追跡 記者のノートから【ことしの重大事件】安倍元首相銃撃事件 警察庁報告書詳細

2022年12月28日事件

ことしの重大事件、安倍元総理大臣銃撃事件。

事件は防ぐことができなかったのか。

警察庁がことし8月にまとめた警備の検証結果の詳報です。

7月8日、奈良市で演説中に安倍元総理大臣が背後から銃で撃たれて死亡した事件を受け、警察庁は襲撃を未然に防げなかった当時の警備について検証結果をまとめ、8月25日に公表しました。

報告書は、およそ40ページにわたって当時の警備について検証した結果をまとめています。

それによりますと、重大な結果を招いた最大の問題は、元総理大臣の後方の警戒が不十分で容疑者の接近を許したことだと指摘し、その要因として演説の直前に警察官の配置が変更され、前方の警戒に重点が置かれることになりながら情報共有されなかったうえ、手薄になった後方を警戒する警察官を補強するなどの指揮がとられなかったことなどを挙げています。

現場の問題1 “後方からの接近に気付かず”

なぜ襲撃を阻止することができなかったのか。
報告書では現場の警備の問題点を挙げています。

今回の事件では安倍元総理大臣に対し2回銃が発射されていて、1回目の発射までに容疑者の接近を阻止していれば襲撃を防げたとしています。

ただ、元総理大臣の後方の警戒に空白が生じたことで現場にいたすべての警察官が容疑者の接近に気付くことができませんでした。
ここに最大の問題があったとしています。

元総理大臣が演説を行った場所はガードレールで囲まれ当初SPを含む3人の警察官がその内側で警戒していましたが、演説直前にガードレールの外側にいた1人の警察官が内側に入り配置が変更されました。

この時、前方の聴衆が増えたことなどから警戒の重点が前方に移りましたが、こうした変更が現場の警察官どうしで情報共有されていなかったうえ、現場の責任者だった幹部も手薄になった後方を警戒する要員を補強するなどの指揮を取らなかったことで、隙が生まれたのです。

事件発生の直前に、一時、後方に注意を向ける機会がありました。
元総理大臣の真後ろを台車を押した男性や自転車が横切ったのです。

ただ、警察官たちはそうした動きに気を取られ目で追っていたため容疑者の接近を見落として、襲撃を許す結果となりました。

現場の問題2 “発射後の対応”

その後、容疑者が接近し銃を構えますが、いずれの警察官も認識していなかったうえ、1回目の発射音を銃によるものだと即座に認識していなかったといいます。

容疑者は、1回目の発射後に元総理大臣までおよそ5メートルの距離から2回目の発射をしていますが、至近距離からの発射を許した時点で、警察官が襲撃を阻止することは物理的に不可能だったとしています。

また1回目と2回目の発射の間にはおよそ2.7秒ありましたが、この間に安倍元総理を演台から降ろし伏せさせるといった措置は取られませんでした。

もし1回目の発射の際に状況をすぐに理解し防護板を掲げたり避難させるなどの措置を取れば、襲撃を阻止することができたかもしれないと分析しています。

元総理大臣からいちばん近いおよそ2メートルの距離にいた警視庁のSPについても前方を見ていたため後方からの容疑者の接近に気がつかず、すぐに銃撃を受けたと理解できなかったため対応が困難だったとしています。

警察庁は、今後の対策として、「銃の発射音」を聞き分けるための研修などを全国の警察に対し行っていくことを検討するとしました。

計画の問題1 “安易な前例踏襲”

警察庁は、後方の警戒に隙ができた要因として「警護・警備計画」の問題についても指摘しています。
今回演説が行われた同じ場所では、6月25日に自民党の茂木幹事長による街頭演説が行われていました。

しかし奈良県警はこの時の警護を安易に踏襲していて具体的な危険性については検討していませんでした。

計画の問題2 “組織的な危険性の認識が欠如”

現場はバスのロータリーがあるほか、多数の車両や歩行者が行き交い警護上の問題点がありましたが、後方の警戒は警察官1人で行うことになっていて危険性の認識が組織的になかったとしています。

また、奈良県警は警戒の重点を多くの聴衆が集まることによる不審者の飛び出しなどに置いていて、後方での不測の事態の対応を想定していなかったことも計画に不備につながったと指摘しています。

結果として、奈良県警本部長まで決裁を経たのにもかかわらず不備がある警護・警備計画が作成されたのは、その過程で必要な検討や指摘を組織的に行っていなかったことが原因だと総括しています。

警察庁の関与強めるなど 要人警護の抜本的見直し

「警護・警備計画」について、警察庁はこれまで地元の警察に作成を委ねていたほか、総理大臣や国賓などを除き事前の報告を受けておらず、危険性などを判断する仕組みになっていなかったとしてこれを改めるとしました。

具体的には警護の基本事項などを定めた「警護要則」をおよそ30年ぶりに刷新し、「警護・警備計画」の基準を示して地元の警察がこの基準に従って計画を作成できるようにしたうえで、警察庁が「警護・警備計画」の報告を受け修正点などを指摘できる仕組みを導入しました。

このほか、上空から状況を把握するためのドローンの活用や要人の周囲への防弾ガラスの設置など、新たな資機材も導入することにしていて、要人警護の運用について抜本的に見直すことになりました。

元警視総監 “終わりではなく始まり”

警察庁警備局長などを歴任した米村敏朗元警視総監は検証結果について「事実関係を正確に把握し問題点を率直に述べている点で評価できる。前例踏襲を繰り返す中で、ある種の慣れが生じており計画策定の段階で拳銃の発砲といった最悪の事態を想像し準備することができておらず、やはり失敗だったと言わざるをえない」としています。

また「現場で警察官たちがマニュアルなどを参照しながら警護にあたるわけではなく、現場で判断を行う指揮官の存在が非常に重要になる。ただ今回はその役割が極めて不十分でそうした人材の育成がこれからの大きな課題だ」と指摘しました。

そのうえで「今回の検証と見直しをして終わりではなく、これからが始まりになると思う。今後行われる警護をさらに検証し見直していくという不断の作業が必要になっていく」と述べました。

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