すべてが去年より上昇したのですが、特に『妻が評価する夫のイクメン度』が1位だったことが総合1位に大きく影響しています。
中でも20代から30代の7割の女性が『夫はイクメンだと思う』と回答していて、全世代の全国平均46.5%と比べるととても高い結果だと思います」。

妻の評価が高い。

なるほど、全国平均は大きく上回っています。

とはいえ、佐賀県が総合1位にまでなるのには、もっと何か特別な理由が…?

積水ハウス広報部 井上美穂さん
「詳細な分析ができている訳ではないのですが、佐賀県は子育てを応援する独自のプロジェクトをされていると聞いています。
その成果が今回のランキングに反映されたのではないでしょうか。
夫婦で育児を担う意識を高めるような活動をされていると聞いています」。

マイナス1歳から

確かに、佐賀県は2年前から「マイナス1歳からのイクカジ推進事業」という取り組みを始めています。

妻の妊娠期から夫の家事育児への参加を促すのがねらいで、父親の心構えをまとめた「父子手帳」を県内の市と町で配布したり、夫婦で家事や育児をするコツを学ぶセミナーを各地で開催したりしてきました。

県も、今回の1位の背景に、取り組みの効果もあったかもしれないと受け止めています。

佐賀県男女参画・女性の活躍推進課 小林久美課長
「若い男性を見ていると、自然な形で子育てを楽しんだり、料理をつくったりということはずいぶんできているように思います。
若い世代の啓発に力を入れてきましたので、その結果が今回の調査にもしかしたら結び付いているのではないかと思っています」。

また小林課長は、佐賀県では共働き世帯の割合が53.7%と全国でも高く、夫婦で家事育児を共有せざるをえない側面もあるのではと話していました。

「イクメン」のことばは古い!?

県が言うように、家事育児に積極的な男性は増えてきているようです。

こちらは伊万里市に住む片桐亮さん(40)。

3人の子どもの父親で、印刷会社に勤める片桐さんは、これまで2度、育児休暇を取得しました。

その後も定時での帰宅を心がけ、子どもたちをお風呂に入れたり、洗い物や洗濯をしたりしています。

もともと育児に積極的だった片桐さんですが、3年前、育児への参加をより強める出来事があったといいます。

当時、妻は第2子の出産を前に入院。

片桐さんは2歳だった長女と2人だけで5日間を自宅で過ごし、大変さを痛感しました。

片桐さん
「長女が夜、なかなか寝なくて、何時間も泣きじゃくっていました。
世の中の母親たちはこんなに大変だったのかというのを実感して、世の中のママ、母親に対して『すごいな』って思ったんですよね」。

これをきっかけに、片桐さんはおととし、家事や育児への参加を呼びかける男性でつくるグループ「いまパパ」を結成。

去年は、育児中の女性たちのために1人の時間をつくろうと父と子が参加するキャンプイベントなどを開きました。

片桐さん
「イクメンということばはもう古いと思っています。
だって『イクママ』なんて言わないですよね。
もともと育児するのが当たり前っていう形でママがなっているにもかかわらず、男性はちょっとサポートしたり手伝ったりするだけでイクメンと評価されるのも本当はおかしいなと。
やっぱり子育ては夫婦一緒にするべきですよね」。

そんな片桐さんに佐賀県の総合1位について聞くと、やはり、周囲の変化を感じているといいます。

片桐さん
「考えてみると、公園やショッピング、観光に行ったりする中で、パパと子どもだけの姿をよく見るようになりました。
小児科でもパパと子どもの組み合わせのほうが多いとか、観光地でもパパが赤ちゃんをだっこしているとか、数年前とは明らかに違うと実感しています。
ただ、佐賀県だけがよくなればいいわけではないので、九州全体、日本全国でそうした光景が普通になればいいねって、妻とも話しています」。

こども園で観察

子どもを連れた父親の姿。

ある朝、私は佐賀市内のこども園に行ってみました。

するとそこでは、子どもを送り届けに来る男性が思った以上に見られました。

話を聞くと、「毎朝来ている」という人や「自分が好きでやっている」という人も。

園の担当者によると、5年ほど前くらいから、子どもの送り迎えをする父親が増えてきたといいます。

龍谷こども園・教頭 浅井太希さん
「共働きの保護者の方が多くなる中で徐々にお父さんの姿が出てきて、最近は両親でのお子さんの送迎や行事への参加も増えてきた印象があります。
子育てはお母さんだけでなく、両親、家族の協力体制でやっていく必要がありますし、家族の絆という面でも、子どもの成長にとってもいいことじゃないかなと思います」。

ただ、イクメン力総合1位について聞くと、まだ課題もありそうでした。

龍谷こども園・教頭 浅井太希さん
「総合1位については、私もこども園で働く者として、また父親として、うれしいなという気持ちです。お父さんの育児参加は進んでいると思いますが、ただお父さんたちの働き方はあんまり変わってなくて、『できる範囲内での参加』になっているような気もします。
仕事を早く切り上げてお迎えに来るとか、そういう家庭が増えると、今後も2年連続、3年連続と1位になれるかもしれませんね」。

感じたこと

佐賀県が「イクメン・ランキング全国1位」になった理由。

結局、今回の取材で決定的な要因を見つけることはできませんでした。

妻の評価が高いことについて、取材した片桐さんは「九州男児というイメージが強い分、パパが行動を起こすと評価が上がりやすい面もあるのでは」と話していましたし、「イクメン」ということばの裏には「男なのにすごい」という認識もあるのだと、取材を通じて気づかされました。

とはいえ、佐賀の1位を「過大評価」とするのも違うと思います。

若い夫婦の間で家事や育児をシェアする意識が確かに浸透しているのを実感したからです。

印象に残っているのは、保育園に子どもを送りに来た男性の「妻も働いているから、お互いにできる範囲で育児をやる」という何気ないひと言です。

得意・不得意や仕事の事情によって、男性に何ができるかはそれぞれの家庭で違うと思いますし、だからこそ、夫婦が話し合ってお互いに納得したうえで家事や育児を“シェア”することが大切なのだと感じました。

「イクメン」になろうとして「何をどこまでやるか」を意識しすぎるよりも、まず必要なのはパートナーを思いやる心なのかもしれないと感じました。

佐賀放送局 記者

藤本拓希

佐賀県唐津市出身
地元新聞社を経て令和2年9月入局
経済や暮らし、サッカーJ1などを担当

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