見ず知らずの人から突然、ダイレクトメールが送られてきた。
誰にも教えていないのに、他人に自分の住所を知られていた…。
そんな不安な経験をしたという人が今、相次いでいます。
いったいなぜなのか。
取材してみると、SNS上で“暗躍”する人物の存在と、その意外な素顔が浮かび上がってきました。
あなたのSNSは大丈夫ですか?
(社会部記者 安藤文音 江田剛章 徳田隼一)
2021年6月11日事件
見ず知らずの人から突然、ダイレクトメールが送られてきた。
誰にも教えていないのに、他人に自分の住所を知られていた…。
そんな不安な経験をしたという人が今、相次いでいます。
いったいなぜなのか。
取材してみると、SNS上で“暗躍”する人物の存在と、その意外な素顔が浮かび上がってきました。
あなたのSNSは大丈夫ですか?
(社会部記者 安藤文音 江田剛章 徳田隼一)
「全く心当たりがなく、本当に怖くなりました」
こう話すのは、都内に住む20代の女性です。見知らぬ男にSNSのアカウントを特定された経験があるといいます。
女性は去年9月、電車の中で見知らぬ男に突然、スマートフォンのカメラを向けられました。
恐怖を感じ、そのまま電車を降りて自宅へ向かいましたが、男も同じ駅で降り、無言で後をつけてきたといいます。
このままでは自宅を特定されてしまうと考えた女性は、再び駅まで走って戻り、電車で別の駅へ。男の姿は見えなくなったということです。
ところがその後、インスタグラムとツイッターのアカウントに身に覚えのないダイレクトメールが届きました。
内容は、いずれも女性をホテルに誘うもの。驚いて相手のアカウントを確認すると、そこには後をつけてきた、あの男の顔写真があったということです。
なぜアカウントを特定されてしまったのか。
身に覚えのない女性は、恐怖でしばらく自宅から出られなくなったといいます。
こうした経験から、女性はSNSの投稿を他人に見られない設定に改め、それ以来、男からの接触はなくなったということです。
女性は次のように話していました。
都内に住む20代の女性
「特定された理由は今でも分かりません。ただ、SNSには友人と行った観光スポットや自宅で撮った写真も投稿していたので、自宅まで特定されていたかもしれないと思うと怖くてしかたがないです」
こんなことが起きてしまう背景には何があるのか。
手がかりを探っていると、ある関係者から「『特定屋』と呼ばれる人たちがいるらしい」という情報が寄せられました。
個人情報を割り出す作業を行っていて、SNS上で第三者からの依頼に応じているとのこと。
早速SNSで検索してみると…。
「住所割り出します」
「住所特定代行始めました」
それらしいアカウントが次々にヒットしました。ざっと見ただけで40以上はあるでしょうか。
中には「特定してくれた人には報酬あげます」といった、依頼主とみられる投稿も確認できました。どんな人たちが、何の目的でやりとりしているのか?
私たちはNHKの記者であることを伝えたうえで、「特定屋」とみられる複数の人物にSNS上で取材を試みました。
すると「滋賀県の30代の会社役員」という人物から返信が。
5年前ほど前から個人情報を割り出す作業を請け負い、これまでに数百件を取り扱ってきたといいます。
この「会社役員」によると、依頼主は学生や主婦、高齢者などさまざま。多くはネット上で詐欺の被害にあったり誹謗中傷を受けたりした人で、加害者を特定してお金を取り戻したい、警察に相談したいといったケースだといいます。
報酬は1件当たり1500円から1万円程度。
SNSの投稿などをもとに、氏名や住所、電話番号などを早ければ1時間で割り出せるということです。本人いわく、成功率は9割。
一方、具体的な特定の方法については「機密事項のため教えられない」とのことでした。
依頼主は詐欺などの被害者が多いということですが、冒頭の女性が経験したようなつきまとい行為に悪用されたり、トラブルになったりすることはないのでしょうか?
