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コラム「伝説のお母さん」スタート!

NHK総合テレビで2月1日(土)から始まる、よるドラ「伝説のお母さん」。
このドラマの舞台はファンタジーの世界。
なのに描かれるのは子育てをめぐるリアルな問題なのです。
主人公の『メイ』はお母さんですが、ワンオペで育児に追われています。
私たちが取材している「孤育て」そのものです。
演出を担当したNHKのディレクターにドラマの狙いを聞きました。
(ネットワーク報道部 野田綾)

(主人公・メイ)

物語の舞台は、魔王が人間界への侵略をもくろむ“ロールプレイングゲーム(RPG)”の世界。伝説の勇者たちが一度は魔王を封印しましたが、10年後に復活し、人間界に再び襲いかかってきます。
かつての勇者たちは、国王から魔王討伐の旅に出るよう命じられました。
そのひとりが、伝説の魔法使い、メイ。ただし、生後8か月の女の子の子育てまっただ中でした。

国王からの命を受けたメイは戸惑います。
「なかなか難しくって・・・だって、保育所が空いてないんですよ!」
ダメ元で役所に入所の申請手続きに行くと、長蛇の列。
戦いに行かなければいけないと訴えるメイに、役所の担当者は言います。
「子育てを後回しにした人類の負けです。大人しく滅びましょう」

「少子化」「ワンオペ」「待機児童」と、人間の自滅に向かう様子を理解できない魔王は、人間の抱える問題につけいり、子育て世代の心をつかんで魔界に取り込もうと次々に手を打ってきます。
果たして人類の未来は・・・。

同名の漫画が原作のこのドラマを企画し、演出を担当しているのは、NHK制作局の村橋直樹チーフディレクター(40)。11歳、9歳、4歳の3児の父です。今回のドラマに込めた思いを聞きました。

「ドラマは、序盤は風刺劇なんです。女性の社会進出が進んできていると言っても、母親にとっての子育てのしにくさは変わっていません。それは、今、社会も戸惑っているからだと思うのです。今までは、『男が働いて女が家を守って』というのをベースにいろんなルールが決まってきたのに、だんだん生き方や、父・母・男・女の果たすべき役割も価値観も多様化してきました。社会はロールモデルを失い、『型にはまってくれないと社会もどうしようもないよ』と思っていると思うんです。そうこうするうちに、最も重要である「子育て」がたらい回しにされています。どうすれば多様性に対応できるか、ドラマを通して真剣に考えていってもらいたいです」

村橋ディレクターは、おととし、町の小さな産婦人科を舞台に、看護助手のアルバイトを始めた少女アオイが、未婚や未成年の出産、母子の病や中絶、死産などさまざまな命をめぐる問題に向き合い、成長していく「透明なゆりかご」というドラマも演出しました。
このドラマで村橋さんは、出産をめぐり女性が経験する悩みや苦しみを描く際、男性として少し居心地の悪さを感じたといいます。

「男性には、大変な状況から逃げたいときにすがるツールがあると思うんです。女性に出産の苦労や子育てを任せてしまったりとか。そういうことに、透明なゆりかごで気付かされました。それを生々しく描くドラマがあっても良いと思いますが、突きつけられてもつらいだけだと思うんです。完全に自分とは違う世界の話なのだけど、何か1本だけ自分とつながっているみたいな距離感で見てもらえる子育てストーリーを描けないかと。RPGの世界に描くことで、リアルな子育てストーリーのハードルをぐっと下げ、説教くさくなく見てもらえるかなと思いました。」

メイを最も困らせているのは、子育てのパートナーであるはずの夫・モブです。
この夫、男は仕事をしていればよいという考えで、子育てはすべてメイ任せ。
おむつ替えもミルクの準備も全くできません。
メイが1日だけ夫・モブに子育てを任せると、世話を「できない」「男にはハードル高い」と諦めてしまうだけでなく、ヘッドホンをつけてゲームに熱中する始末。
メイは夫に協力を仰ぐことを諦めてしまいます。

「モブを見て、男性は『こんなやついないよ』と思うかもしれません。でも、すべての父親に心当たりがある行動を寄せ集めたのがモブなんです。実は自分も子育ては妻に任せっきりで仕事一本のタイプだったんです。台詞にある『うんちのおむつ替えるの、男にはハードルたけーだろ』って、僕が妻に言った言葉ですから。女性には理解できない思考が、男性にはあるんです。」(村橋ディレクター)

このドラマは、女性と男性の間の子育てに対する向き合い方の違いを感じてもらい、議論のきっかけにしてもらうのが狙いだといいます。

「モブが『俺がみててやるよ、この子』って言う場面があるのですが、自分の子どもをみててやるって。子育てを『手伝う』とか、『何をすればいいか言って』とか言ってしまうことがあると思いますが、お母さんが子どもを育てることが前提になっていて、この声かけはおかしいですよね。モブを見て自分の行動を振り返ったり、夫婦で議論をしたりするきっかけにしてもらえたら嬉しいです。このドラマは、モブさんの父親としての成長の物語でもあるんです」(村橋ディレクター)

今回のドラマの大きな特徴は、RPGのような世界を舞台にしていることです。
どうしてリアルな社会風刺劇をファンタジーとして描いているのか。
それは若い世代へのメッセージでもあるそうです。

「RPGで描くことで、若い世代にも興味を持ってもらいやすくなるのではないかと思います。子育てを始める前の若い世代にも見てもらい、子育てにおける役割を知ってもらいたい。そして、いつか自分が親になるときに役に立ててもらえたら、このドラマも意味があるのかなと思います。」(村橋ディレクター)

ドラマでは、メイが、子育てを抱え込みがちになりながらも多くの人に見守られ、手を借りながら、自分らしい子育てのあり方を見つけていきます。
村橋さんは、ドラマを通して、お母さんに1つのメッセージを届けたいと話してくれました。
それは「子育てが大変なんだ!」という声を上げてほしい、ということです。

「子育てってすごく大変です。やはり子どもと1対1の状況が一番つらいんだと思います。そのことによって、子どもとの関係が煮詰まってしまったり、時に虐待に向かったりしてしまうんだと思います。昔みたいにコミュニティーで子どもを育てる環境ではなく、黙っていても誰かが手伝ってくれるわけではありません。でも、『助けて』と手を上げたら、来てくれる人が世の中にはたくさんいると思うんです。また、恥ずかしながら、男ははっきりと声を上げてくれないと、母親の苦労に気がつけないことも多いんです。だから、自分だけで背負い込むのではなく、手伝ってと声を上げてほしいし、「苦しいんだ!」と叫んでいい世の中になってほしいと思います」(村橋ディレクター)

主演は、出産後初のドラマ出演となる、前田敦子さん。
放送は2月1日(土)スタート。NHK総合テレビで、毎週土曜日の午後11時半からです。
子育てをめぐる問題に関心のある方も、ない方も、ぜひご覧ください。

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