証言 当事者たちの声そして娘は命を絶った ~“暗号資産”めぐる事件の果てに

2022年8月25日社会 事件

遺影には、ほのかの大学の卒業式の写真を使いました。

社会人になったばかりの22歳。

150万円を借りてまで暗号資産の運用をうたう投資に手を出したのは、同級生からのSNSがきっかけでした。

遺書の最後は、こう締めくくられていました。

「服とかは売ってね。多少のお金にしかならんかもやけど」

グループの一部は摘発され、有罪判決を受けました。
娘のようにつらい思いをする人が1人でも減ってほしいと、被害救済の団体設立に協力した母親が思いを語ってくれました。

(社会部記者 倉岡洋平)

社会人1年目の娘に異変

亡くなる直前に友人と旅行に

ほのかの様子がおかしいことに気づいたのは、2020年の9月に入ってからでした。

元気がなく、「どうしたん?」と聞いても返事はありません。

15日を過ぎたころ、ようやく意を決したように打ち明けてくれました。

「×××というグループに150万円を投資したけどお金が返ってこない。だまされた」

詳しく話を聞くと、投資トラブルに巻き込まれていたことがわかりました。

大学の同級生を通じて投資に勧誘され、消費者金融に借金をして150万円を渡してしまった。
返金を求めたが断られ、消費生活センターに相談したけどだめだった。

その後、部屋でずっとうつむいて過ごすようになったほのかは、9月下旬に心療内科を受診し、「うつ病」と診断されます。

既読にならなかったLINE

夫と離婚し、1人でほのかを育ててきた私にとって150万円は、簡単に返せるお金ではありませんでした。

金策のために親族を頼ったり、銀行に相談したりしていましたが、ほのかの状況はよくありません。

これ以上思い悩ませては危険だと感じ、会社を休んで友だちと旅行に行くように伝えました。

そして九州に旅行に行き、帰ってきた翌日の10月1日でした。

仕事を終えて帰宅すると、ほのかの姿がありません。

母親が送ったメッセージ

「今帰ってきたわ」 「どこ行ってるん?」

LINEでメッセージを送っても、既読にならないまま。

友人たちに聞いても、誰も居場所を知りません。

最悪の想像が頭をよぎり、警察に届け出ました。

そして午前0時すぎ、警察から連絡が入りました。

「娘さんが見つかりました。ホテルの部屋で亡くなっています」

遺書につづられた言葉

母親に宛てた遺書

ほのかは私や友人、勤務先などに宛てて、5通の遺書を残していました。

まじめな性格を示すようにそれぞれしっかりと書かれています。

感謝の言葉から始まった私宛ての遺書には、投資トラブルの件がつづられていました。

お母さんへ

22年間、ずっと私を育ててくれてありがとう。

この22年間、生きていて大変なことが沢山あったけどとても楽しかったです。

今回の投資詐欺の件で沢山迷惑をかけ、心配をかけてしまって本当にごめんなさい。

昔から人一倍考え込みやすい性格だったので、「そんなことで悩む?」というようなことでもよく悩んで心配させていたと思います。

こんなくよくよした娘のことを大切に想ってくれて本当にありがとう。

奨学金は保証人になってもらっているのに、その支払いも終わっていないままこんなことになってごめんね。

最後まで迷惑をかけ続けていなくなってしまう親不孝な娘でごめんね。

そして、最後はこう結ばれていました。

「服とかは売ってね。多少のお金にしかならんかもやけど」

消えない後悔

ほのかさんの母親

時折涙ぐみながら、亡くなったときの状況を語ってくれたほのかさんの母親。

当時のことを後悔し続けているといいます。

ほのかさんの母親
「娘が亡くなる前にもっと早く警察に相談すればよかったとか、相手に返金を求めるときに自分も一緒に行ってたらこんなことにはならなかったのかなとか、できたことがたくさんあったのにとすごく後悔しています」

ほのかさんが2歳のときに両親は離婚。

父親から養育費がほとんど払われないなかで、母親は女手一つでほのかさんを育ててきました。

しかし体調を崩して仕事を休むことも多く、月収が7万円だったことも。

ほのかさんはそんな母の苦労を見て育ったといいます。

社会人となり、まもなく自身の奨学金400万円の返済も始まる予定でした。

母親は投資が自己責任である以上、借金までして出資した娘にも責任はあると考えています。

ただ決して裕福ではなかった家庭環境のなかで少しでもお金を得たいという気持ちがあり、そこにつけ込まれたのかもしれないと話しました。

ほのかさんの母親
「皆さんからしたら『150万円くらい』って思われるかもしれませんが、うちにとっては大金です。奨学金の返済を抱えて、私からは『結婚資金も貯めなさい』と言われてプレッシャーも感じていたのかもしれません」

きっかけは友人のSNS

「娘はなぜ死ななければならなかったのか」

母親は手がかりを求めて、ほのかさんのスマートフォンやノートを調べました。

のちに弁護士にも協力を依頼し、それらを分析したり友人に話を聞いたりするなかで、投資案件の内容や経緯がわかってきたといいます。

ほのかさんが出資するきっかけになったのは、大学の同級生だった友人のインスタグラムを見たことでした。

それは「投資に興味がある人?」というアンケートで、ほのかさんが興味を示すとその同級生から“高校の同級生”だという男を紹介されます。

投資先とされたのは、海外に拠点を置いているという会社で、「AIを駆使して暗号資産を運用するので、投資すれば多額の配当が出る」とうたっていた事業です。

ほのかさんのノートには、市場で安く買った暗号資産をほかの市場で高く売って利益を出す「アービトラージ(裁定取引)」など、専門的な用語が書かれていて、言葉巧みに引き込まれていった様子がうかがえます。

