追跡 記者のノートからきっかけは1件のツイート 非常電話“8割故障”のわけ

2022年3月30日社会

「名阪国道、非常電話で連絡しようとおもったけど、全部故障してる。一体どうなってんのよ」。

こんな内容のツイートがあるという連絡が、メールで届きました。

非常電話は、高速道路や自動車専用道路などで、いざというときに大切な存在。

それがなぜ故障しているのか…。

取材を始めると、インフラをめぐる“変化の兆し”が見えてきました。

(津放送局記者 周防則志)

SoLTから届いたメール

東京・渋谷にあるNHK放送センター。

記者やデスクが集まる、いわば取材の中枢部分に「SoLT」=「Social Listening Team」はあります。「SoLT」では、ツイッターなどソーシャルメディア上に投稿された事件や事故の一報のほか、ネットで話題になったり、“炎上”したりしている事案を1年365日チェック。必要な情報を全国各地のNHKの放送局にいる記者などに知らせています。

私のもとにも、火事や交通事故などの情報が週に何度か届き、取材にあたっています。

その中でも、メールで寄せられたこのツイートは特に目を引くものでした。

名阪国道の、針から亀山方面に走ってたら、途中に金属の台みたいなの落ちてた。あぶないから、非常電話で連絡しようとおもったけど、全部故障してる。一体どうなってんのよ

いいねは1件、リツイートは0件とほとんど拡散していない情報です。

全部故障?どういうことだろう?

疑問に思った私は、すぐに名阪国道を管理する国土交通省の北勢国道事務所などへ取材を始めました。

すると、落下物についてはすでに撤去されたとのこと。

そして、非常電話の一部が壊れているのはそのとおりだということ。

さらに分かったのは、非常電話が並ぶこの区間は、トンネル以外はそもそも非常電話の設置が義務付けられていない無料の道路だったということでした。

義務じゃない場所なのに、なぜ非常電話が?

そしてなぜ故障していたのでしょうか。

ここも、次も、その次も…みんな故障

ツイートをした、大阪市在住の「ぢぞう」さんは、この日、大阪から滋賀県の信楽に向かう途中で、バイクで名阪国道を走っていたといいます。

道路上に落下物を見つけたため、一番近くにある非常電話で通報しようとしたそうです。

しかし、たどりつくと「故障中」の貼り紙。

それならしかたないと、次の非常電話に向かうと…なんとそちらも「故障中」。

不審に思い、そこから先は非常電話に注意してバイクで走っていくと、確認できたすべての非常電話が使えなくなっていたというのです。

ぢぞうさん
「最初に見たときは、機械の切り替えでもするのだろうかと思ったのですが、その後調べてみても更新工事のお知らせなどが出ておらず不思議に思っていました。『いまどき、携帯電話があるよ』という考えもあるかもしれません。でも、非常電話を1度使ったことがあるのですが、つながると場所が相手に自動でわかる仕組みなので、知らない土地でも安心できます。公衆電話がなくなっていくような、時代の移り変わりとも言えますが、やはりないのは不安ですね…」

「ぢぞう」さんの言うように、携帯電話が普及しているとはいえ、高速道路や交通量の多い幹線道路で車を路肩に止めて連絡先を調べて電話をして、自分のいる場所を説明して…というのは土地勘のない場所では難しいと思います。

8割以上が故障していた

『非常電話が複数故障しているという話もあるが』という問い合わせに対しての国道事務所からの回答は…

「現在、名阪国道に設置されている非常電話136台のうち、116台が経年劣化などで故障しています」。

その数全体の8割以上。トンネル内を除くと、すべてが故障していたのです。

北勢国道事務所によると、古くて部品が製造されていない電話もあり、更新が難しい状態だったため、電話線を抜くなどして意図的に使えないようにしている電話もあったということです。

今回の取材を受けて国道事務所は、設置が義務付けられているトンネル内を除き、ことし3月までに非常電話をすべて撤去しました。

北勢国道事務所は、「名阪国道には130台以上のカメラが設置され、道路の状況を24時間監視する態勢をとっている。事故や落下物などがあってもすぐに対応でき、安全な道路管理体制には変わりはない」としています。

なぜ非常電話が?

では、なぜ非常電話の設置が義務付けられていない無料の自動車専用道路に多くの非常電話が設置されていたのでしょうか。

三重県の亀山インターチェンジと奈良県の天理インターチェンジの間を結ぶ「名阪国道」。

亀山インターチェンジでは、名古屋につながる高速道路の東名阪自動車道と、天理インターチェンジでは、大阪につながる高速道路の西名阪自動車道とそれぞれ接続しています。中部圏と関西圏を結ぶまさに“大動脈”です。

非常電話はこの名阪国道のうち、北勢国道事務所が管理する、亀山インターチェンジから奈良県の針インターチェンジまでのおよそ60キロの区間の上下線に設置されていました。

“大動脈” 経緯が影響か

国土交通省などによると、有料の自動車専用道路の場合、非常電話の設置は義務ですが、無料の場合は一般国道に分類され、トンネルを除き設置は義務ではなく、必要に応じて設置するものだということです。

交通政策に詳しい関西大学の安部誠治教授は、名阪国道に非常電話があったのは、この道路ができた経緯が影響しているのではないかと話します。

安部誠治教授
「当初、国は名古屋と大阪の間すべてを有料の自動車専用道路で結ぶことを計画していたんです。しかし、奈良県と三重県からの要望を受けて、現在の名阪国道にあたる部分を無料の自動車専用道路として整備することになったんですね。名阪国道は無料ではありますが、いずれも有料となっている現在の東名阪自動車道や西名阪自動車道と一緒に整備される中で、非常電話が設置されたのではないでしょうか」

つまり、名古屋から大阪を結ぶ道路のうち、東部分にあたる東名阪自動車道と、西部分にあたる西名阪自動車道は有料なので、非常電話が必要で設置。その2つの間の部分にあたる名阪国道も、その流れで非常電話が設置されたのではないかというのです。

また、非常電話が使えない状態のままになっていたことについては次のように話しました。

安部誠治教授
「携帯電話が普及するのに伴って、非常電話が使われなくなっていく。その中で、故障したとしても修理されずに、そのまま放置されたのではないでしょうか。利用者が使おうと思ったときに使えないのも、誤解を招く可能性もあります」

一方で、東名高速道路などを管理するNEXCO中日本によると、名古屋支社管内だけでも、去年1年間でおよそ1万3800件の非常電話の利用があったということです。

「ぢぞう」さんのように落下物を見つけて電話をしたケースも多いほか、電話がつながると自動的にいまいる場所がNEXCOに自動でわかる仕組みのためスムーズな対応につながったケースも多いということです。

誰もが携帯電話を持つようになったからといって、すぐに非常電話がなくなるというわけではなさそうです。

取材後記

私も取材に行くとき、名阪国道を利用していましたが、今回のツイートによる指摘があるまで非常電話が故障している事実に気づきませんでした。

日々何気なく利用しているものに思わぬ落とし穴があるかもしれない。今後は、アンテナをさらに高く張り巡らせることで、こうした落とし穴に気づいて、深掘りできるような取材を続けたいと思いました。

  • 津放送局記者 周防則志 2020年入局 “地域の課題を解決する”報道を目指している。