追跡 記者のノートから陸上自衛隊ヘリ事故 直前の10分間になにが

2023年4月12日事故

10人が乗った陸上自衛隊のヘリコプターが沖縄県の宮古島の周辺で消息を絶った事故。

捜索が続けられる一方、原因究明の最大の焦点となっているのが直前のヘリの状況です。

消息を絶つまでの10分間に何があったのか。

管制官との交信の具体的な内容などが明らかになってきました。

午後3時46分離陸「海岸線を飛行」

陸上自衛隊によりますと、ヘリコプターは航空自衛隊宮古島分屯基地を6日の午後3時46分に離陸。

空港の管制官と複数回無線でやり取りをしていました。

関係者によりますと、離陸前に「離陸します」「離陸していいですか」と宮古島の空港の管制官と交信したあと、「離陸しました」と連絡し、「海岸線を飛行します」と伝えていました。

陸上自衛隊が公表した航跡図からも、ヘリコプターが島の中央部にある基地を離陸したあとほぼ真北へ進み、海上に出るあたりで進路を北西に変え、海岸線に沿うようにして飛行したことがわかります。

宮古島の管制圏を出て飛行 その後下地島の管制圏へ

航跡図では、海岸線を飛行する途中で空港から半径およそ9キロの範囲に設定されている宮古島の管制圏を出たとみられています。

その後、ヘリコプターは宮古島の北にある池間島の周囲を反時計回りに周回し、南西の方向に向かっています。

管制官とのやり取りでは、宮古島の管制圏を出る際にも「いま出ます」と伝え、管制官は「周波数を変えてください」と伝えていたということです。

消息絶つ2分前に最後のやり取り

そして、午後3時54分ごろには隣接する下地島の空港の管制官から「下地島の管制圏に入ったら下地島の周波数で連絡ください」と伝えられると「了解」と応じました。

管制官との交信はこれが最後となりました。

その2分後、航跡図では進路をほぼ真南に変えたあとの午後3時56分に航跡が消えました。

2分間で何らかのトラブルか?

ヘリコプターには、緊急事態が起きた際に異常を知らせる電波を出す装置が設置されていますが、当時、航空当局などではこの電波が受信されていなかったことが、防衛省関係者への取材でわかりました。

「トランスポンダー」と呼ばれるこの装置は、操縦席に設置されていて、手動で操作することによって機体の情報を伝える電波を発信しますが、緊急事態を知らせる電波は受信されていないということです。

「トランスポンダー」は、飛行中の航空機の情報を航空当局などに電波で知らせるため装置で、操縦士が4桁のコードを手動で設定することで、発信される内容が変わります。

消息を絶ったヘリコプターは当時、目視による飛行を行っていましたが、防衛省関係者によりますと、目視による飛行を行う場合、通常は「1200」の数字に設定します。

一方、火災や故障などの緊急事態が起きた場合は、「7700」に変更して異常を知らせるということです。

「7700」に変更されると、電波を受信した管制塔などでは警報が自動で作動して、異常が起きたことに気付く仕組みだということです。

防衛省関係者によりますと、今回、消息を絶ったヘリコプターからは「7700」に変更したときの電波は受信されていないということで、「機体に急激な変化が起きた場合などは、装置を操作できない可能性は考えられる」と話しています。

「救命無線機」搭載も 救難信号確認されず

また、陸上自衛隊によりますと、消息を絶ったヘリコプターには、強い衝撃を受けたり浸水したりしたときに自動で救難信号を出して場所を知らせる「救命無線機」が搭載されていますが、これまでのところ、信号は確認されていないということです。

「救命無線機」は、航空法で一部の機体を除いて設置が義務づけられています。

陸上自衛隊によりますと、今回消息を絶った「UH60JA」では、右操縦席の後方に取り付けられ、飛行前に操縦士や整備員が電源を入れる手順になっているということです。

救難信号は、深さによるものの、水中であっても24時間以上発信を続け、位置情報の誤差は最大でも3キロ程度とされています。

防衛省関係者によりますと、電源が入っていなかったり、無線機が壊れたりした場合などは救難信号は発信されないということですが、今回、信号が確認されていない理由については、わからないとしています。

ヘリコプター トラブル時の対策は

今回事故が起きたヘリコプター「UH60」には、トラブルが起きた際のさまざまな対策が取られていました。

操縦士は2人乗っていて、1人が意識を失うなどのトラブルがあった場合には、もう1人が操縦することになっていました。

また、エンジンは画像の黄色で示されているところに2基搭載されていて、1つがトラブルで止まっても、飛び続けることができる構造になっているということです。

さらに2つのエンジンが同時に停止しても、落下する際の風圧を使ってローターが回転するオートローテーションという状態で緩やかに不時着することが可能とされています。

それでも今回、異常を知らせる装置を操作できないほど、急激なトラブルが起きた可能性があるとみられています。

陸上自衛隊でヘリコプターのパイロットも務めた元陸将の山口昇さんは次のように話しています。

陸上自衛隊元陸将 山口昇さん
「この機体は世界中で飛んでいて一番丈夫なヘリコプターのひとつです。たとえば、エンジンが壊れたとか回転翼の1枚が飛んだとか、それだけのことで簡単に落ちるような機体ではありません。いろんなことが複合的に起きたのではないか。おそらく乗員は最後の最後まで諦めていない。何とかしようと一生懸命だったと思います。とにかく機体を捜し出して、できれば持ち上げて、そうしないとこの事故の原因は全くわからないままになってしまいます」

陸上自衛隊によりますと、消息を絶ったヘリコプターは宮古島周辺の地形を確認するため目視による飛行を行っていたということです。

当時の気象状況は、風速7メートルの南よりの風が吹き、視界は10キロ以上、雲の高さはおよそ600メートルで、飛行する上で特に問題はなかったということです。

防衛省関係者によりますと、地形を確認するためにヘリコプターが飛行する場合の高度は、300メートルから500メートル程度が一般的だということです。

陸上自衛隊によりますと、消息を絶ったヘリコプターは1999年2月に製造され、これまでの飛行時間はおよそ2600時間だったということです。

この機体は、50時間飛行するたびにエンジンや部品の状態のほか、オイル漏れの有無などを確認する「特別点検」を先月20日から28日まで実施し、点検後の試験飛行を行った際は異常はなかったということです。

陸上自衛隊は、飛行中に急激なトラブルが起きたために、装置を操作できなかった可能性があるとみて調べを進めるとともに、隊員や機体の捜索を急いでいます。