判決の確定を受けた遺族の記者会見は1時間以上に及びました。
妻と幼い娘を亡くした松永拓也さんは、昼ごろに実刑判決が確定したとの連絡を受け、2人の仏壇に手を合わせて「確定して終わったよ、穏やかに天国で過ごしてね。私が命尽きたときに胸張って会えるようにするからね」と心の中で伝えたということです。
記者会見で松永さんが語った内容です。
2021年9月17日事故
判決の確定を受けた遺族の記者会見は1時間以上に及びました。
妻と幼い娘を亡くした松永拓也さんは、昼ごろに実刑判決が確定したとの連絡を受け、2人の仏壇に手を合わせて「確定して終わったよ、穏やかに天国で過ごしてね。私が命尽きたときに胸張って会えるようにするからね」と心の中で伝えたということです。
記者会見で松永さんが語った内容です。
長かった裁判が終わって安堵の気持ちと正直複雑な気持ちです。
何よりも知りたいのは過失を認めた上での控訴断念なのかということです。
彼は自分自身の過失を否定している状態です。
裁判所は判決で過失と認定したうえで、「納得できるのであれば罪を認めたうえで被害者に謝罪をして下さい」と言いました。
今のところ飯塚被告から「自分の過失だと思う」ということばは聞けていません。
私はその一言を言ってほしかったです。そのひと言だけでどれほど救いになったか。聞けなかったのが残念です。
自分のミスを受け入れるのは勇気がいることかもしれません。
しかし、客観的な証拠と向き合ってほしかった。過失を認めてくれはしませんでしたが刑務所に入ると決めたなら、罪と向き合う時間にしてほしい。
刑務所で過ごす5年の中で、自分自身の過失だったと素直に認める日がくれば、その日が本当のしょく罪の始まりだと思う。人間として他者を思いやる心を取り戻す5年間にしてほしいと思います。
私としては、免許を自分の意思で更新し運転を続けた結果、11人を死傷させたのであれば平等に罪を償ってほしいと思います。
高齢ドライバーの事故の遺族と話すことがありますが、いざ事故を起こしてしまったときに加害者が罪を償えないことは往々にして起こります。
ドライバーが亡くなってしまったり、裁判そのものもなかなか進まなかったりして、遺族はなんともやりきれない思いをするのが現実です。
だからといって高齢ドライバーに一律で運転させないとは言いません。
運転の適性がなくなった方を適切に判断する仕組みを作ること、免許返納をした方々をどう救済していくのか、今後、社会として議論していくべきだと思います。
そして、松永さんは「未来の話」として事故防止への思いを話しました。
裁判に参加しながら社会全体にとって本質的に大事なことを考えてきました。
本質的に大事なことは、この事故を教訓として、未来に起こる事故を防ぐことだと思います。
被告は事故前に運転をやめる選択肢を選べたはずだし、事故後の言動も不誠実だったので、ある程度の非難もしかたない側面はあります。
ただ、事故を起こしたくて起こしたわけではないと思う。
被告が“上級国民”や“逮捕されない”と非難されたことはこの事故の本質ではありません。
交通事故は年間30万件近く起きていて年間3000人近くの人が亡くなっています。
皆さんと本質として考えたいのは、どうすれば事故が防げるのかということです。
なぜなら、交通社会で生きる以上、誰しもが真菜や莉子のように被害者になり得るし、加害者になることもあります。私はどれにもなってほしくない。
だから皆さんと一緒に事故を1つでもなくしていきたいと思っています。当たり前の日常が事故で奪われないようにしたい。それが本質的なことですし、2人の命を無駄にしないことだと思います。
事故から2年5か月がたちました。
遺族の会に入って仲間とともに事故の撲滅を目指して活動してきましたが、裁判が終わったので今後はよりその活動に力を込めていきたい。国や自治体、自動車会社に提言をしていきたいと思います。
判決は過度の社会的制裁を受けたとして刑を求刑より軽くしました。健全な議論を越えて脅迫になったことは私は望んでいなかった。過度な制裁を理由に刑が軽くなったことは悲しく思います。
加害者もこれまで受けていたと思いますが、私もネット上でひぼう中傷を受けていました。被害者も加害者もひぼう中傷されない社会になればいいと思います。
ここまで冷静に淡々と思いを語っていた松永さん。
「記者会見はたくさんしてきたがこれが最後になると思う」と述べると、一瞬ぐっとことばをこらえたうえで、目に涙を浮かべながら、亡くなった真菜(まな)さんと莉子(りこ)ちゃんへの思いを語り始めました。
真菜と莉子への思いを話します。
2人に出会えて本当に幸せでした。たくさんの愛を教えてもらって、たくさんの愛をくれました。心から愛していると伝えたいです。
「交通事故を1つでも減らすことができたよ」って、自分の命が尽きたときに2人に言えるように生きていきたいです。
裁判が終わった今、やっと争いではなく、2人が愛してくれた私らしく生きていける。
これからは2人が愛してくれた僕に戻って、生きていきたいと思っています。
これまで応援をして下さった皆さま、私たちを支えてくれた皆さま、警察・検察の皆さま、ともに闘ってくれた家族や友人たち、心から感謝しています。
本当に2年5か月ありがとうございました。
そして、最後に「ハンドルを握る人へのメッセージ」を求められると、次のように述べました。
車はいいもので便利なものですばらしいものだと思います。
真菜と莉子とも車でいろんなところに行って思い出をたくさん作りました。
ただ、同時に人を傷つけるものになりうる。人の命を奪うものにだってなりうるということを心にとめていただきたい。
私は誰にも加害者にもなってほしくないし、被害者にも遺族にもなってほしくない。そのことを頭に置いてハンドルを握っていただきたい。それが多くの人に広がっていけば事故を減らせていけると思います。
26年前、逆恨みした男に妻の命を奪われた弁護士。老いや病と向き合いながらも力を振り絞り、犯罪被害者のために声を上げ続けている。絶望から立ち上がり、日本の司法を変えた闘いの軌跡
2023年7月28日
2人で敬礼する写真。左が父親の池内卓夫さん。隣に写る長男の将吾さんの結婚式で撮影したものです。将吾さんは父親に憧れて警察官になりました。立てこもり事件で殉職した父に伝えたいことがあります。
2023年5月29日
裁判員制度が始まって今月で14年。ことしから新たに18歳と19歳も対象となり、高校生も裁判員に選ばれる可能性があります。被告や被害者の人生を左右する責任は重く、辞退率も6割にのぼっています。「でも、参加して気づいたことがある」そう語る裁判員経験者たち。その後の人生にも変化が起きていました。