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官僚女子もつらい!

結婚したい、子どもも欲しい、仕事も続けたいー。漠然とつきまとう不安。働く女性たちが抱える悩み、官僚も例外でないようです。(「霞が関のリアル」取材班記者 荒川真帆)

女子の悩みは官僚も一緒

「霞が関のリアル」取材班には、女性の現役官僚や元官僚からも多くの投稿が寄せられています。そんな皆さんが必ず口にすることがありました。

「結婚して家庭を持てるか不安…」(20代女性)
「ママになると暇ポスト多い…」(30代女性)
「子育て支援制度はあるのに、使えない」(30代女性)
取材している私自身も30代です

つまり、女性官僚として働き続けることの難しさです。同じ女性として他人ごとには思えません…

でも一体、何が壁になっているのでしょうか。

制度あるのに、使えない!

まず、最も多いのが子育てと仕事の両立です。

その1人、木下綾さん(仮名)(30代)。去年、悩んだ末にキャリア官僚を辞めました。理由を聞くと、少し悔しそうにこう言いました。

「子どもが1歳になり育休から復帰したのですが、1か月でもうダメだと思いました。子育ての支援制度はあるのに、実際にはとても使える状況ではなかったんです」

これはどういうことでしょうか?

支援の制度はたくさん!

実は霞が関、育児や介護と仕事を両立するための支援制度はかなり充実しています。育休は3年まで取れるほか、男性の“産休”や、フレックスタイム制も何年も前から整備され、民間と比べても進んでいます。

木下さんが復帰したのは国会業務や制度改正も抱える部署。仕事の内容や帰宅時間などあらかじめ上司に相談したうえ、「育児時間」という制度を申請しました。

1日の正規の勤務時間(=7時間45分)のうち、2時間を上限に勤務を減らせる仕組みです。木下さんもこの制度を利用すれば、早めに仕事を切り上げ、午後6時には子どもを保育園に迎えに行くことができると考えていたそうです。しかし、実際はうまくいきませんでした。

「とにかく帰れませんでした。自分の仕事を他の人に代わってもらえず、とても帰れる雰囲気ではなかった。夫も単身赴任なので、仕方なく離れて暮らす母に無理を言って代わりにお迎えにいってもらうことが頻繁にありました」

何とか迎えには行くことはできても、仕事はほぼ自宅に持ち帰っていたという木下さん。子どもの食事、お風呂を済ませて寝かしつけたあと、再び職場に戻った夜もあったといいます。

子どもが熱を出した朝。休みにしようと連絡すると、応対した同僚から「課長も自分も○○の対応がある。木下さんがこなければ△△のレクは誰がやるんですか?」という返答が。やむなくまた母を頼って子どもを預け、仕事に出たといいます。

「深夜2時に部下から問い合わせがくることもありました。体もきついし、精神的にも追われている感じがして。何より子どもに対してイライラが募ってしまっていると気付いた時、これは悪循環だと感じました。もうこの職場にはいられないなと思い、退職という選択をしました」

聞いていて、やるせない思いが募りました。立派な制度だって、それが使えなければ意味がないじゃないかと。

そこで、人事院にこの「育児時間」を利用した女性職員の割合はどの程度なのか取材しましたが、「取得率までは調査していない」とのことでした。

また、自宅で仕事ができる「テレワーク」制度もありますが木下さんによると、申請をしても「前例がない」などと実際には認められなかった同僚もいたということです。

官僚を辞めた木下さん。働きながら子育てができる環境を求めて転職した先は、地方自治体の公務員でした。最後に、木下さんはこう訴えました。

「霞が関では、深夜まで働くことができなければ戦力ではないと見なされ、小さな子どもを抱えていても出産前と遜色ない働き方をしなければいけないと当事者に思わせてしまう。今、女性職員の採用を増やしていますが、中身が変わらなければ何の意味もなさないと思います」

『女性活躍』掲げるけれど…

確かに木下さんがいうように国家公務員の女性採用は年々増加しています。女性の働き方をどう改善するかは民間でも大きな課題となっていますが、それは旗振り役であるはずの霞が関では、その問題がいっそう浮き彫りとなっています。

本省の課長・室長相当の管理職のうち、女性が占める割合は4.9%。これでも10年間で2倍以上に増えたそうですが、民間ではその割合は10.9%。倍近く、開きがあります。

各省別にみても、消費者庁は16.1%、文科省は11.7%などと民間を上回るところがある一方で国交省は1.5%、総務省は1.8%など低いままのところも。組織によってずいぶん事情が異なるようです。

専門家はどうみる

こうした現状をどう見るか。3年前、霞が関の働き方改革について提言を行った「ワーク・ライフバランス社」の社長・小室淑恵さんを訪ねました。

この時の担当大臣だった今の河野外相は、「霞が関の働き方が変わったぞ、と言われるように責任を持ってやっていきたい」とかなり前向きな発言をしたそうですが、その後、好転の兆しは見られますか?と尋ねました。

小室淑恵さん
「管理職に部下の労働時間を管理する意識がうまれたり、若手から働き方改善に取り組む動きが出てきたりと、少しずつ変化は出てきています。でも、以前は『ものすごく異常』な働き方が『異常』になったくらいで、全くぬるい。まだまだです!」

