証言 当事者たちの声中川翔子さん ひとりひとりに知ってほしいこと

2022年1月7日社会 事件 事故

「どうしたらいいのかわからないまま、何年も泣き寝入りしていました」

被害者支援について考えるイベントに参加したタレントの中川翔子さん。

ストーカーやインターネット上でのひぼう中傷に何年も悩まされてきました。

傷ついた被害者や、周りで救ってあげたいと考えている人たちに、いま伝えたいことがあるといいます。

「泣き寝入りするしかないと諦めてしまっていた」

犯罪被害者週間に合わせて12月1日に東京都内で開かれたイベント。

そこにタレントの中川翔子さんの姿がありました。

トークセッションで中川さんは、自分の身に起きたストーカー被害や、インターネットの掲示板に繰り返し書き込まれたひぼう中傷について打ち明けました。

中川翔子さん
これまでストーカーやひぼう中傷に突然巻き込まれ、本当にどうしていいのかわかりませんでした。誰に相談したらいいのかわからないまま、何年も悩みました。

ストーカーの件では、何度も何度も引っ越しをしてきて、その度にお金もものすごくかかり、精神的にも追い込まれました。でも「被害者は泣き寝入りなんだ」って諦めてしまっていました。

でも、警察に相談させていただいた時にすごく連携をとって迅速に動いてくださり「そこまでしてくださるんだ」と。相談の結果、監視カメラだったり、パトロールだったり、できることを提示してもらえました。

私自身は、誰かが少しでも相談する勇気を出す一歩になれば、という思いで話したことがありました。

「とにかく第一に被害者が守られて欲しい」

「被害者支援にどのようなイメージがありますか?」と聞かれた中川さん。
被害に遭った時に感じた思いを交えて答えました。

中川翔子さん
「被害者支援」という言葉があるということで、少しほっとしました。どうしても世の中の仕組み自体が、被害者はあまり守られず、加害者が守られて尊重される流れになってしまっているような気がしていました。

誰にでも犯罪被害者になってしまう可能性はあるので、具体的に被害者支援ってどこまでのことなのかやどんな支援があるのか是非知りたいです。

この日、中川さんの質問に答えていたのは、政府全体の被害者支援についての取りまとめを担当している警察庁教養厚生課の原田義久課長です。

犯罪被害は昨年(2020年)だと、殺人、強盗、暴行、傷害等のいわゆる刑法犯が60万件以上ありました。また刑法犯以外でも、交通事案、事故にあってけがをなさったり、命を落とされたりといった事案は30万件以上ありました。かなり多くの件数が発生しています

警察庁
教養厚生課
原田義久課長
中川翔子
さん

被害に遭った方は、具体的にはどんな問題に直面していくんですか?

まずは、犯罪そのものによって受ける被害、けがをするとか財産を奪われるといったものがあります。それから、精神的にショックを受け心身に不調をきたしたり、そのせいで職を失ったりということもあります

被害者は、自分の被害がクローズアップされたらという恐ろしさから相談ができなかったり、我慢したりということもあるかと思います。私自身も実際にそうでした。とにかく第一に被害者の方が守られて欲しいです

犯罪の被害に遭われた個人の尊厳を尊重しよう、また、ふさわしい扱いを受けられるように権利を保障しようという、被害者支援の基本理念を掲げている「犯罪被害者等基本法」という法律があります

ちゃんと被害者ひとりひとりと向き合って、救われるための道を提示してくれているんですね。被害を受けた直後の方は、そのことを知らず、パニックになることもあるかもしれないので、是非広く知られていって欲しいです

この法律では、どういう人がこの理念を実現するために責任を負っているのか、責務があるのかというのも定められています。ここで、中川さんにクイズなんですけど

クイズ?

「犯罪被害者等基本法」の中で、被害者支援について責務を負う責任があるとされているのは、次のうち誰でしょう

1番が国、2番が都道府県、3番が市区町村、4番が国民

すごく難しいですけど、やはり1番の「国」は、国民として安全を守っていただくためには、「国」に責務はあると思いますし、「都道府県」も「市区町村」も同じだと思います。4番の「国民」というのが・・・責務を負うっていうことになってくると、どうしてだろう?となります

国民が責務を負うっていうと、イメージしにくいかもしれませんが、みんなの問題だというのが根っこにあります。実際の被害者の方々が個人として尊重される、尊厳を守られるようにしていこうとすると、国民の方々の理解と協力は欠かせません

被害者の方の生活の平穏や名誉をちゃんと守ろうとか、行政や関係機関がやっている施策に協力しようという考えを持っていただけますと、支援がより力を持ったものになってくると思います

責務という言葉でちょっとびっくりもしたんですけど、ひとりひとりがちゃんと知ること、そして周りにいる大切な方が被害に遭った時にすぐに動けるように、皆さんがそれを知っておくことは、とても大事なことですね