ほのかさんは「マルチ(商法)ですか?」と疑っていましたが、男はそれを否定したうえ、考える時間を与えないかのように現金を早く用意するよう迫っていました。

貯金のなかったほのかさんは、「引っ越しの代金という理由にすれば消費者金融で借りられる」と指示され、1日で3社から50万ずつ借りて男に渡してしまったのです。

同級生に男を紹介されてわずか4日後でした。

ほのかさんの母親
「娘は完全な情報弱者で投資のこともまったくわからなかったと思いますが、会社を経営されている方なども同じ被害を訴えています。自己責任だけで片づけられる問題ではないとも感じるので、勧誘した側にはきちんと責任をとってほしい」

ほのかさんが亡くなってからおよそ1年後。

警視庁がグループの強制捜査に乗り出しました。

国に無登録で投資を募ったとして金融商品取引法違反の疑いで50代のメンバーらを逮捕。

調べによりますと、各地でセミナーを開くなどしてさまざまな世代を勧誘していたものの、途中で配当が滞るようになったということです。

その後、このメンバーは執行猶予付きの有罪判決を受けました。

出資を募り、グループが集めた金額は全国で650億円にのぼるとみられています。

一方、ほのかさんを勧誘した20代の男も刑事告発され、金融商品取引法違反の罪で略式起訴されました。

若者からの相談急増 背景に何が

暗号資産に合法的に投資をすること自体は問題ありません。

一方で、国民生活センターによりますと、暗号資産や情報商材など具体的な商品のない儲け話を「人に紹介すればさらに儲かる」などとうたう「モノなしマルチ商法」に関する被害相談は、2021年度は4700件余り寄せられています。

このうち29歳以下は2723件と全体のおよそ58%を占め、4年前に比べておよそ25ポイント増加しているのです。

なぜ若者からの相談が相次いでいるのか。

若者の行動や金融リテラシーに詳しい専門家は、社会で経済的な不安感が広がるなか、値動きの激しい暗号資産の運用をアピールすることで関心を持つ人が増えているのではないかと指摘しています。

成蹊大学 高橋暁子客員教授
「年収は頭打ち状態で、多くの人が将来に対し経済的な不安を抱いているなかで、暗号資産に投資して儲かったとか、億単位の資産を築いた“億り人”が出たという話を聞く機会は多くあります。『暗号資産なら値動きの大きさから一獲千金も可能かもしれない』と潜在的に刷り込まれ、悪質なグループにつけ込まれているのではないでしょうか」

高橋暁子 客員教授

そしてSNSもその状況に拍車をかけていると警鐘を鳴らします。

成蹊大学 高橋暁子客員教授
「SNSの投稿で『儲かっている』とか『いい生活をしている』といった内容を写真付きで投稿している人もいる。同じような投稿ばかりに囲まれると、それが当たり前だと思い込んでしまう『エコーチェンバー現象』が利用されている可能性がある。若者はSNSのやりとりに抵抗感がないため、投資を持ちかける側からすればターゲットにしやすいという側面はあると思います」

被害救済へ団体立ち上げ ほのかさんの母親も協力

どうすれば被害を防げるのか。

投資グループの中には“自転車操業”の状態に陥り、検挙されたときには被害者に返す資金が残っていないケースも少なくありません。

そこでことし7月、ほのかさんの母親も協力して弁護士などが新たな団体を発足させました。

団体では、違法性が疑われるケースについては検挙前の段階でグループの財産を差し押さえたり、資産の凍結を命じたりできる新たな制度の創設などを国に求めることにしています。

団体の顧問 杉山雅浩 弁護士

杉山雅浩弁護士
「お金をとられた人たちのほとんどが泣き寝入りの状態になっている。今の制度では出資したお金を回収する方法が限られている。詐欺などの犯罪行為で得た収益をはきださせるため、口座などを調べてすべて差し押さえ、出資者に分配するなどの制度を設けるべきです」

取材後記

記者(左)とほのかさんの母親(右)

「自分も知識がなかったので娘に教えたくても教えてあげられなかった」

ほのかさんの母親は何度も“悔しい”と繰り返していました。

私(記者)が暗号資産を含む様々な投資トラブルの取材を始めて3年。

この間に成人年齢が18歳に引き下げられ、個人の金融資産については「貯蓄から投資へ」と呼びかけられています。

投資にはリスクが伴い、自己責任が生ずることには疑いはありません。

ほのかさんの死が社会に問いかけたものは何だったのか考え、これからも取材を続けていきたいと思います。

消費者トラブルの相談窓口

消費者トラブルに巻き込まれたり、契約に関して困ったりしたことがあれば、「消費者ホットライン」の「188」(いやや)にかけると最寄りの消費生活センターなどを案内してもらえます。

また、法律に関する問い合わせは「日本司法支援センター=法テラス」でも受け付けています。
連絡先は0570-078374(おなやみなし)です。
    

心の悩みに関する相談窓口

厚生労働省が示している、心の悩みに関する相談窓口です。

<電話の相談窓口>

「日本いのちの電話」
▽ナビダイヤル 0570-783-556
午前10時~午後10時
▽フリーダイヤル 0120-783-556
午後4時~午後9時
※毎月10日は午前8時~翌日午前8時

「#いのちSOS」
▽フリーダイヤル 0120-061-338
午前8時~深夜0時
※月曜日と木曜日のみ24時間対応

「チャイルドライン」
▽フリーダイヤル 0120-99-7777
午後4時~午後9時

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  • 社会部 記者 倉岡洋平 2010年入局 
    松江局・青森局・札幌局を経て2019年から社会部

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