それについて尋ねると「トラブルに巻き込まれたケースはあります」。
私たちは詳しく知りたいと面会を申し込みましたが断られ、これ以上話を聞くことはできませんでした。
起訴
・検察官が裁判所に刑事裁判を開くよう訴えを起こすこと。拘置所
・法務省が管理する施設で、主に刑事裁判が終了していない被告人や死刑囚が収容されている。面会に応じた人物によると、被害者の女性とは3回会った後、連絡がとれなくなったといいます。
当時、知っていたのは女性の氏名と年齢、それに大学生ということだけ。居場所を知りたいと思いインターネットで検索したものの、それ以上の情報は出てきませんでした。
そこで、本来の目的を隠し、ツイッターを通じて「特定屋」に5000円で調査を依頼したということです。
すると3日後、「女性のツイッターアカウントを見つけた」と早速連絡があったといいます。
さらに住所まで割り出してもらったうえで、それらの情報をもとに通っている大学を特定。
女性を誹謗中傷する電話をかけたほか、女性あての郵便物を勝手にほかの住所に転送するなど、嫌がらせを繰り返したということです。
どうやって個人情報にたどりついたのか、「特定屋」に聞くと「SNSの写真に記録された位置情報から割り出した」と、その手法の一部を明かしたといいます。
取材に対し、この人物は次のように話していました。
ストーカー行為で有罪判決を受けた人物
依頼した時は正直、期待していなかったが、すぐに個人情報を割り出してくれたのですごいと思った。
『特定屋』に依頼していなければ、法律を犯してまで女性に嫌がらせをすることはなかったと思う。怖い思いをさせてしまい申し訳なかった。
犯罪に悪用されるリスクが明らかになった、「特定屋」による行為。
彼らがどんな思いで依頼に応じているのか知りたいと、私たちは関係者への取材を続けました。そしてついに、直接インタビューに応じてもいいという「特定屋」の1人に出会いました。
待ち合わせ場所は大阪市内。
どんな人物が現れるのだろうと緊張して待っていましたが、その姿を見たとたん驚きました。
ごくごく普通の、20代のおしゃれな女性だったのです。
この女性、小学生の頃からSNSの投稿をもとに知り合いのアカウントを特定するのが趣味だったといいます。
その趣味が高じ、6年ほど前からは友人の依頼を受けて個人情報を割り出すようになりました。
依頼される内容は「元交際相手の居場所を知りたい」とか「お金を貸した相手に逃げられたので取り返したい」といったものが多いということです。
女性の場合、友人の依頼は無料で引き受けますが、他人の場合は1000円から5000円ほどの報酬を受け取ることもあるといいます。
なぜ「特定屋」として依頼に応え続けているのか?抱えていた疑問をぶつけると、女性からは意外な答えが返ってきました。
非日常を味わえるからです。料理をするとか風呂に入るとか、ふだんしなければならないこととは違うことをしている。それが楽しいんです
人助けが7割、暇つぶしが3割という感覚ですね
さらに、女性は個人情報を特定するための手法を私たちに明かしました。
1つめは、SNSに投稿された画像の分析です。
画像に記録された位置情報に加え、写りこんだ風景や物を手がかりに場所を絞り込んでいくといいます。
例えば、飲食店で撮影された画像なら、写っている料理や食器の特徴をもとにグルメサイトなどで検索し、店を割り出します。
また、マンホールなど自治体によってデザインが異なるものも大きな手がかりになるということです。
2つめは、投稿された停電や電車の運転見合わせなどの情報です。
投稿された時間をもとにネットで調べれば、住んでいる地域をある程度絞り込めるといいます。
そして3つめは、SNSの投稿を他人に見られない設定にしている、いわゆる「鍵アカ」を対象にした手法です。
女性は、たとえ「鍵アカ」でもプロフィールの写真などからその人の趣味や好みを推測できるとしています。
そして共通の趣味を装ってコンタクトをとり、フォローしてもらったうえで投稿の内容を確認するというのです。