おっしゃる通りです。ですので、正解は1から4まで全部ということになります

全部!斬新なクイズですね(笑)

被害者支援どんな取り組みがあるのか

このあと中川さんは具体的な支援の取り組みについて説明を受けました。

どのような被害者支援をやっているかの指針、道しるべとなる「第四次犯罪被害者等基本計画」というものがあります。これは具体的な支援のメニューにもなっています。この計画では重複も若干あるんですが、全部で279の施策を掲げています

警察庁
教養厚生課
原田義久課長
中川翔子
さん

そんなにも沢山の取り組みが?それは驚きです。私自身これまで被害に遭った中でも、何が該当するのか具体的にはわかりませんでした。被害によって支援も違うと思うんですけど、どんな支援があるんですか?

例えば「通り魔的な犯行で性犯罪被害にあった」ケースなどですと、性犯罪は被害に遭われた方が誰に相談したらいいかわからず、潜在化してしまうこともあります

そうしたものに対して警察では「性犯罪相談電話」というものを設けておりまして、全国共有で#8103「ハートさん」という番号で24時間無料でご相談いただける体制をとってます

警察はちょっとハードルが高いなということであれば、全都道府県でワンストップ支援センターというものを設けて、ひとまとめでお話をうかがう#8891「はやくワンストップ」というものを作ったりしているところです

他にも被害者の方からお話をうかがう時に性別とかも気になる方もいるでしょうから、ご希望の性別の捜査員によって対応させていただくなどもあります

こういった被害は、何度も状況を思い出して話さなきゃいけなかったり、知られたくなかったり、(被害者の負担が)大きいだろうと思います

24時間話せる、受け入れる体制があるんですね

被害者の方が救われるまでには時間もかかってしまうかもしれない、精神も削られるかもしれない。だけど被害者をこれ以上傷つけないようにっていう形があるということを知ることができて良かったです

トークショーでは、さらに「インターネットでひぼう中傷を受けた」という事例への対応として、

●警察職員や外部のカウンセリングを公費で負担してもらえる
●侮辱や名誉棄損等に該当する場合は検挙につなげていく
●発信者情報開示制度の運用
●削除要請

といった支援が受けられるという説明がありました。

中川さん自身も経験のあるインターネット上でのひぼう中傷。
具体的な支援の内容を聞いて、次のように話していました。

中川翔子さん
数年前まではインターネットは無法地帯で、言われる方が悪いくらいの感じだったり、「警察に相談するなんて大げさな」という空気でした。

でも、ちゃんと被害者が守られて当然という方向へと整備されているんですね。そういう情報が広がっていくことによって、被害者の方もすぐに相談する…それは勇気も伴うことなんですけど、相談しやすくなるために、すごく必要なことですよね。

実際には、支援の線引きや、受けた人のメンタルの許容量にもよると思うので、どこまで相談に乗っていただけるのかデリケートだとは思うんですけど、今後もインターネットはずっとある世界になっていくので、とても大事な情報だなと思います。

過去の自分にも教えてあげたかった

トークショーの最後に今回のイベントに参加をした感想を聞かれた中川さんは、犯罪被害者支援への理解が進んで欲しいと、こう呼びかけました。

中川翔子さん
犯罪が少しでも減って欲しいという願い、そして犯罪被害に巻き込まれることがない、安心して暮らせる世界になって欲しいというのは、誰しもの願いだと思います。

でも、実際に(被害が)起きてしまった時、混乱したり、ショックを受けたり、マイナスの感情に包まれたりしながら、それでも生きていかなきゃいけないという時があるかもしれません。こういった支援がちゃんとあり、時代によって受け入れも柔軟に拡大していっているということを知ることができ、過去の自分にも教えてあげたかったなと思います。

なるべく平和であってほしいですが、万が一大事な人が巻き込まれた時には、こういった支援があるよということは、皆さんにも是非広めていっていただければと思います。

ひとりひとり 知る必要がある

トークセッションのあと、中川さんは自身の経験を振り返りながら私たちの取材にこう答えてくれました。

中川翔子さん
これからの子どもたちは、大人以上にインターネットの海で泳ぎながら、インターネット上の言葉に触れて育っていくと思うんです。誰かを傷つけたら自分に何十倍にもなって返ってくる。インターネットで発信するということは、直接会ってない人やこの世界に放つことなんです。そこで誰かが傷つかないように、いったん…いや、何度か考えてから行動するということを気を付けてもらいたいなと思います。それは、自分のことを助けることにもなると思うので。

実際に犯罪被害に遭うのがどういうことなのか、日常の中では想像しづらいと思います。いざ直面すると、私自身もそうでしたが、たくさん悩みも出てくるし、どう心をコントロールしたら良いのかわかりませんでした。犯罪被害者の方を支援する状況があるということ、ひとりひとりが知る必要があるんじゃないかなと感じました。