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霞が関文学って何??

霞が関で取材していると、官僚の皆さん、たまに耳慣れないことばを口にします。「お経」? ここはお寺ではないのですが…。「デマケ」?? 「呼び込み」?? これらの単語、皆さん、どんな意味だと思いますか? 私(省庁担当3年目)が取材してみました。(霞が関のリアル取材班記者 杉田沙智代)

霞ヶ関文学とは

「お会いした記憶はございません」「覚えておりませんので、ちょっとこれ以上のことは申し上げようがございません」(平成29年7月24日 衆議院予算委員会)

これは加計学園の獣医学部新設をめぐって、柳瀬唯夫元総理大臣秘書官が国会で行った答弁です。この時、柳瀬氏は、平成27年4月2日に愛媛県などの担当者と、官邸で面会したかどうかについて野党から追及されました。結局、愛媛県側が面会記録を公表したこともあり、後日、柳瀬氏は面会の事実を認めたわけですが、「優秀なはずの官僚がなぜこんな言い方をするのか」と憤った人たちも多かったと思います。

私(省庁担当3年目)が取材

私も霞が関を取材していて、「なんで」と首をひねることがしばしばです。「検討します」「達成に向かって邁進(まいしん)します」と言ったのに、何もやらないのはなぜ?とか…。

そこで、元財務省官僚で、明治大学の田中秀明教授に聞いてみました。すると、田中さんはこう言いました。

「それが『霞が関文学』ですよ。『検討します』『前向きに対応します』などというのは、検討はするけど、具体的な対応はしないという意味で使われる時が多いですね」

『霞が関文学』…、『霞が関話法』という場合もあるそうですが、田中さんによると、「言質をとられない言い方、柔軟な解釈が可能で、後々逃げることができるようなあいまいな話法や文章。官僚が省益を守るためや、リスクを回避するために、さらには政治家に抵抗する際などに使われることが多い」ということです。私が経済学部出身だから分からなかったわけではなさそうです。

霞が関文学だけでなく、隠語も!!

刑事ドラマで聞いたことがある「ガサ」(捜索)とか、「ワッパ」(手錠)などの単語。秘密を保持するため、部外者に意味が伝わりにくくするため使われる隠語ですよね。霞が関には、さきほどの『霞が関文学』だけでなく、さまざまな隠語も存在しました。

「あの発表、シャビーだったでしょ」

ある日の記者会見に出たあと、官僚にささやかれたことばです。「シャビーって…何?」と戸惑う私。聞き返してみると、「しょぼいってことだよ」と一言。

シャビーは、英語の「shabby」に由来しているとのこと。内容が充実していない、または優先順位が低い業務を意味することばだとのことです。

「俺も上司に言われたことある」。別の官僚もちょっと苦々しい表情で言いました。

「上司に政策の提案を持っていったら、『何シャビーなもの出してきてるんだよ。もっとぱっとしてよ』と言われた。どう直していいかわからず、また後日、同じ資料を持って行ったら再び怒られた」(官僚談)

ただし、この「シャビー」という隠語。官僚だからといって、みんなが知っているわけではなさそうです。試しに知り合いの国交省の40代の職員に聞いてみると、「名古屋で薄いみそ汁を『このみそ汁しゃびしゃびだがー』と言うので、その変化形かと思った」という回答でした…。

霞が関の隠語、実は省庁別にたくさんあった!

霞が関の隠語。調べてみるとすごい!省庁によっては「用語集」まで作られていました。

例えば環境省の「役人用語集」。「機密性2」と仰々しく書かれたこの冊子、ア行からワ行まで、全部で30ページにもわたっています。

こうした用語集、環境省では、新人官僚の研修時などに配られるそうです。同様の用語集は厚労省、国交省、外務省などにもありました。これらの冊子から、いくつかの役人用語を紹介すると…。

隠語の起源は、昔から…

それにしても、そもそも隠語ってなぜ作られたのでしょうか?日本語の起源に詳しい、慶應義塾大学の木村義之教授のもとを訪ねました。

木村教授によると、文献上その起源は905年、なんと平安時代にまでさかのぼるといいます。

「隠語の根本は、『何かをかくすこと』なので、ストレートに言いたくないことを遠回しに言うことが、意識の源にあります。文献上の古い隠語の例としては伊勢の斎宮で使われたとされる「斎宮忌詞」(さいぐういみことば)です。905年の『延喜式』で、『血』を『あせ』などとすることばが使用されていたのが知られています」

では、霞が関でしか使われない隠語が生まれた理由とは?木村教授に再び聞いてみると、そのいきさつをこう推測しました。

「組織内で結束しながら行動する時は、隠す必要、効率よく使う必要があります。それらを使うことで、専門家意識が生まれ、同僚意識・仲間意識を高めることにもつながります。一方、部外者を前に閉じた世界のことばを使うことで、ある種の優越感にもつながりますね」

政治家と是々非々でやり合うため、また、霞が関への帰属意識を高めるためと言われると、こうした隠語を使う理由自体は何となく理解できる気がします。

「霞が関文学」が政治にも

霞が関文学や隠語の数々。その成り立ちを取材していると、その必然性もある気がしてきました。そう思っていたやさき、ちょっと気になることを口にした専門家がいました。

多摩大学大学院の田坂広志名誉教授です。2011年4月から半年間、内閣官房参与を務め、霞が関の内幕を知る人物です。

田坂さんによると、最近、霞が関文学などは官僚にとどまらず、政治家の間にも広まっているというのです。

確かに、国会での総理や大臣の答弁は官僚が準備していますし…。田坂名誉教授は「そうした外形的なこともあるけど、もっと両者の関係性の変化が大きいのでは」と指摘しました。

「霞が関文学は、かつては、ある意味で政治主導への抵抗の表れでもありました。しかし、今は官僚は忖度(そんたく)のため、政治家は保身のため、国会答弁などで『霞が関文学』を駆使するようになりました。その意味で、今や『霞が関文学』は『永田町文学』であり、『予算委員会文学』となっていますね」(田坂名誉教授)

なるほど。どこの業界だって、そこだけで通用する話法や隠語はあると思います。ただし、霞が関や国会には、モリカケ問題や日報問題など、相次いだ不祥事のあと、透明性や説明責任が求められているなか、こうした内輪だけが理解できる“文学”が広くまかり通るようだと違和感を覚えます。皆さんはどう思いますか?どうぞ、こちらまで、ご意見などをお寄せください。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/

解答

1:最重点政策や最重要課題のこと。
2:政治家が絡む案件。
3:デマケ-ションの略。省庁間の役割分担や権限関係の線引きのこと。
4:法案審議に入る前に、大臣が読み上げる法案の提案理由のこと。あらかじめ作成された説明内容を淡々と読み上げ、僧侶が読み上げるお経に似ていることから来ていると言われている。
5:任務を終えた者に質問することによって、報告を得ること。
6:上司や議員にあらかじめアバウトに情報を耳に入れておくこと。
7:サブスタンスの略。政策などの中身のこと。
8:幹部などへのアポの時間が決まっているものの、前の案件が長引いたりして時間通り始まるかわからない場合に、都合がよくなった時点で呼び出してもらうこと。
9:国会提出された法案について本会議で趣旨説明要求がかかっているため委員会に付託されない状態のこと。法案の審議入りを阻止する国会対策上の戦略として用いられる。
10:mandate(=権限)のこと。

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