「特定できた時の喜びは大きい」と話す女性。もちろん、人助けにつながることもあるかもしれません。
しかし、個人情報を割り出された結果、ストーカーなどの被害に遭う人がいる現実を考えると、特定する側の意識とのギャップを感じずにはいられませんでした。
最後に、私たちは特定した個人情報が犯罪に悪用されるリスクについてどう考えているのか尋ねました。
すると女性は、知り合いの「特定屋」がトラブルに巻き込まれたことがあると明かしたうえで、次のように話していました。
見ず知らずの人からの依頼はなるべく断るなど注意はしていますが、危ない橋を渡っているという意識はあります
これまで提供した個人情報が事件に使われたかもしれないと思うと、後ろめたい気持ちがあることも事実です
ごく普通の若者が「特定屋」として依頼に応じている実態。正規の届け出をして業務を行っている調査会社などからは、命の危険につながりかねないと懸念する声も上がっています。
都内で探偵業を営む宮岡大さんは、9年ほど前に忘れられない経験をしました。
当時勤めていた事務所に、ある男からメールで依頼があったというのです。女性の居場所を探してほしいという内容でしたが、メールに不審な点があったことから事務所はこれを拒否。
実はこの男、神奈川県逗子市で起きたストーカー殺人事件の加害者だったことが後になって分かったということです。
リスクを実感した宮岡さんは、3年前に「SAVE ME」というサイトを立ち上げ、ストーカーの被害者が加害者に住所を特定されるのを防ぐ取り組みを始めました。
具体的には、サイト上で転居先を特定されたくない被害者を募り、加盟する探偵業者の間で共有することで、加害者から依頼があっても応じない仕組みを作っているということです。
しかし、こうした取り組みの一方で「特定屋」のような行為が広がれば、犯罪に悪用されるケースが増え、場合によっては被害者の命の危険につながりかねないと宮岡さんは危機感を持っています。
探偵は、面談で直接依頼を受けなければならないという法律がありますが、それでも依頼者の真の目的を見抜くのは難しい
『特定屋』が提供する情報で最悪の場合、殺人事件に至るケースもあり得るということを自覚してほしい
では「特定屋」による行為自体を取り締まることはできないのでしょうか?
これについて、SNSのリスクに詳しい東京都立大学の星周一郎教授は「誰もがアクセスできるネット上から個人情報を集めるため、犯罪に悪用されたとしても直ちに取り締まることは難しい」と指摘します。
ただ、悪用されると分かっていて依頼を受けた場合は、犯罪のほう助に問われる可能性があるということです。
そのうえで、星教授は次のように話していました。
スマートフォンがこれだけ普及し画質も向上する中、SNSに投稿した本人が意図していない情報が読み取られ、居場所などを特定されてしまうリスクは相当高まっています
私たち利用者側もSNSの投稿などが思わぬ影響を与えることを常に意識し、自衛のための措置を講じていかなければなりません
警察庁によると、ストーカー被害の相談件数は8年連続で年間2万件を超えています。SNSが日常生活と切っても切り離せなくなった今、無意識のうちに流出する個人情報をどのように管理していくのか、一人一人が考えなければならない時代になったのだと改めて感じました。
そして「特定屋」をめぐる状況が今後どうなっていくのか、これからも現場で取材を続けたいと思います。
社会部記者
安藤文音 2013年入局
大津局、大阪局を経て
2020年から警視庁担当
趣味はウクレレ
社会部記者
江田剛章 2013年入局
徳島局・名古屋局を経て
2020年から警視庁担当
趣味はデカ盛りラーメン食べ歩き
社会部記者
徳田隼一 2014年入局
福井局・山口局を経て
2020年から警視庁担当
趣味はプラモデル製作
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