「なぜ霞が関は変わらないのか」と聞くと…

「まず『永田町』との関係が大きな壁ですね」
「国会質問が23時過ぎに出てきたり、遅い時間に様々なレクが入ったりと、深夜の時間帯の国会対応がこなせる人材かどうかが女性にとって踏み絵になってしまっていますね。結婚して子どもができても、子どもを産む前と同じくらい働くことができなければ戦力外にみなされてしまう。暇なポスト、いわゆる『ママキャリア』の枠に入れられてしまいます。昇進できるのは結果的に国会・深夜業務ができる人に限られてくる。そうすると、『ロールモデル』とされる人も出づらくなっているのではないでしょうか」

代行不能な『仕事の属人化』

さらに、小室さんは別の「壁」の存在も指摘しました。

「霞が関の官僚は仕事が『属人化』している場合が多いです。1人で情報や仕事を抱え込み、結果的にほかの人では代行がきかず仕事を手放せない。子どものお迎えなどで早く仕事を切り上げようとしても、じゃあそれ誰がやるの、あなたしかやれないよねということになってしまう。他にも、アナログ文化や非効率業務が多いなど様々な要因が絡み合っていますが、支援制度があっても使えないというのはそういうことではないでしょうか」

確かに、先の木下さんのケースでも、仕事の属人化が仕事を減らせない一因となっていました。もちろんこれを専門性だと言う人もいるかもしれませんが。

では、どうしたらいいのでしょうか。小室さんはこう提言しました。

「仕事の属人化を極力やめて、情報を見える化、共有化するなど、特定の人だけができる仕事にしないことが大事です。そうすればチームとして仕事が回せるようになり、短時間勤務の人もしっかり能力を発揮できます。そのためにクラウド化やITツールを入れるなどハード面の整備も重要だと思います」

そして、最後に小室さんが指摘したこの言葉こそ問題の本質だと思いました。

「ママ職員だけを早く帰れるようにしても必ず失敗します。その分、残業ができる人に仕事がどんどん回って負担の付け替えになるだけ。子どものいる女性だけでなく、男性も含めて組織全体を見渡し何が長時間労働の原因なのか、意識だけでない『構造』に本気で目を向ける必要があります

子どもはいないのですが… 言い出せない悩み

もう1人、別の女性官僚を紹介します。文部科学省に勤務する40代の女性官僚。今は補佐級職員です。

「私の話が参考になれば…」と取材に応じてくれました

「子どもがいない女性こそ、なかなか言い出せないこともある」と話します。実は彼女、普段の取材から付き合いがある方でした。いつも朗らかな笑顔で、教育への思いも熱い素敵な女性です。

「今まで何に悩んできたか、聞かせてほしい」と頼み、喫茶店で待ち合わせると、これまでの「悩み」をメモにまとめてくれていました。それを見て、返す言葉を失ってしまいました。

実際に用意してくれたメモ
「36歳。(地方)出向の打診。
結婚もしたかったが、大事な機会。行くしかない」
「39歳。(結婚)流産、ショック引きずる。
半年後に不妊治療を始める」
「40歳。不安なままずっと。
仕事にブレーキかけるが、やる気の欠けた人と思われる」

そこには、普段の彼女からは想像できない思いが淡々とつづられてました。それについて思い切って聞いてみました。

「30代前半はプライベートは何も考えられないくらいの忙しさでした。やりがいがあったし本当に面白いのですが、35歳の時、結婚の予定もないのに産婦人科で色んな検査を受けたら結果が悪くて。体に無理がかかっているんだと、仕事や自分自身を恨んだこともありました。仕事にかけたい気持ちもある一方で、どこまで自分を守ったらいいのか、とにかく葛藤してきました…」

2年前に結婚したあと、「どうしても子どもがほしい」と思い、上司や周囲にも相談し、不妊治療に通いました。

念願かなってついに…

仕事の調整は難しいことも多々ありましたが、この春、妊娠がかないました。喜びの一方で、複雑な表情を浮かべた彼女は、こんな風にも話してくれました。

「実は不妊治療を隠している女性も結構います。でも夜中の2時まで働いていたり、治療が叶わなかったりする人もいます。様々な理由で中絶した人もいます。『周りは頑張ってるのに自分のことで迷惑かけるのは申し訳ない』『なまけてると思われたくない』とか、罪悪感や後ろめたさを抱えている人が少なくないんです。霞が関の働き方は簡単には改善されないかもしれないけど、子どもがいなくても複雑な気持ちを抱えている女性がいることを少しでも理解してほしい。当事者の女性たちには、思い切って周囲に話してみてほしいです。意外と周りに協力してくれる人はいますから」

取材中、女性官僚たちの発する言葉は、そのまま自分にも突き刺さるようで、何度も、メモする手が止まりました。

「バリキャリ」などという言葉もありますが、働く女性が結婚や出産などに悩みを抱えるのは、官僚の女性も全く同じだと感じます。

みなさんは霞が関の女性の働き方、どう思いますか。民間企業で働く方も歓迎いたします。あなたの経験やご意見をぜひお聞かせ下さい。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kasumigaseki/

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