追跡 記者のノートから解約したのに… “無料”ネット求人広告に注意

2021年1月7日不正 社会

きっかけは以前取材でお世話になった医療従事者からの電話でした。

「無料と言われて契約したら高額の請求書が送られてきたんです」

求人サイトに「スタッフ募集」の広告を載せたところ、トラブルに巻き込まれたといいます。

私は“無料”をうたう求人サイトの実態について取材を始めました。

(首都圏局記者 古市駿)

「無料で求人広告出しませんか」

記者

相談の電話がかかってきたのは、11月中旬。
相手は去年初めに新型コロナの取材で協力してもらった医療従事者の女性です。

記者

お久しぶりです。
何かありましたか?

突然なんですが、×××という会社を知っていますか。
ハローワークに求人を出したら、その情報を見たという×××社から「無料で求人広告を出しませんか」と電話がかかってきたんです

医療従事者の女性

無料だというので契約したら後日、高額の請求書が送られてきて、督促の電話もたくさんかかってきて困っています

医療従事者の女性

話を詳しく聞くと、女性は医療サービスを提供する事業所を新たに立ち上げ、スタッフを募集しようとした際にトラブルに巻き込まれたとのこと。

私は当初、振り込め詐欺のたぐいではないかと思いました。

記者

話を聞く限り支払う必要はないと思いますが、しつこいようなら消費生活センターなどに相談してみてはいかがですか?

ところが女性は次のように言いました。

もう相談しました。
でも消費生活センターは企業と企業の契約においては間に入れないみたいなんです。従業員も怖がっていて警察にも相談しました。仕事にも身が入らずどうすればいいのかわからなくて…

医療従事者の女性

口調からは切迫した雰囲気が伝わってきます。

すぐに解決策は思いつきませんでした。
そこで同じようなトラブルが起きていないか調べてみることにしました。

するとトラブルにあったというSNS上の書き込みがいくつも見つかり、弁護士などが注意を呼びかけていることがわかりました。

求人広告のサイト

想像よりも広範囲でトラブルが起きているのかもしれない。

私は医療従事者の女性に対し、急いで支払いをせずに弁護士に対応を依頼するよう伝えました。

「不要なら解約してください」

福祉施設を経営する女性

さらに取材を進めると、具体的な手口がわかってきました。

話を聞かせてくれたのは、近畿地方で福祉施設を経営する女性です。

この女性も感染状況が落ち着いたことからことしの年明けに開設予定の施設のスタッフを募ろうと去年9月、ハローワークに求人情報を載せました。

するとハローワークに求人情報を出したのを見たという業者から「無料で求人サイトにその情報を載せないか」と、勧誘の電話が次々にかかってきたといいます。

そしてこのうちの1つの業者と、「3週間無料で掲載」という内容で契約を結ぶことにしました。

(福祉施設経営の女性)
「3週間無料と言われ、応募があればいいなと思って申し込みました。『ハローワークに掲載されている内容をそのまま載せるので、お客様の手間は取らせません』と。無料だったらいいかなと思い、疑うことはなかったです」

業者はすぐに広告の内容を提案してきて、まもなく求人サイトに広告が載りました。

このとき業者はこう言ったそうです。
「とりあえず3週間やってみて不要であれば解約してください」

申込書には、次のような内容が小さな文字で書かれていました。

<申込書に書かれていた内容>
▼掲載プランはすべて自動契約
▼解約の申し出はメール、FAX、郵送のいずれかに限る
▼掲載期間中に解約を申し出る書面として使うことができる書類を後ほど送る

ただ、これらの項目について業者から口頭での説明はなかったといいます。

届いた17万円の請求書

広告の効果もなかったため、女性は10月末までの無料期間をもって解約したい旨を書いてFAXを送りました。

ところが…

数日後、女性の元に掲載料の支払いを求める請求書が届きました。
金額は17万円でした。

届いた請求書

あわてた女性は業者に電話しましたが、つながりません。
しかたなく解約の申し出をFAXで送ったことをメールで連絡しました。

しかし業者から返ってきたメールに目を疑いました。

「ファックス受信は1件もない」と記され、解約の申し出がなかったため契約は自動更新され、有料の契約に移行したと書かれていたのです。

業者からの返信メール

そして非通知の電話が連日かかってくるようになり、電話をとると業者から「なぜ電話に出ないのか」と強い口調でとがめられ、支払いを迫られたといいます。

(福祉施設経営の女性)
「契約の際に詳しい説明はなく、今思えばあれで契約と言われるとぞっとします。ただ申込書をよく見ると解約方法は書いてあったのでそのとおりにしたのにトラブルになりました。丁寧さに欠けてひどいなと感じました」

