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『なんで双子を産んじゃったんだろう』

双子や3つ子などの「多胎児」。

母親は、同時に2人以上の出産、育児をすることから心身ともに負担が大きく、社会から孤立する傾向にあることが国の調査でも明らかになっています。

兵庫県尼崎市で多胎児の親を支援するNPOには今、新型コロナウイルスの影響で外出が難しくなった母親たちからの不安の声が多く寄せられています。(神戸放送局 里村和奏)

同じ境遇の親を支援したい

NPO「つなげる」代表 中原美智子さん

兵庫県尼崎市のNPO「つなげる」の代表、中原美智子さん(49)。

10年前に双子の男の子を出産した母親です。

双子が乳児の時は、授乳や夜泣きでほとんど夜、眠ることが出来ず、1歳になるまでほとんど家に引きこもった状態だったといいます。

中原さん
「双子の赤ちゃんの上には7歳離れた長男がいたので、周囲からも『子育てのベテラン』と言われていましたし、私自身も自分でそう思っていました。だからこそ、うまく双子を育てられない自分が嫌になり、1人で悩み続けました。育児で手いっぱいで、外出することも難しくなりどんどん社会とのつながりが切れた感じでした」

誕生“ふたごじてんしゃ”

中原さんが最初に動いたのは、双子が1歳を過ぎたころでした。

当時は、双子をベビーカーに乗せて外出しても、重すぎてスーパーでの買い物も満足にできない状態。

一念発起して、双子を安定して乗せられる新しい自転車の開発に乗り出したのです。

これまで何度も自転車で転倒した中原さんが考えたのが、後部に2人が座る3輪の自転車です。

中原さんが自転車メーカーに直接働きかけて、1台目の試作車が完成。

さらに、中原さんの活動を知った別の自転車メーカーの協力を得て、製品化にたどりつくことができました。

完成すると、荷物も一緒に運ぶことができ、双子を前後に乗せるしかなかった従来の3人乗りに比べ、安定して走ることができると好評でした。

多胎児の親を支援するNPO設立

全国で開いた自転車の試乗会で、多くの多胎児の親と接した中原さん。

親たちが抱える、数々の悩みや葛藤に触れました。

中原さん
「あるママは、ポツリと『なんで双子を産んじゃったんだろう』って。このことばはつらかったですね。命の誕生を素直に喜べない、そんな状態なんて」。

孤立する多胎児の親の相談に乗りたい。

中原さんが次に実行したのは、NPOの立ち上げでした。

2018年、多胎児の親を支援するNPO「つなげる」を設立。

全国の双子の親に“ピアサポーター”と呼ばれる相談員になってもらい、多胎出産や育児の悩みや不安に応える取り組みを続けています。

中原さん
「自分自身も常に何かに追われて子育てをしていました。行き詰まったときに市を訪ねて『私はもう、このままだったら虐待して放り投げてしまうそうだ。どうすればいいでしょう』と相談したこともあります。解決手段は示されなかったけれど、担当者はずっと話を聞いてくれました。このとき、話を聞いてもらえてうれしかった。だから私も、悩む多胎児の親が話を聞いてもらえる場をつくりたいと思ったんです」。

コロナで急増する相談

去年9月には、LINEのオープンチャットに悩みや困りごとをつぶやいてもらう「ふたごのへや」を開設しました。

ことし1月時点での登録者は約300人でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大とともに急増。

10月現在で、約800人以上が登録しています。

取材で訪れた日は、都内で双子を育てる30代の母親が、オンラインで中原さんに悩みを聞いてもらっていました。

女性は、夫と娘、それに双子の5人で暮らし。

家の手伝いに四国から来る予定だった母親は、コロナで上京を断念。

夫も在宅勤務ができる状況ではなく、1人での子育てで孤立した気持ちになっていたといいます。

相談した女性
「自分が暮らす地域には半年に1度、双子の親の会があったんですが、コロナのため最近は開催されてません。オープンチャットを通して、全国の双子の親とつながることができると、いろんなお母さんと情報交換ができて励まされます。誰かの悩みに、みんなが回答していて、『頑張ろう』という気持ちになれます」。

双子を産んで喜べる社会に

「ふたごのへや」には、コロナ禍で赤ちゃん用品が不足した際、「双子分のおむつを買ったら、買い占めと勘違いされて悲しかった」という声も寄せられました。

寄付で集まった紙おむつなど

そこで、ネットで寄付を募り、多胎児の親73人に、紙おむつや離乳食、絵本を贈る活動を実施。

さらに「ネットスーパーが品薄なのに、双子を連れて買い物に出られない」という声を受けて、企業と協力して液体ミルクを送料無料で買える仕組みを作りました。

同じ境遇の母親たちのため走り続ける中原さん。

原動力は、かつて聞いたあの「なんで双子を産んじゃったんだろう」ということばです。

中原さん
「命の誕生を当たり前に喜べる社会になるには、どうすればいいんだろうとずっと考えてきました。そのためには誰もが、今ある命を喜ぶことができる社会にしていかないといけない。新型コロナでオンラインによる会話が普及し、チャットの利用も進みました。こうしたツールを活用して、多胎児の親をつなぐだけでなく、多胎児が周りにいない子どもや大人、行政の人たちにも、状況を理解してもらえるよう、これからもチャレンジしていきたいです」。

「つながる」が「ひろがる」

どんな人にとっても、同じ境遇にある人や同じ経験をした人だからこそ話せること、打ち明けられることはあると思います。

そんな人たちの存在を身近に感じられることは心強いはず。

新型コロナの影響で積極的に外出ができない今、“少数派”の多胎児の親どうしをさらにつないでいこうと、NPOでは、オンライン相談をこれから双子の親になる「プレママ」「プレパパ」にも広げています。

もともと少なかった多胎児の親向けの出産・育児の勉強の機会がさらに減っている中、オンラインで同じ経験をした人とつながることは、きっと大きな心の支えになるはずだと感じました。

こうした「輪」が、もっと広がっていってほしいと思います。

NPO法人「つなげる」
問い合わせ先
▼住所 兵庫県尼崎市塚口町1-25-2 クエステ塚口105
▼URL https://tsunagerunpo.com/
▼メール info@tsunagerunpo.com
▼LINEオープンチャット 「ふたごのへや」

知られていない多胎児の親の負担

厚生労働省の「人口動態統計」によると、去年、同時に2人以上を出産した母親は9083人で、分べん全体のおよそ1%でした。

厚生労働省や一般社団法人・日本多胎支援協会によりますと、多胎児は「単胎児」に比べ低体重で生まれる割合が高く、特有の支援が必要となる場合もあります。

同時に2人以上の妊娠、出産、育児をすることで、母親には身体的、精神的な負担が大きく、おむつやミルク、衣類など経済的な負担も大きいということです。

このため、多胎児の親と、単胎児の親では子育ての悩みや不安が異なる点があり、多胎児の親特有の課題に対応する支援が求められています。

神戸放送局記者

里村和奏

令和2年入局 兵庫県警担当
子育ての問題も取材

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