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なぜ言葉は響かないのか

先月12日から始まった4回目の緊急事態宣言。しかし、人出は思うように減らず、感染は拡大、首都圏を中心に医療体制は危機的な状態になっている。新型コロナ対策を担ってきた官僚たちは焦りを募らせている。
(霞が関のリアル取材班 杉田沙智代)

宣言の効果なし?

デルタ株が猛威を振るう“第5波”。その最大の特徴は若い世代の感染者が多いこと。

今、宣言をどう受け止めているのか?8月下旬の午後3時すぎ、原宿駅に向かった。

20代男性
「緊急事態宣言?出ていることは一応知ってはいる。でももう自粛は無理でしょ」

10代女性
「制限されているのはお酒だけだから私たちには関係ない」

もはや宣言の限界か。

霞が関の官僚たちも、じわじわと限界を感じ始めていた。

30代官僚
「何を言っても国民に響かなくなっている」

40代官僚
「どうすれば感染が収まるのか、誰も分からなくなっている」

官僚たち、仕事してるの?

病床の確保に、治療薬の承認。国は、さまざまな対策を打ち出してきたが、いずれも「対症療法」。

新規感染者の数を減らさなくては収束につながらないと、国は一貫して国民に自粛をお願いしてきた。

そして、菅総理大臣が「今回が最後となるような覚悟」という決意で臨んだ今回の緊急事態宣言。
これまでの宣言ほど、人出や接触の低下は見られていない。

対策の中心を担う厚生労働省。
感染症やワクチン接種を担当する部局のトップは、現状をこう受け止めている。

厚生労働省 正林督章 健康局長

厚生労働省・正林督章 健康局長
「国から『外出を控えてください』とか『飲食店に行くのを控えてください』と、いろいろな情報発信をしても、なかなかそのとおりにならない。非常にジレンマを感じます。やはり多くの国民は、もう1年以上、このパンデミックと向き合ってきて、かなり抑制的な生活をされてきたので、いわゆるコロナ疲れ、自粛疲れ、そういった状況になりつつあるのかなと」

コロナ禍で、厚生労働省の官僚たちの残業時間は、霞が関でも群を抜いている。

正林局長はどうなのかと、周辺の職員に取材を始めた。

Aさん
「週の後半になるにつれて、段々と顔色が青くなっていきます」

顔色が悪くなるとはどういうことなのか。

この職員によると、睡眠不足によるものではないかという。
局長のある1日のスケジュールをこっそり見せてもらった。

月の残業は200時間弱。管理職なので当然、残業代はつかない。

ある職員はこう漏らす。

Bさん
「用件があっても局長がつかまるのは、ようやく夜になってから。新型コロナで案件が膨大にあるため、時間を確保してもらうことさえなかなか難しい」

この日も、省内の協議や報告に対応するため、合間を縫って確保できたのは、およそ3時間。

最近ではワクチンの接種体制の整備や、抗体カクテル療法の投与対象の拡大などの政策を打ち出している。

一方で、肝心の人出はなかなか減らず、都内の繁華街では夜間の滞留人口が、むしろ増加に転じている。

声が届いている兆しは見えない。

局長に聞いてみた

厚生労働省 正林督章 健康局長

正林局長に聞いた。

Q:宣言の効果が、なかなか見えません。

正林局長
「これまで何度も緊急事態宣言を発して国民の皆さまに自粛をお願いしてきて、今までは、少し我慢しようかという気持ちがあったと思うのですが。さすがに1年以上やってきて多くの国民はずっと抑制されることについて反発もあると思いますし、もういいかげんにしてくれという思いもあるかと思います」

Q:感染はいっこうに収まらず、人出も減っていません。

正林局長
「今はワクチンが最大の武器ですので、できるだけ多くの方に接種していただくことに全力を傾けています。10月から11月にかけて、希望する方に、だいたい接種が終わるので、そのころになると、かなり今とは様相が変わってくるのではないかと考えています。
ただ、これまでに経験したことのないスピードで感染が拡大しています。今の感染のスピードがずっと続くと、病床が不足して、本当に普通だったら助かる命が助からなくなる、そんな状態も危惧されます。それなのに危機感が国民に響いていない。どうしたらいいのか。悩ましいです。なんとか国民の命を守るために、職員もほぼ不眠不休で、いろんな対策を考えたり、対策を講じたりしています。しかし、我々の危機意識が国民と共有できないことについてのジレンマとか、つらさを感じることがあります。最後は国民のご協力がないと、いくら政府が対策を打っても、うまくいかないんです」

Q:どうしたら国民と危機感を共有できるのでしょうか。

正林局長
「(しばし考え込んだうえで)どうすればいいのでしょうか…」

そして、局長は再び考え込んだうえで、こう語り始めた。

厚生労働省 正林督章 健康局長

正林督章 健康局長
「私はどこまで想像力を働かせることができるかが大事かと思います。まず自分の一番大事な人を想像していただいて、それは、奥さまであったり、ご主人であったり、あるいはご両親であったりお子さんであったり、大事な友人であったり恋人であったり。その方が感染し、重症化し、場合によってはお亡くなりになる、そういうことを想像していただけたらと思います。きちんとマスクをする、手洗いをする、それから飲食店に行ってもマスク会食をする、お酒を飲んで大声で騒いでしまうことなどを避けていただく。人混みに行かない。もっとも大事な方が感染しないようにということを想像しながら、みずからの感染対策をしっかりとっていただく。これが大事なんだということを、ぜひ多くの国民と共有できたらと思っています」

局長も、妻や娘、息子のことを思い浮かべながら、話していたのだろうか。

災害とも言われる“第5波”。まさに災害と同様、「自分の身は自分で守る」ことも大事なのかもしれない。

感染を抑え込もうと、もがく官僚たち。
局長は、インタビューのあと、若い世代の声を直接聞いて回りたいと口にしていた。

官僚たちの声はどうすれば、みなさんの心に響くと思いますか。
ご意見お待ちしています。

霞が関のリアル取材班 社会部記者 杉田沙智代
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