その後、理由はわかりませんが業者からの電話は止まり、12月に「契約解除通知」と書かれたメールが突然送りつけられてきたということです。

記者が業者を訪ねると

業者は何者なのか。
高額請求を繰り返しているとされる業者のサイトに書かれた住所を訪れました。

そこは都内のターミナル駅からほど近い、雑居ビルの1室でした。
郵便ポストにはサイトの運営会社とは異なる商号が書かれ、その会社の名前は見当たりません。

後日、別の業者のサイトに書かれていた住所を調べていると、私が訪れたビルの1室と同じ住所が記載されていました。

業者に接触できませんでしたが、こうしたトラブルに詳しい高良祐之弁護士は、同じグループで複数の会社や求人サイトを作っている可能性が高いといいます。

(高良弁護士)
「トラブルになった業者の住所を調べてみると大半が首都圏のレンタルオフィスでした。そのオフィスに複数の業者が登録していたり、業者の名前が違っていても契約書の書式が同じだったりします。中には一度載せた求人広告を勝手に別の業者のサイトに掲載されたというケースもありました」

高良祐之弁護士

勧誘方法の特徴は

もちろん無料期間を設けている業者がすべて悪質なわけではありません。
トラブルになるのは一部の業者です。

ただ高良弁護士は、新型コロナの感染状況が落ち着き企業の求人が増えたことで、トラブルが拡大するおそれがあると指摘します。

(高良弁護士)
「2018年からトラブルが増え始め、同じような業者がどんどん増えていきました。新型コロナが広がった2020年は少し下火になっていましたが、コロナが収まってきた頃から、再び企業からの相談が目立つようになりました」

そのうえで悪質な業者の勧誘方法にはいくつかの特徴があるとしています。

<勧誘方法の特徴>(高良弁護士による)
▼中小企業などに「ハローワークで求人を出しているのを見た」と勧誘の電話をかけてきて“無料”を強調し、広告掲載を持ちかける。
▼“無料”期間が過ぎると自動で契約が更新されて料金がかかる仕組みや解約の方法について口答では詳しい説明を行わず、契約書類にわかりづらい文面で書かれている。
▼解約の申し出を電話では受け付けない。「後日、解約に必要な書類を送る」と言いながら、送ってこない。

高良弁護士は、各地の弁護士が参加するメーリングリストによる連絡会を立ち上げ、対応策の検討にあたっています。

11月に各地の弁護士から報告された新たな相談件数は30件近くに上りました。
勧誘の対象となりやすい企業や団体については、次のように述べました。

(高良弁護士)
「特に狙われているのは、慢性的な人手不足となっている個人経営の医療機関や介護施設など規模が小さいところです。業者は少なくとも30から40ほど確認できるので、表になっていない分を含めるとトラブルは数千件に及ぶ可能性があると考えています」

トラブルに巻き込まれないためには

トラブルに遭わないためにはどうすればいいのか。

<注意すべき点>
▼勧誘の電話がかかってきたら、契約前に料金が発生する仕組みや解約の方法などについて詳しい説明を求め、疑わしい点があれば安易に契約しない
▼契約してしまった際は、郵送する書類の内容などが記録される「内容証明」を使って解約する意思を伝える書類を業者に郵送する

そして、こうした勧誘などによって結ばれた契約は成立しているとは言えないとして、請求を受けた場合は各地の弁護士会を通じて消費者トラブルに詳しい弁護士に相談するよう呼びかけています。

求人広告を扱う会社の業界団体(全国求人情報協会)も11月から改めてホームページで注意を呼びかけていて、「一部の悪質業者のトラブルは、求人サイトの社会的な信頼を損なうもので一日も早く撲滅されるよう、周知啓発に取り組んでいく」としています。

取材後記

高良弁護士はインタビューの最後にこうつぶやきました。
「おそらくかなりの数の企業が支払ってしまったと思うんだよね」

“無料”をうたうすべての業者が悪いわけではありませんが、詐欺まがいの契約を結ばせようとする業者はいます。

過去には広告の掲載を依頼した企業が支払いに応じないとして、業者側が弁護士を立てて「裁判を起こす」と支払いを迫ったケースもあったということです。

ただ高良弁護士によりますと、裁判では訴えられた企業側の主張が認められ、こうした勧誘方法や説明によって結ばれた契約については支払う必要はないとして、業者側の訴えが退けられています。

コロナ禍で厳しい経営状況にさらされる中、求人を出した企業の気持ちにつけ込む卑劣なやり方は決して許容できるものではありません。

皆さん、契約の際はくれぐれもご注意ください。

  • 首都圏局記者 古市駿 2013年入局
    大阪局、さいたま局での警察担当などを経て現所属
    新型コロナでは医療従事者などを多く取材

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