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今どき官僚もテレワークですが…

新型コロナウイルス対策として、各企業で進められている「出勤者の7割削減」。

「実現はなかなか難しい」と嘆く声。霞が関からも聞こえてきます。(霞が関のリアル取材班 杉田沙智代 中村雄一郎)

青空の下、大臣記者会見

春の穏やかな陽気となった今月7日、青空のもと、小泉環境大臣の定例記者会見が開かれました。

内容は、政府の『緊急事態宣言』にあわせた環境省の対応について。小泉環境大臣の背後には、桜の花びらが1つ、2つと、舞い散りました。

国会外の広場で会見が行われたのは、いわゆる“3密”を防ぐためです。

“ソーシャルディスタンシング”も実践すべく、大臣と記者との間は2メートル以上の距離が保たれました。

環境省幹部:

「会見は減らすわけにはいかないと思っていたら、大臣から『外ではできないの?』という意見がありまして。この青空での大臣会見は他省庁からやり方について問い合わせがありましたね」

庁舎の窓は全開

庁舎内でも対策がとられていました。室内ではこまめな換気が鉄則とされていて、多くの窓が開けられていました。

しかし、この日(4月16日)の外の最高気温は12度ほど。

おまけに、この部屋は26階という建物の最上階に位置しており、とにかく寒い。職員の中には、コートを着たり、ストールを巻いたりする人の姿も見受けられました。

環境省職員

「窓に近いので、寒くて逆にかぜをひいちゃうのではないかと思うこともあります。でも、コロナ対策だから仕方がないですよね」

手ごわいのがテレワーク

霞が関で、あの手この手で進められる新型コロナウイルス対策。

すでに内閣府、金融庁、国土交通省、経済産業省などで感染者が出ているだけに危機感があります。

ただし、「テレワーク」については苦戦しているようです。

現在、人との「8割の接触削減」を実現させるため、最低、出勤者を「7割削減」するよう求められていますが、これは、不夜城と称される霞が関も例外とされていません。

政府も「できれば7割以上を目指して取り組む」としていますが、現場の職員たちに実情を聞いてみると、こんな声が聞かれました。

30代・財務省職員:

「仕事の半分はテレワークになりました。今のところ問題はありません」


40代・国交省職員:

「2チームの交代シフトでやっているが、職員に発熱者が出るとバックアップのために出なければならず、すでに連日出勤しています」


30代・文科省職員:

「自宅にWi-Fiがない人には貸し出しをしてくれました。ありがたいかぎりです。それに通勤時間の減少により、睡眠時間も大幅に増えました」

各省庁に今月中旬の段階で問い合わせたところ、環境省や経済産業省は7割の目標を達成。

しかし、ほかの省庁は7割に達していないところや、実績をまとめていないところも。中には、「頑張れるだけ頑張る」といった回答もありました。

こうした事態、想定していた?

そもそも霞が関では、多くの職員が出勤できない事態を想定していたのか?

そこで、各省庁のBCP(=事業継続計画)を調べてみました。

これらは11年前の新型インフルエンザの世界的流行を教訓に感染症を想定して、作られたものです。計画をみると、想定していた職員の欠勤率は4割でした。

経済産業省のBCP

今回、新型コロナウイルスで求められているのは7割削減と大幅に上回ります。

また、各省庁のBCPを見ると、必ずしもテレワークに重点を置いていなかったことがうかがえます。

例えば、外務省のBCPには「スプリット・チーム制」「時差出勤」などの文言はありますが、テレワークへの言及はありませんでした。

ただ、多くの民間企業でも、今回初めてテレワークを導入しています。想定を超えたことが、テレワークが進まない直接の理由にはならない気もします。

理由1・ぜい弱なオンライン環境

各省庁のシステムでは、何が壁になっているのでしょうか?

決裁があるから?とも思いましたが、今は電子決裁なので自宅でも可能とのこと。

取材すると、多くの職員が口にした理由が、ぜい弱なオンライン環境です。

国土交通省の場合、テレワークの時、利用できる共有のIDは500個しかない一方、職員は6万人います。

30代の職員は自嘲気味にこう語りました。 「早起きして、まるでイス取りゲームです。急にこのような事態になったので、仕方がない部分もありますが。LINE電話とかのほうが早い気がします」

自宅でテレワークをする環境省職員

また、テレワーク中の環境省職員に、その様子を送ってもらうと、使っているテレビ会議のシステムは「Webex」と呼ばれるものです。

一方で、経済産業省や厚生労働省では「Skype」、外務省では「Teams」などが使われているようです。

このように各省庁で、使われているシステムはバラバラで、省庁間の調整が在宅では難しいと感じる事情もあるようです。

50代・環境省職員:

「これから予算要求も始まります。結局、このままだと多くの職員が登庁しないといけなくなるのではないでしょうか。そうなると、“出勤7割減”の目標はとてもではないですが、無理ですね」

理由2・国会議員への対応

さらに、現場の職員を取材すると「国会対応」という理由が上がりました。

国土交通省の50代職員に聞くと「在宅で国会対応するのは無理でしょう」という答えが返ってきました。

「前日や前々日に質問する議員への説明や質問取り。そこから答弁作成して、局長や大臣の修正を踏まえて答弁書の印刷などを行います。各省との調整や過去の資料・答弁との整合をはかったり、毎日徹夜に近い作業ですから、在宅では難しいかと」

テレワーク中に国会議員に説明を求められて急きょ出勤したケースもあるとのこと。やはり国会対応は対面じゃないと無理なのかと思っていたところ、なんと最近、環境省の職員が国会議員に対し、ウェブ会議でレクの対応をしたというケースがあったそうです。

早速話を聞いてみました。

30代・環境省職員:

「感染拡大のため、環境省では原則対面禁止となっています。さらにレク要求を受けた担当課はみんなテレワークをしていました。そうした中で、国会議員側からウェブ会議ができないかと提案がありました。音声テストなどが大変でしたが実際にやってみたら、意外にできるなと。もっと状況が改善されて、活用が進めばいいなと思いますね」

霞が関だけの課題ではない

霞が関でテレワークを進めていくためにはどうすればいいのでしょうか?

民間企業で働いた経験がある官僚は「得意先」ということばを使って、新型コロナウイルスにより霞が関も国会議員も今後は変わらざるをえないと指摘しました。

「得意先を抱える仕事をしていれば、民間企業であれ霞が関であれ、在宅勤務を自分たちだけで進めることはできません。霞が関にとっての得意先は国会議員ですので、その理解と協力が前提になります。もちろん、国会運営がすぐに変わるのは難しいと思いますが、新型コロナウイルスの状況を見れば、検討せざるをえない状況になるのではと思います。今回を機に、国会対応などさまざまな面で変わる必要があると思います」

霞が関は新型コロナウイルスとの闘いのさなかです。

しかし、それにより働き方はもとより、国会との関係にも変化が生まれるかもしれません。私たちは今後も取材を続けたいと思います。

社会部 杉田沙智代
社会部 中村雄一郎
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